表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sword・Solid/End”Day”  作者: キアリア
1-《Birth-Day》
3/19

【2】

「出してくれ。」

 馬車に乗り込んだダグラスは、御者を急かした。車体はすぐに動きだし、乾いた砂利道をがたごと音うを立てて身を揺らした。馬車は屋敷の庭を横切り、屋敷周囲を囲む、日を遮ぎる薄暗い林の道へと進んでいった。

 ダグラスは執事の用意した鞄を開けると、数枚の書類を挟んだバインダーと茶色の封筒を取りだした。封筒を眺めていると、ふとため息が漏れた。せっかくの休暇だというのに、今日は苦労の日になりそうだ。


 ダグラス・エルフォードはとある田舎町にある、中規模の銀行に勤めていた。

 妻であるコーネリア、長女シンディ、長男フィオンの三人と、それから執事として雇用しているバトラーを含めた五人で、町から少し離れた丘に建てられた、大きな屋敷に住まいを置いている。屋敷は彼の祖父の代に建てられたもので、周囲を背の高い林に囲まれ、それが壁となって外の世界の騒音から断絶されている。他社との交流を嫌う、代わりのものの祖父らしい家づくりだ。

 ダグラスはこの環境が大層気に入っていた。静かさに包まれる屋敷の中、いるのは自分の家族と信頼できる執事だけ。周囲を気にせず、家にいる間は実に心を落ち着けることが出来る。外出の度に少しばかり長い道のりを往かねばならないのは不便さを感じることもあったが、目を瞑れないという程の事でもなかった。


 彼の持つ、“エルフォード”の名は、この田舎町では少々通りの良い名であった。

 元来、エルフォードの家系は由緒正しい貴族の家柄であった。故に元よりこの地に富と土地を持ち、この家系に生まれついたダグラスは、幼い頃から裕福な生活していた。貴族は貴族らしい生活をすればいいと言い続けていた両親は、彼に不自由などはさせなかった。

 しかしダグラスは、そんな家柄に甘えるようなことはしなかった。田舎町の中等部を卒業すると、自主的に首都へ赴き勉学に励んだのだ。ダグラスは物心ついた頃から、時代は貴族がどうだと言った古めかしいものではなくなりつつあるのだと悟っていたのだった。彼は不自由無い生活が出来る人間でありながら、決して怠けることをしない男だった。

 ダグラスの両親は町で不動産業を営んでいたが、幼いころから彼は家業を継ぐつもり等は毛頭なかった。というのも、先祖から受け継居た土地を売却するばかりの名だけの不動産業に先を見出せなかったからである。

 経済学や金融工学について深く学び、学業を修めると再び地元に戻り、町の中央銀行へ就職した。元々の家柄からついて回る後ろ盾もあったが、努力を惜しまず仕事熱心だった彼は職場でも大いに評価され、順調にその評価と地位を伸ばしつつある。周囲から優秀な男だと評される一方で、それを鼻にかけることもない雅な男だった。

 

「エルフォードさん、今日はどういうご用件でしたっけ?」

 馬車が走りだしてほどなくして、気さくな若い御者が声を掛けてきていた。ダグラスは書類から目を離すと、小さく咳払いしてから答えた。

「ちょっとした野暮用でね。マクレンの奴が困ったことがあるというので、今回も私がその苦難を被ることになったわけさ。なに、いつものことだよ。」苦笑を交えて言うダグラスに、御者はやれやれと首を振って見せた。

「マクレン町長のことだ、どうせ何か妙な思いつきを言い出したんでしょう。あの人の思いつきはいつだって突然だ。……おっと、市長の思いつきに一番振り回されてる人に、そんなことを言うのは野暮ってもんでしたっけ。」

