元アイドルの男(2)
俺は、東京で育ったんだ。
言っちゃ悪いけれど、顔がいいという理由で結構モテてた。
小学校、中学校、高校、大学……。ずっと、顔はいいからという理由で、モテてた。
どのくらいかっていうと、2日に1回ラブレター、3日に1回デートのお誘い、5日に1回呼び出されての告白、7日に1回ストーカーに付きまとわれる……これくらいだ。
大学を卒業したころ、これからどうしようかと悩んでいたら、アイドルのオーディションをやるって書いてあったから、モテてたほうだしって、行ってみた。
オーディションの内容は、歌、ダンス、演技だった。
何で、演技の審査なんかいれたんだ?
って後で聞いたら、ファンの前で、ファンが望む姿でいられるのかを試したのと、
演技力、表現力メインでやっていくっていうコンセプトがあったからなんだって聞いた時、
思わず真面目かよ!って突っ込んじまったっけなあ。
20人くらいから、この歌、ダンス、演技で、2人に減らすって言ってた。
無理かなって思ったけど、ダメもとでやったら、1週間後に合格って通知が来て、驚いたっけなあ。
そっからは、メンバーと一緒に、何でもかんでも、片っ端からやった。
路上ライブから始まって、小さなライブ会場、屋外の大きな野外ホール。
SNSのアクセス数が毎日増えていた時が一時期あって、皆で、どれくらい増えているかをかけたりしていた。俺は惨敗……。いつも、俺の言った数字の倍くらいのアクセス数だったんだよな。
アクセス数が10万に届きそうになった時、社長から呼び出されて、デビューだって言われた。
一瞬何言ってるか皆わかんなかったみたいで、5秒間くらい、皆で固まってた。
5秒後にやっと意味が分かって、楽しくて嬉しくて、皆でこれからの話をして、笑いあってた。
デビューに関する思いを歌に込めて、デビューライブを大きなホールで行った。
皆が盛り上がってるのが見て取れて、俺たちも盛り上がって、またお客さんが盛り上がってって、楽しかった。
このライブの後に、記者会見がすぐあったんだけど、ライブはどうでしたか?って聞いてきたら、皆で、楽しかった!って答えたんだよな。
そん時に気持ちが一つになった気がして、心が暖かくなったんだ。
……5年たった。自分でいうのもあれだけど、俺たちの勢いは止まらなかった。
でも、ちょうど6年目のデビュー日っていう日に、俺たちのプロデューサーがはめられた。
そして俺たちは、解散するしかなくなった。
解散してから、俺は、何をするのも嫌になった。
生きることも嫌になった。
だから、デビューライブをした、あの大きなホールで俺は自殺したんだ。
あの思い出の場所で、1番最後の思い出を作ったんだ。
読んで頂き、ありがとうございました!