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Sword・Solid/End”Day”  作者: キアリア
1-《Birth-Day》
19/19

【18】

 月の明かりが頭のてっぺんから照り付ける。すっかり闇は深まって、シンディは眠気を感じ始めていた。無理もない。彼女の年齢を考えれば、普段なら床に就く時間だ。

 家のある丘からのんびり半刻ほど歩き、町へと辿りつく。

 石造りの建物を照らす街灯が、町を明るく彩っている。家の周りと違って、ここは夜でもずいぶん明るい。

 シンディはランタンの火を消して町へと入って行った。夜道を照らすランタンも、この場では重くて油臭いだけのお荷物だ。重いランタンをぶらぶらさせながら、シンディは真っ直ぐ図書館へと向かった。


 図書館へ向かうまでに、シンディは二、三度ほど迷いかけた。夜の街並みは昼間に見たそれとは全く違った場所に見えて、行く方向を見失いかけたのだった。寄り道してばかりのフィオンならば、こんな迷い方はしなかっただろう。そう考えて、シンディは少しだけ悔しい気持ちになった。

 いつもよりも少しだけ時間をかけて図書館へ辿りつくと、シンディは閉館後の清掃を行っている係員を呼び止めた。係員は皆、マクレン家に仕えるバトラーだ。マクレン亭の一部である図書館の清潔さを保つため、毎日妥協なく働いている。多くが古くから彼の家に仕えている身で、シンディやフィオンとの顔なじみの人物も多い。

 齢二十歳を自称し続けているこの家政婦も、その一人だ。シンディが声を掛けると、閉館後の来客にも関わらず係員は快く彼女を迎えてくれた。その大らかな対応に感謝しつつ、シンディは幾つか質問をした。

 気にかかった幾つかの事を簡単に聞いた後、質問は本命に入っていく。


「あの、フィオンが来ませんでしたか?」

 神妙に訪ねるシンディに、係員は、「フィオンくん? あぁ、来たよー?」

 と、ずいぶんとのんびりした口調で返した。

「私は話してないからわからないけれど、何か聞きに来たみたいだったね。凄く必死に図書館中を走り回って、慌ただしく出て行ったよ。」

 それを聞いてシンディは小さく唸った。可能ならここで捕まえたかったが、どうやら遅かったようだ。

「ちらっと見た感じだとなんだか泣きかけてた様にも見えたんだけど、もしかして喧嘩した? フィオンくん弱いんだから、あんまりいじめちゃだめだよ?」

「け、喧嘩じゃ無いです!」

 シンディは少しむっとして突っかかった。まるでいつも自分が弟を苛めているかの様な言い草だ。

……それにだ。

「フィオンは弱くなんてないし、走ってる間は泣いたりしませんよ!」

 力強く言い切ると、シンディは礼をそこそこに図書館を後にした。



 夜は更けていくが、対照的にシンディの眠気は冷めて行った。

 フィオンの訪ねそうな場所へと足を延ばし、その足跡を辿る。時間はどんどん過ぎて行って、辺りの空気はより凍てついていく。寒気も眠気を覚ます要因だったが、弟に一向に追いつけないことも、彼女の眠気を覚まして行った。

 フィオンが尋ねる場所といえば、例の雑貨屋やら酒場辺りに違いない。それ以外の場所を探すことはしまい。フィオンが箱を探す為に動いているならば、昼間にアイリュスと共に歩んだ道筋で物を探すはずだ。なら、その周辺の施設の人に聞くのが早いだろう。

 仮に図書館と家との道筋から大きく外れた場所を訪ねていたのなら、先ほど自分に一言あったはずだ。シンディは確信を胸に、重たいランタンをぶんぶん振り回しながら、ぎこちなく先を急いだ。


 シンディの見立ては実に正しかった。雑貨屋にしろ、酒屋にしろ、悉くフィオンの目撃情報を得られた。必死になって、目柱に涙の粒を溜め込んで、町中を走り回っているようだ。シンディはその後追いになっている。重いランタンのせいもあるが、弟の動きは予想よりもよほど早く、そして激しい。


「ねぇ、それ重くない?」

 酒場の店主はランタンを指さして言った。

「うん、毎日これ持って歩いたら腕太くなっちゃいそうだってくらい重い。」

 シンディは酷く渋い表情を浮かべて答えた後、カップに注がれた暖かいココアを啜ってにっこりと笑みを浮かべた。

 雑貨屋を回った後に訪れた酒屋だったが、既に足も腕もくたくただった。こんなに思いモノを持って長距離を歩いたのは初めてことだ。古いランタンだから仕方がないのだが、そろそろ忌々しく感じてきていた。

「弟さんを追いかけるなら、それは邪魔でしょう? なら、ここに置いておけばいいよ。預かっておくから。」

「え、でも、いつ取りに来るかわからないよ? すっごく遅い時間になっちゃうかも。」

「別に今日取りに来なくても、何日でも預かっておくよ。」

 酒屋の店主は愉快そうに笑った。

「それより、フィオン君を早く見つけてあげて欲しいんだよね。アレはちょっと痛々しくて、その、なんていうか……。」

「見てられない?」

 言葉を選ぶ大人にしびれを切らして、子供が先をさらりと言って除ける。

「そう、それ。それだよ。」

 便乗するように頷く店主は、居心地悪そうに苦笑いをした。

「だから早く行ってあげて欲しいんだ。僕じゃ、何もしてあげられないからね。」


 シンディはランタンを酒場へ置き、寒空の下へと戻った。

 奢って貰った甘いココアのおかげでずいぶん体が温まった。ランタンを持たなくて済むようになった手のひらは袖口の中へと仕舞い込み、体が冷えない様に気を使いながら夜を走った。重いランタンが無いと、移動がこんなにも楽だ。