「振り回されてる、か。……そう見えるかね。」

 ダグラスが尋ねると、

「町じゃ有名ですよ、エルフォードさん。」

 と、御者は付け加えた。

「貴方は市長専属の何でも屋だってね。そして一番のご友人でもある。この町で市長と対等な人間なんてものは、貴方くらいしかいないって専らの噂ですよ。」

「馬鹿な。奴には奥さんと娘さんが居る。夫人は私以上に彼に近しいはずだよ。」

 ダグラスの返しに、御者は愉快そうに首を振った。

「ハハっ。奥さんも娘さんも、その実市長よりも“格上”ですよ。決して“対等”じゃない。」

「あぁ、なるほど。確かにそうだ。」

 ダグラスは納得した面持ちで頷いた。グレゴリー・マクレンは町で最も権力を持つ人間の一人だったが、妻と娘には決して頭が上がらないのだ。これは古くから町に住む人々には有名な話だった。夫人は外部の人間にはまるで女神か天使の様に慈悲深い人だが、夫にだけは非常に厳しい人間である。無慈悲と言ってもいい。


 件の町長、マクレンは頭脳明晰で強かな人物であり、町の人間からの信頼も厚い、所謂良い指揮者である。

 性格に関して言えば少々変人的なところもあるが、本質的には才覚に満ち溢れた男で、しかも何事にも計算高い。彼を相手取るには恐れ多いと、取り巻く人間からは多少なりとも畏敬の念をすら集めている。普段こそ、周囲にはまるで道化の様におどけて見せる割に、自分の配下の人間にも決して隙を見せず、そして人の隙を常に見張っている。彼が今の立場まで成り上がったのも、その狡猾さと眼力があってこそだろう。

 そんな男が妻と六歳程の娘にはうだつが上がらないのだから、世の中分かったものではない。マクレンが娘にわがまま放題言われて困っている光景が思い出されて、ダグラスの口の端は自然と吊り上った。


 無駄口をふつふつと繰り返すうちに、いつの間にか馬車はふもとまで下っていた。砂利と砂の混ざったざらついた道から、石造りの舗装された道に変わる丁度境目に、”ようこそ! ミッドシティ・アーチャーへ!”と書かれた表札が刺さっている。町に入ったことを表す看板だ。

「グレゴリーめ……。」町の入口に差し掛かった時、ダグラスは悪態をついた。表札からこちら側、町の外には雑草が生い茂り、けもの道もいいところだというのに、その表札を跨いだ途端に石と鉄で満ち溢れた町へ変貌するのだ。彼の友人は、自分の町を発展させることには興味深々だが、町の土地から一歩でもはみ出した地点の事は全く頭にない。故に家からここまでの道路状況は大変宜しくない。ダグラスの家は、町の土地からは少しばかりはみ出た場所に位置するのだ。

「奴の頼みを聞く代わりに、道路の整備くらい強請ってもばちは当たらないだろうな。」頬杖をつきながら、ダグラスはそんなことをつぶやいた。

「エルフォードさん、町に入りましたから、もうすぐ到着しますよ。降り支度を初めては? マクレン市長は短気な方ですから。」

「あぁ、分かってるよ。そんなに急かさなくたってすぐに降りるさ。」

「いやぁ、貴女との御喋りが終わるのが悲しいです。」

「世辞を言っても代金は変わらんぞ。」

 若い御者は腹を見透かされ、ばつが悪そうに苦笑いを浮かべた。

「ハハ、そりゃ結構。市長の用事がなんであるかは存じませんが、すんなり済むことを祈ってますよ。」

「あぁ、それはどうも。」

 ため息交じりに言葉を返し、書類を鞄に仕舞い始めた。バインダーを鞄に収めると、ふと、膝に乗った封筒に目が行った。封筒の表面には、小さく、そしてだいぶ粗雑な字で《盟友、エルフォード卿へ》と綴られている。

「何がエルフォード“卿”だ。」ダグラスは何気なく封を開けると、中から手紙を取り出した。マクレン本人が、彼に宛てて書いた直筆の手紙だ。手紙は、《我が親友よ、大変俺は困っている》という言葉から綴られている。この文句ははるか昔から、後ろめたい頼みごとをしてくる際に必ず付く言葉である。この言葉から始まる頼み事は、大抵が面倒事である。

