【10】
「ねえちゃん……。ほんとに行かなきゃダメ?」
情けなく、そして弱々しい声の主はフィオンだった。
学校が終わったばかりの少年は疲れ果てていたし、そんな状態でやりたくないことをやらされようとしていたので、酷くやつれた顔をしていた。まだ幼い少年が、まるで乾燥させた人参を思わせる形相で歩いていたものだから、道行く人々はすれ違いざまに彼を振り返った。
「当たり前でしょ、約束したんだから。」
シンディはキッと締まった声で、そんな弟を叱った。弟の前を悠々と歩き、時々振り返っては急かしてみせる。シンディはフィオンが情けない時、決まって弟を引っ張る、良く出来た姉をやってみせる。そしてこの日も、すっかりその気になっていた。
足取りの軽い姉とは対照的に、フィオンは俯いてもたもたと歩いていた。手に持った鞄がやけに重い。横着して全部の科目の教科書を入れてあるのだから、重いのも当然ではある。
しかしフィオンが感じている、体中をどんよりと縛り付けるようなけだるさは、そのこととは全く無関係に彼の足を重くしていたし、同時に鞄を持つ手の力を削いでいた。
「ホラ、きびきび歩く! しゃんとしろ、男の子!」
先を行くシンディはじれったくて地団太を踏んだ。フィオンが歩く速度が遅くて、普通に歩いているつもりが先行しがちになる。
やたらと元気な姉にうんざりして、フィオンは大きなため息をついた。
「この前はねえちゃんの方がふらふら歩いてたくせに。普通の靴になった途端早足になるんだから。……ねぇ、もうねえちゃんだけで行ってきてよ、おれが行ったって、どうなるものでもないよ。」
フィオンは足を引きずるようにもたついて歩き、まるで瀕死のナメクジを思わせるようなもぞもぞした足取りで、しぶしぶシンディについて歩いていた。ぶつぶつと泣き言を吐き続けるフィオンに、今度はシンディが大きなため息をついた。
「フィオンってなんでそうなの? 嫌なことがあるとすぐに駄々を捏ねる。……っていうか、アリッサに会うのがそんなに嫌なことなの?」
「うん、いやだね。」
フィオンは即答した。
「だってあいつ、おれのこと嫌ってるんだもの。いっつもおれのすることやることを邪魔してイタズラしてくるんだ。この前アイリュスに図書館を案内しなかったのだって、あいつが居るからだよ。なんだってあいつの家が図書館になってるんだ。アーチャーの町に他の図書館は無いってのに、最悪だよ。」
言いながらフィオンは身震いした。冷たい気温ではあったが、風は吹かず、穏やかな晴れ空が太陽を覗かせている。にも拘わらず、フィオンは風邪でも引いたような、どんよりとした体調であるように感じていた。
額をさすってみたが、あまり熱くは感じない。喉の痛みや、頭痛の類も感じられない。フィオンはいたって健康的だった。
彼は項垂れながら歩を進めた。どうやら何か理由をつけて帰るのは、本当に無理なことのようだ。
この日フィオンは、学校帰りにアリッサの家に行くことを、シンディと約束していた。
フィオンとアリッサはとても不仲であり、どちらがどちらを訪ねることなどそうは起らないことだった。
事の発端は、三日ほど前の休日のことだった。その日、父が来客の相手をしている時を狙って、シンディは弟を呼び止めた。
「……なんか用? 悪いけど、おれ急いでるんだよね。」
フィオンは姉の声に素っ気なく言葉を返すと、そそくさと逃げ出すように駈け出した。
「ちょっとでいいから聞きなさいよ。」
シンディは素早くフィオンの退路を塞いだ。蛙の逃げ道へ回り込む蛇を思わせる素早さである。自分よりも運動能力の高い姉に舌打ちして、フィオンは首を振った。
「やだね。久々にグレゴリーさんが家に来てるんだ、おれ、会ってくるよ。」
姉を押しのけてまで進もうとするフィオンを、シンディは二の腕を掴んでまで引き留めた。フィオンは抵抗しようと身をよじったが、残念なことに姉の方が幾分か力強く、振りほどけない。
「グレゴリーさんが来てて、アイリーとお父さんもそこに居るの。”だから”出来る話なの、黙って聞いてよ。」
姉の腕を掴んで除けようとしても、腕をつかむ力が強くなるだけである。フィオンはつかまれた腕がミシリと嫌な音を立てたのを感じて、抵抗は無駄なのだと悟った。 結局フィオンに選択肢などなく、彼はしぶしぶ話を聞くことにした。
「わかった、わかったよ。黙って聞くよ。どうせねえちゃんには勝てないんだ。ちゃんと話しは聴くからさ、そんなに強く握らないでよ、シンディ。……で、アイリュスやお父さんが居ない時しか出来ない話って何さ。」
フィオンは強く握られたままの手を気にしながら、姉に向き合った。姉は小さく口を開きかける。
「もうすぐ、アイリュスの誕生日なのよ。」
その声に、フィオンは飛び上がる程に驚いた。
言葉の意味よりも、その言葉が背後から突然かけられたことと、優しくぬくもりと包容力を持った声であったことが、フィオンを大層驚かせた。
