おもろいことになってきたで~!
順調に明王との距離を縮めつつある如月と、
何やら進展があった面々。
従業員全員で、掃除をすることになったが・・・?
天衣さんの様子がおかしい。
そう思い始めたのは、四月の中旬からだった。
何か吹っ切れたのかいつも以上に元気になった美宇さんに対し、天衣さんは今まで忘れられかけていたドジっ子体質が悪化していた。
動揺しているのか、働く天衣さんはどこかそわそわしてて落ち着きがなく、つくため息の数も増えていた。
今日も今日とて危なげに掃除をする様子は、神宮さんから見ても不安をそそった。
「あいつ本当大丈夫かよ」
「なんか、ひどくなりましたよね……」
「そういや進路相談からずっとあんな調子やで? 本人曰く就職先には問題ないみたいやけど」
就職先には問題ないみたいってことは、違う何かが原因ってこと?
うーん、他に心当たりは……
「ちわーっす! うわ、マジで掃除かよ! 埃くっさ」
「ちょいリュウ! 来てすぐ埃くさいやないやろ! はよぅ着替えてきぃ!」
「えー、めんどくさいなあ」
文句たらったらでやってきたのは、もちろん輝流さんだ。
輝流さんがまう埃を払っている横から、ぬっと現れた人影に私は顔をしかめた。
ポケットに手を突っ込んだまま、口に加えていたタバコをふっと吐く。
「よぅ、水瀬。見ない間に縮んだな。身体測定はうまくごまかせたか?」
「尾上さん。私は縮んでませんし、身体測定で不正もしてません。結果は百四十八センチでしたが」
「そりゃ測定が悪いな。百三十の間違いじゃねぇの?」
ムキ~~~~~~!!!!
こうやって人を小バカにするのは言わずと知れた、尾上魁皇ただ一人。
臨時職員のため、新学期になってからは初めて顔を合わせる。
なのにこの始末……一発殴りたい……
「おう、来たか。二人とも、すぐで悪いが頼む」
「王様~掃除ならちゃんと言ってよ~。せっかくの休みが、掃除でつぶれるのやだよ~」
「文句言うくらいならこのバイトやめろ。お前は水瀬の加勢しな」
「あ、にがっちゃんとならいいや♪」
む、なんだその言われようは。
と思ったけど、ただ単に美宇さんとが嫌なだけかもしれない。
美宇さんの潔癖症は、輝流さんと不釣り合いだからなあ……
「んで尾上は、桜庭と台所の整理を頼む」
「桜庭と? ……分かりました」
「ひえぇ!? お、尾上さん!」
すると、新しい皿を出していた天衣さんが顔をのぞかせた。
尾上さんが気楽に挨拶しようとする直前、彼女は悲鳴をあげながらどこかへ……ってなにこれ。
「……チューン、ついに避けられるほど嫌われたね」
「……顔合わせづらいってだけだろ。ま、俺も同じなんだが」
そう言いながらも明らかに落ち込んでいるのが、声の様子で分かる。
これにはさすがに、私と美宇さんが反応しないわけがない。
私は美宇さんと顔を見合わせると、大きくうなずいた。
「マスター、掃除中止や! 何やらおもろいことになってきたで~!」
「またあとでやりますので、ちょっと行ってきます!」
「おい、水瀬! 鈴木!」
神宮さんの叫びにごめんなさいと心の中で連呼しながらも、これから起こることにワクワクが止まらなかった。
店に入る裏口付近にて……
そこには天衣さんがいた。三角座りの中に顔をうずめている。
「天~衣♪」
のんきな美宇さんの声にびくっと背中を揺らす。
天衣さんはゆっくりこちらを振り返ると、私達を見て安堵の息をついた。
「美宇ちゃん……如月さん……」
「大丈夫ですか? 尾上さんに、何かされました?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「おかしくなった時から何とな~く勘づいてはいたが、さっきので確信したわ。あんた、恋……しとるやろ?」
美宇さんの意地悪な一言に、天衣さんの顔が真っ赤へと変わる。
ははあ、やっぱりそうかあ。
さっきの反応的に相手は尾上さんだろうなあ。ようやくかと思うと、少しホッとする。
「隠さんでもええやん。尾上が気になっとるんやろ?」
「……はい……」
「いつからですか?」
「一か月前くらいでしょうか。少し、色々ありまして」
色々って何だろう。
問いただしたい気持ちもあったが彼女があんまりにも顔を赤く染めるものだから、かわいらしくて何も言えなかった。
あんなに恋には鈍感な天衣さんでも、やっぱり恋するんだなあ。
それが尾上さんっていうのがなんか納得できないけど。
「私……ひどいこと、しちゃいました……嫌われたかもしれません……」
「そんなこと、あるわけないやろ」
「不安なんです……私みたいな人が尾上さんを好きになるなんて」
そういえば、私もそうだったな。
私みたいな人が告白しても、大丈夫かなって。
神宮さんと付き合ってから、毎日が幸せでたくさんの人に支えられて。
こんな天衣さんをほっとけるわけがない。
気が付くと私は、店内の方に歩き出していた。
(つづく!!)
最近ではしくにくのメンバーだけでなく、
遊部などの最近のキャラたちも迷子になることが多いです。
やはり年数がたつと、忘れていくもんなんですよね・・・
それが今は、ただただつらいです。
次回、第一部以来の念願がついにかなう!?