 ダグラスの脳裏にぼうっと、この手紙を読みだしたときのことが浮かんできた。今日、彼の友人を訪ねることになるまでの経緯である。




 ---手紙を受け取ったのは、ちょうど一か月も前のことだった。ダグラスは手紙を受け取った週の週末、当人にとってはとても貴重な休日を使い、マクレンを訪ねた。

 マクレンの家は町の一等地……からは少し外れた、農地に近い、周囲の見通しの良い場所にあった。なんでも、一等地の周辺に新たに自分の家を建てると、都市開発計画に差し支えるのだとか。

 町の道路がどのように伸びていくのか、どこに何の建物が出来て、住まう人々がどう動いて生活するのか。町の構造に具体的な理想像を持っていたマクレン市長にとっては、自分の家はどうしても一等地に組み込むことが出来なかったらしい。なんとも几帳面な男だ、と、その理由を聞いたダグラスは呆れたものだ。


 彼の家については、市長らしくその風貌は立派なものだった。外観から見れば、博物館か何かにしか見えず、これが個人宅だと思う人間は居ないだろう。無理もない。なにせ元より存在してた旧博物館兼図書館を改築し、そこを自宅にしてしまったのだ。

 彼は異様に無駄が嫌いな男だったので、本人にとってこの選択は至極自然なものだった。ただ、公共の場を個人で所持した結果、家の中には使い切れない、無駄な空間が多数存在することになった。博物館と図書館を兼ねていた建物は、個人で使うには広すぎたのだ。

 それを受けて、これまた無駄が嫌いな彼はその空間を無理にでも生かそうと、元々の図書館、博物館の機能を一新し、市民に開放した。一般市民が利用しに訪れる(・・・・・・・)町長の自宅などというものは、世界広しと言えどそうは存在するものではないだろう。かくして彼の自宅は、常に一般の町民たちが出入りする公共の場所となった。

 ダグラスにとっては、これはよくないことだ。マクレンを訪ねた時も多くの市民が家をうろうろとしていて、当主を探すにはだいぶ時間を要した。


「グレゴリー! お前は本当に阿呆だな。」

 マクレンの無駄削減の成果によって無駄な時間を使わされたダグラスは、開口一番そう発した。

 その声に、黒髪を長く伸ばした小太りの髭男がくるりと振り向いた。正面に向き合うと、ぴちぴちの茶色いスーツのボタンがはちきれそうになっているのが分かる。前回彼と会った際は、あのスーツは多少余裕を持ったサイズだったから、恐らくまた少し膨れたのだろう。

 小太りの男はダグラスを見つけると、人懐っこい顔でにこりと笑った。

「やあやあダグラス! 五か月と三日ぶりだ!」

 そういうと男はずんぐりした胴体を弾ませるようにしてダグラスの元へと駆けて来る。その際中にも男は、畳み掛けるように言葉を続けた。

「相変わらず元気そうで何よりだ。どうだ、ご家族は元気かな? 美人なコーネリアさんには逃げられてないか? やんちゃなシンディは何も起こしてない? フィオンはそろそろ私が恋しくなっている頃だろう! 君達エルフォードの家族が恋しくなるほどには時間が経ってしまった。いやあ、久しぶり久しぶり!」

「建前はいいよ、グレゴリー。」

 ダグラスはうんざりしながら言った。

「キミを探す為に時間を要しすぎてもう昼を過ぎてしまった。昼よりもずっと前に家を出たのに、だ。最早昼時という時間ではないじゃないか。今から食事など取ったら、家で妻の料理が食えなくなる。さて、どうしたものかな、友よ。」

「あぁ、何かと思えば。食事については心配無用だよダグラス。私は先ほど妻の手料理をお腹いっぱい食べたからな。改めて食事を取る予定は無いから、我々の再開が昼時を過ぎたからと言って、なんてことはないさ。」