一瞬シンディが、そういった口調で喋ったのかと錯覚しかけたが、目前の姉は開きかけた口を閉じていた。フィオンは上ずった声で、語りかけて来た相手を呼んだ。
「お、おかあさん?」
振り返ると、姉弟の母、コーネリアがにこりと笑みを浮かべて立っていた。
シンディに似た、さらりとしたブロンド髪がきらきらと輝いている。コーネリアは、見た目こそはシンディの面影を感じさせるが、しかしガサツな姉とは程遠い物腰が、ふわりとした包容感と浮遊感を感じさせる。
姉弟の母は、宛ら教会の鐘を思わせる、淑やかな音色の声で語った。
「シンディには話したんだけれど、あの子の誕生日をお祝いしようって思ってね、その準備をしているのよ。バトラーと私、それからシンディも手伝ってくれるって言っているんだけど……。」
「それ、おれにも手伝えって言うんでしょ。やるよ。」
即答だった。
フィオンは言いながら、一瞬緩んだシンディの手を振りほどいて、コーネリアと向き合った。握られていた箇所をもみほぐすと、心なしか違和感を覚えた。骨が軋んでいるような感じだ。
恨む気持ちで、目の端でシンディを睨みつけると、じっと自分を睨むシンディの視線と交差した。
「わ、わたしが言うと素直に聞かないくせに……!」
「ねえちゃんとおかあさんとで、同じように聞くわけないだろ。」
フィオンはふんと鼻を鳴らした。フィオンは、大好きな父と母、それとバトラーに対しては素直な少年だった。家族の中で反抗的に接しているのは、シンディだけである。姉はそのことをとても不服に想っているのを、フィオンは知っていた。だからこそ、ちょっとした復讐心を満たした気になって、姉を見下した。
「それで、おれは何をすればいいのかな。なんでもやるよ、おれ。」
シンディから目を離すと、意気揚々とフィオンは言った。やる気に満ちた息子に満足して、母はにこやかに言った。
「―――……当日、図書館に案内してあげて、か。」
フィオンは三日前の母の言葉を思い返して、復唱してみた。
言うだけならなんと簡単なことだろうか。現に言っている内容はさほど難しい事ではない。彼の様に、妙な事情が絡んでこなければたやすいことである。……ただ、その“妙な事情”があるせいでフィオンにとっては少々難を要することだった。
「どうしたの、フィオン?」
「いや、なんでもないよ。」
フィオンが憂い手いるのを知っているくせに、姉は心配したようなことをいう。フィオンは姉の言葉に返答しながら、“アイリュスの為でなければ、あんな奴に合うもんか。”と、心の中で毒づいた。あんな奴とは、無論先日公園で顔を合わせた、アリッサの事だった。
図書館へ連れていくとなると、高確率であのアリッサとは顔を合わせることになる。何せあそこは彼女の自宅である、家に家の住民が居るのは当然だ。
鉢合わせればたぶん、いや間違いなく、互いに衝突することになるとフィオンは見積もっていた。アイリュスが傍らに居ようがいまいが、絶対口げんかにはなると確信していた。アリッサの言葉はシンディのそれよりも、ずっと無視するのが難しい。それほどにまで気に障るのだ。
「ねぇ、やっぱり当日は、シンディがアイリュスをここへ案内すればいいんだ。そうすれば、こんな面倒な手間は……。」
「わたしはお母さんと準備があるの。フィオンはお菓子作りとかそういうの、やったことないでしょ。貴方が、妹をしっかり連れて行くの。」
姉はぴしゃりと否定した。喧嘩の時と違って、姉の言うことは正しいことだ。納得はできなかったが、フィオンは言い返す言葉が見つからなかった。
「それに、言ってみたら案外素直に聞き入れてくれるかもよ? アリッサだって、悪い子じゃあないわ。」
フィオンが黙ってしまうと、シンディはふてくされた弟を励まそうと、にこりと笑いかけた。
母の頼みを聞いた後も、フィオンはふてくされた。そんな彼を見かねて、シンディはアリッサと話をつけておこうと提案した。当日を円滑に過ごすためには、アリッサと話して置く必要性はあると、フィオンは認めていた。 せっかくアイリュスの誕生日を祝おうというのだ。そんな日に、自分が口げんかをしている姿を見せるのはよろしくないに決まっている。
だからフィオンは、気は進まなかったがアリッサの家を訪ねることを約束したのだ。気兼ねなく妹を案内するためには、このことは必要である。
母やバトラーの準備も手伝えない以上、自分がやるしかないのだ。フィオンは割り切るしかないとわかってはいた。
「フィオン、ほら、もう着くんだからいい加減しっかりして。わたしも一緒にお願いするから、大丈夫でしょ。」
「……うん、そうだね。」
フィオンの返事は暗かった。姉の言葉に同意しつつも、心からそう思っているわけではなかった。