 頭の中で今までの情報を整理しながら移動する。フィオンの目撃情報もそうだが、それ以外の情報が重要だ。実のところ、林の中で見つけた“何か”と色々な場所で得た情報は、彼女の笑ってしまうような妄想を、単なる妄想で終わらない真実へと変えつつあった。

 体は軽いが、悪い予感が足取りをずんと重くする。シンディの考えていることは、あまり愉快な事ではなかったのだ。


 シンディは真っ直ぐに公園へ向かっていた。これだけ色々な場所を見て回ったが、フィオンの姿は捉えられずにいる。後、彼が向かいそうな場所と言えば公園ぐらいだ。もしまた入れ違いになったとしても、今まで回った場所に居る人物たちには、“フィオンがまた来たら、公園に来るように言ってくれ”と頼んである。仮にフィオンが居なければ、待てばいつか向こうからやってくる。

「……一番いいのは。」

 シンディはぶつぶつとつぶやきだした。

「わたしが待ちぼうけして、そのまま明日が来ることなんだけど。」

 頭の中の予想を消そうと、シンディはため息交じりに言葉を発した。シンディの予想が正しいのであれば、フィオンはどうあっても町の中から箱を見つけ出すことはできないだろう。公園で再会することになったのなら、そういうことだ。

 そんな予想は外れて、さっさと箱を見つけてしまったフィオンが自分を置いてきぼりに家に帰ってしまう。そういうことが起こったのなら、それが一番いい展開である。寒さで凍えてしまうことを考慮しても、シンディは心底そう思っていた。


 考えが纏まったころ、シンディは公園に辿りついた。園内は街灯が少ない。それに明かりもぼんやりと薄いものだ。パッと見渡しても、フィオンが居るかどうかはわからない。

 周囲をきょろきょろ見渡しながら、公園へ立ち入った。

 ただ、フィオンを探すのにはさほどの時間は要さなかった。探し始めてすぐに、弟の声が聞こえてきたのだ。

 シンディは耳を澄ませた。フィオンの言葉に耳を傾けながら、声の聞こえて来る方へと歩を進める。するとすぐにフィオンの姿を捉えることが出来た。街灯の下に設置されたベンチで、俯いた様な恰好で座っていた。

 姉は近くの木によりかかり、フィオンに見つからない様に彼の言葉を拾った。というのも、弟には会話相手が居たからだ。

「……アリッサ。」

 風の音で消えてしまうような、小さな声で名を呟いた。

 フィオンと同い年の幼馴染は、彼の言葉を親身に受け止めていた。

きっと昔からの馴染みだからだろう。弟は、姉の前では絶対言わないような情けの無い弱音を、絞り出すように発して、聞かせていた。


 弟の言葉は、おおよそ泣き言ばかりだった。自分がしでかしたこと、それで起きた悪いこと、それに対しての自分の責任と、それを果たし切れない苦しさ。

 つらつらと泣き言を酷く情けない声で告白し続ける弟に、姉は動揺を隠せなかった。こんなに弱気なフィオンはみたことが無い。自分はこんなフィオンは知らない。そっと、それを聞いて居るアリッサを見ると、その表情にも自分と同じ感情が見て取れる。アリッサは戸惑った表情を見せる一方で、フィオンの言葉に親身になって頷いたり同意したり、とにかくフィオンを宥めていた。

 シンディはその様子を直に見て、どれほどフィオンが今日の事を重要に考えていたのかを知った。料理などは出来ないため手伝わず、あまり妹との交流に積極性を持たず、どこか妹と距離感のある様にも見えた彼が、その様子の裏でどれほど新しい家族と向き合おうとしていたことか。

 こんな時だが、シンディはなんだか嬉しい気持ちになった。弟の本心を除いてみれば、結局なんだかんだで新しく迎える家族には、ずっと前向きな気持ちがあったのだ。接し方がぎこちなく見えたのも、照れとかそういうものだったのだ。ちょっと心配していた自分は、何もわかっていなかった。


「……ねぇ、フィオン。」

 話がひと段落したころ、アリッサがぼそりとつぶやいた。

 それを受けて、シンディは思わず呟いた。

「ちょっと待って、……」

“アリッサ。”と、何とか後半は言葉を抑えた。下手に様子をうかがっていたものだから、彼らの前に出るタイミングを失っていたのだ。それ故に、自然と気づかれない様にと思ってしまう。呟く声も、抑えようとやっきになる。


「フィオン。……あの、実はさ。」


 と、続けるアリッサ。シンディはたまらず、半歩ほど彼らへ踏み出していた。

 かさりと音を立てる芝。風がたてる自然の音とは違うそれに、アリッサは直ぐに気が付いた。ハッと顔を上げたアリッサと、ばっちり目が合ってしまった。

 シンディはそれで、覚悟を決めた。深呼吸をしながら二人の方へと歩き出した。

 暗がりを進んで数歩、フィオンもこちらに気が付いた。暗闇に紛れているこちらに焦点が合わないらしい。少しぱちくりと目を凝らす様子が見て取れる。

 姉は深く深呼吸して、なるべく落ち着いた声で、弟と接しようと考えた。弱気な弟を見て、だいぶ動揺はしている。それを数歩歩く間の深呼吸で押さえつけた。

 すぅっと息を吸って、上ずらない様に、尚且つ落ち着いていて、優しげになるようにと、フィオンに声を掛けた。


「こんなところにいた、フィオン。」


 出た声は、自分でも感じるほどに威圧的なものだった。


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