 ダグラスはため息をついた。同時に鳴る腹の根に、彼は心底げんなりとした。

「怒るのが馬鹿らしくなってきたよ、グレゴリー。私はこのまま空腹で過ごすとしよう。……それはそうと、これはどういうことだ。」

 ダグラスは黒革の鞄から、封筒を取り出した。件の封筒だ。それを見るや否や、マクレンはわざとらしく声を張った。

「あぁ、そうだそうだ、そうだった。再開を喜ぶのもいいが、それと同じくらい大切な要件があるんだった。君に渡すものがあるんだ、来てくれ。」

 マクレンはダグラスが付きつけた手紙を払いのけると、そそくさと歩き出した。

「ちょっと待ってくれ。」

 ダグラスはいら立ちを隠さず、マクレンに迫った。ただ、マクレンは立ち止まらないので、ダグラスは彼を追いながら言葉を続けた。

「グレゴリー、私は今までキミの願いは聞き届けてきた。多少の無茶もやった。町の下水道を広げたいから指揮を取れだの、腹が痛いから首都まで行って名医を連れて来いだの、何故一介の銀行員に頼むのか疑問視するほどのことも、やった。」

「いいじゃないか、それくらい。」

「“可愛らしいあの子を口説きたいから好みを聞き出せ!“なんてことも、やった。ついでにその時、彼女が付き合っていた男の悪評を垂れ流したりもした。その結果、キミは家族を持つことが出来たわけだ。私は相手方の男から大目玉をくらったがね。」

「あぁ、その節はどうも。」「別にいいさ。」

 マクレンは廊下のある扉の前で立ち止まると、部屋の中へぱたぱたとあわただしそうに入って行った。ダグラスはしぶしぶ後に続く。マクレンは部屋の中央にある机に向かうと引き出しを開けて中をごそごそと弄った。ダグラスはといえば、机越しに髭男を睨むと、封筒をひらひらとなびかせ、首を振った。

「だが、これは駄目だ。」

「なんでさ。」

 マクレンは眉を吊り上げ、驚いた顔を作って見せた。

「これは、頼まれたからといって安易に引き受けていいものじゃないだろう。キミの一存でも、私の一存でも決められない。私の家族に影響することだ。とても、とても強くね。」

「あぁ、その通り。君の家族に影響するとも、いい方向へね。そこで君が首を縦に振ればみんなハッピーなんだよ、ダグラス。君が引き受けてくれればみんな幸せさ。君の家族だってハッピーになるさ。たぶんね。まぁ、それ以上にハッピーになるのが私だってことも否定しないがー……。あったあった! ほら、これが渡したいものだ。」

 マクレンは引き出しから書類の束を引っ張り出すと、満面の笑みを浮かべてダグラスの前へ突き出した。ため息をつきながら、そして封筒を懐へしまいながら、ダグラスは書類を手に取った。一枚を眺め、彼は書かれている文字をつぶやいた。

「……養子縁組、……届。手続きの後、私は子を引き取り、その健全な育成と快適な暮らしを確約し、我が子として愛情を注ぎ育てることを誓う……。」

「誓って?」

「駄目だ!」

 思わずダグラスは声を荒げた。それからマクレンに書類をぐいっとつきつけた。

「何故だ? 家族を一人増やすだけだろう、友よ。」

 マクレンは困惑した表情を浮かべ、突き出された書類を避けるような仕草を取った。仮に彼が動かずその場に留まっていたならば、書類は彼の顔面を叩いていたに違いない。

「様々な理由はあるが、最たるものは家族への影響だ。我が家には既に子供が二人いるし、妻だって、自分が腹を痛めた子供以外は受け付けないだろう。……それに、もう結構な年頃じゃないか、この子は。」

「もっと幼かったらよかったのか?」

 首を傾げるマクレン。ダグラスは一瞬言葉に詰まるが、首を振った。

「いや、駄目だ。そういう問題じゃない。……ただ、この年頃だと、今から新しい家に入って馴染んで、ということは難しいんじゃないのか。それに前の親の事を思い出して強く求めるかもしれない。そうなったら私たちではどうすることも出来ない。……それか、もしかしたら自分を捨てた親を想って、やさぐれたり、新しい家族である私たちに反抗的だったりするかもしれない。とにかく駄目だ。駄目な理由が多すぎて駄目だ。」

 なるほど、と頷いたマクレン。捲し立てるように述べたダグラスは、息切れして肩を上下させていた。少しの沈黙の後、しきりに頷いてたマクレンが声を出した。

「しかしだね、友よ。この子は捨て子じゃないんだ。この子は戦争孤児なんだ。」

「……アレマーニ・ランドとの小競り合いか。」

 髭の生い茂った顔を顰めて、小太りの男は頷いた。

「幸いにもこの町には火の粉が降りかからんで済んでいるが、我々の国は現在戦争中だ。この子は、……なんの罪もないこの子は、不幸にも町を戦火に焼き払われてしまったんだ。両親共々ね。」

