Ch
「ありがとうございました〜、またおこしくださいせ〜」
俺はいつからか、リモコンでチャンネルを変えるように、視界を変えれる様になった。街で気になる女性を見掛けて、その人になる。見てた時は揉みごたえのある乳房をしてたけど、いざ本人になってみると重たいリュックを前にしょってる様な感覚になり一気に肩が重くなる。通りすがりの男達の視線が、夏の蚊よりもうざったく感じ、前のチャンネルで盛った淡い性欲は吹き消された。そして、自分で鳴らすヒールの音が耳障りに感じ、視界に入った箱をぶら下げた男性にチャンネルを変えた。
「お願いしまーす。どうかご協力お願いしまーす」
箱には、手首に管が通された幼い女の子の写真が貼ってある。
「手術のために、どうかよろしくお願いしまーす」
暑い中、目標額に遠く及ばない無謀な善意にすぐに飽き、視界の中から面白そうな人間を探した。
「よろしくお願いしまーす」
善意を振りまきながら、次のチャンネルを探すが、中々見つからない。手当たり次第にチャンネルを廻すが、どれもこれもつまらない。既視感ばかりが僕を待っていて、喪失感だけが私を見届けてくれた。
どのチャンネルも見放題だけど、かわりにどの番組もつまらなく感じてしまっていた。
「どうしようかな……」
リモコンを持ったままボソッと呟いた。
「どうしよう、じゃないわよ。あんたが浮気したんだから、あんたが悪いんでしょ」
クーラーの効いたファミレスで、眉間に皺を寄せている女性がテーブルを挟んで向かいに座っていた。
どうやら、いつの間にか適当にチャンネルを選んでいたみたいだ。責められるのは苦手だから、責める側にまわろうと思い、胸の無い目の前の女性にチャンネルを変えた。
「ご、ごめん……」
人の良さそうな、冴えない男性が目の前にいた。こんな人でも浮気するのか。性欲は見かけによらないな。
目線を落とすと、シャツの中にあるブラの隙間からお臍が見えた。クーラーの冷気が下着の中を駆け回り、やっぱり男は胸なのかと、とりあえず仮定を出しておいた。
外の温度よりも高そうな声を出していたからか、周りが好奇の視線を寄せていたので、近づいてきたウェイトレスにチャンネルを変えた。
「お客様、他のお客様の御迷惑になりますので」
私は笑顔で貧乳女と浮気男のカップルに声を掛けた。内心、振られたばかりだから男女のいざこざは見るのも嫌だったが、これも仕事。
どのチャンネルにしようとも、共通するのは心の像を乱雑に縛れているような気持ち悪さ。
とりあえず、無駄に寒いファミレスから逃れたくて、店の外を眺めた。
なかなか見つからないな。面白いチャンネルは。
これを読んで、続きを書きたいという賢者がいたら、書いちゃってください。お願いします。