「……それで孤児か。」

 躊躇いがちにダグラスはつぶやいた。彼に先ほどまでの捲し立てるような勢いは無くなっていた。

 ダグラスは内心、その子供の境遇を察して心を痛めた。ダグラスも十三の頃に母を亡くした。流行り病だった。彼はその時の悲しみを思い出していた。両親同時に失ったとなると、自分よりもつらい経験だったに違いない。それも戦争等という、あまりに突然で理不尽な原因となれば猶更。

「そういうことだ。我々大人の都合で苦難を味わうことになった子なのだ。この子は心を閉ざしてしまっている。君が言ったようにやさぐれたり反抗的だったりすれば可愛いものだが、この子はただただ、冷え切ってしまっているのだ。施設の子とも馴染めそうになくてだな……。」

「……孤独はつらいだろうな。」

「そう、その通りだよ、友よ!」

 くわ! っと、小太りの男は目を見開いた。男はダグラスの手をがしりと握ると、ぶんぶんと振り回して捲し立てた。

「この子に必要なのは明るい家系と楽しい日常、そして優しい包容力のある両親だ。君の家は実に家族仲がいいし、子供は二人、二人ともやんちゃで活発な子だ。君は優れた父親で子に優しく、そして時に厳しく接することが出来る人間だし、君の奥さんは女神の様に美しく、そして包容力溢れる方だ。しかも君は銀行員、それも飛び切り仕事が出来る凄い奴だ。いやあ、凄い凄い。さてさて、ところで賑やかで恵まれた環境にこの子を置くことがどれほど重要なことかわかってくれるだろう、君なら。」

「……おだて言葉を捲し立てられても、難しいことに変わりはないさ。」

 ダグラスはため息をついた。反面、マクレンはにやりと表情を変えた。ダグラスの言葉が“無理”から“難しい”に変わったのを、彼は聞き逃さなかった。

「まぁ、どうしても無理だと言うのなら、そこまで無理強いは出来ないさ。ただ、この不幸な孤児の行方がどうかなってしまったとしたら、例えこの子に更なる苦難が待ち受けたとしたら、それは君が話を蹴ったからだぞ。君はこの子を幸せに出来るかもしれないチャンスがあったんだ。私はその話を持ってきたし、君はちゃーんと聞いた。そうだろう。」

 マクレンの言葉に、ダグラスは顔を顰めるばかりであった。彼は自分に非を感じるととことん思いつめる性分だった。マクレンはそれを知っていて、ダグラスが責を感じる言い回しで捲し立てたのだ。このことは、ダグラスには効果的だった。

「……しかし、私の一存で決めることはだな……。」

「別に今すぐ答えろと言っているわけじゃないさ。書類を持って、家に行って、家族に相談してみてから答えてくれればいいさ。そうだ、そうしよう。そうしようよダグラス。」

 ダグラスの手に持った種類の束を、ぐいっと胸元に押し付けながら、マクレンは言った。心が揺れていたこともあり、ダグラスは彼の押しに対して身を引いてしまった。

「……わかった、話すだけ話してはみるさ。ただ、妻や子供がダメだと言ったら、即終了。この話は無かったことになるからな。いいか、無かったというのはつまり、私は子の話を聴いていなかったってことだ。後でネチネチいうのは無し。それが聞けるなら、持ち帰るだけはしてやろう。」

「もちろんもちろん、それで構わないさ、友よ。」

 にこにことしながら、浮足立つ目の前の男を見て、ダグラスはしまったと舌打ちをした。ひしひしと感じる敗北感をごまかすように、ダグラスはぶつぶつとつぶやいた。


「子供はともかく、妻はきっと嫌がるに決まってるさ。彼女は優しい人間だが、いきなりこんな話をすれば混乱もする。それが分かっているから、私はコイツを持って帰るんだ、こんな話、通らないってわかりきっているからな。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