アリッサは自分の行いにケチをつけるのが好きなのだ。どうしてなのかはわからないが、彼女はいつだってフィオンを目の敵にする。今回のことだって、素直に“いいよ”と首を縦に振るとは到底思えない。フィオンは気が重かった。
そんな会話からほどなくして、二人はアリッサの家についた。アリッサの家族は町の有力者の家系である。図書館と博物館を兼ねていた古い大きな建造物を改築し、その二つの機能をそのままに住まいとし、一家で暮らしている。
“アリッサ・マクレン”。彼女の父は“グレゴリー・マクレン”、この町の町長を務める男だった。
彼女の父は、姉弟の父、ダグラスと大変古い仲である。故にフィオンやシンディは今よりも幼い頃からマクレン町長とは良く顔を合わせ、良くしてもらっていた。おどけていて愉快なマクレン町長は、よく姉弟に面白い話を聞かせてくれたり、おちゃめなしぐさを見せて楽しませてくれた。フィオンもシンディも、そんな父の友人が大好きだった。
そんなマクレン町長が二人に自身の娘を紹介したのは、フィオンがまだ四歳の時であった。
その日は家に誰もいなくなるからと、エルフォードの家に連れてこられたアリッサは、周囲の林を通る際に大泣きした。薄暗く、カサカサと絶え間なく聞こえる葉の音は、幼い子供に酷く不気味な印象を与える。普段あまり家から出ることの無かった幼い少女にとって、そんな薄暗い林に囲まれた屋敷は、とても恐ろしい場所に感じられたのだろう。
彼女は泣き止まないまま屋敷についた。うろたえるグレゴリーとダグラスを見たフィオンは、幼いながらに気を使って、アリッサが泣き止むよう親身になって接した。泣き続けるアリッサに“おれの家は怖くない、年中涼しくて、広くて遊びやすい、いい場所だよ”と言って泣き止ませたのが、フィオンにとって彼女との初めての出会いであり、思い出だった。
アリッサの家についてすぐ、姉は彼女を呼びに、入り口近くの階段を上って行った。一、二階の図書館として開放している階層のすぐ上が、アリッサたちの家になっている。姉のおかげで彼女の家を自ら訪ねなくていいのは、確かに少しだけ気が楽だとフィオンは思った。
姉を待つ間、図書館二階の休憩スペースに腰掛けたフィオンは物思いに耽っていた。アリッサを相手にどう話題を切り出したものかと思考するうちに、初めて彼女と出会った日の事を思い出していたのだ。
その日の事を、フィオンは鮮明に覚えている。おとなしく、どこかおどおどとしていて、放っておけない感じだったアリッサ。あの頃の彼女とは、そんなに不仲では無かったはずだ。いい友達だったはずだ。
それなのに、いつからだろうか。アリッサが自分を嫌うようなことを言い出したのは。何が原因だっただろうか、アリッサと不仲になったのは。
フィオンは頭をかきむしった。その辺りのことは、良く思い出せない。心当たりがない。もしそれを思い出せれば、また仲良く話せるだろうか。そうなれば、こんなに面倒な想いもしなくて済むはずだ。気づけば、フィオンは随分久々に彼女のことを真剣に想って、悩んでいた。
どうにか願いを聞き入れて貰うには、彼女に当たり障りない接し方をしなければならない。そうするにはまず、自分の何が彼女を刺激しているのかを思い返さなければならないハズだ。フィオンは真剣に悩んだが、答えは結局出せずにいた。
「あら、そんなにしてたらただでさえ悪い頭が使いモノにならないくらい悪くなるわよ、盆暗フィオン。」
ハッとして顔を上げると、あまり顔を合わせたくない少女が、自分を見下すようにじろっとした目つきで見つめていた。
フィオンは思わず身をすくめた。普段なら強い言葉で凄む場面だが、そんなことをして万が一事を聞き入れて貰えなくなったら大変宜しくない。発する言葉が浮かばず、頭の中で渦巻いていた当たり障りのない言葉はのどもとでつっかえて消えて行った。フィオンは黙り込んだまま、アリッサの視線に睨み返すことしかできなかった。
そんなフィオンを見て、シンディはコホンと小さくせき込んだ。
「お待たせ、フィオン。話すことはまとまった?」
シンディはにこりと笑みを浮かべて言った。
フィオンは思わず苦い顔をした。姉は人前では“おしとやか”に見せようとするが、アリッサの前でもそう見せかけるつもりらしい。
アリッサは何故かシンディを好いていて、シンディが言う事は比較的素直に聞き入れる。フィオンや他の子供が言うより、明らかにシンディには素直なのである。そのせいかシンディもまた、アリッサの前だと妙に大人ぶろうとする。
苦手な人物の前に行くと、姉がいつもの調子ではなくなる。このことは、フィオンの頭を痛くする要因だった。姉が“変”だと、弟まで調子がくるってしまう。
「……まぁ、一応。」
フィオンはつぶやいた。事前に考えていた、棘の無い言葉たちはどこかへ消えてしまった。姉が調子を崩すから悪いのだと、フィオンは内心で毒を吐いた。
「まともに話すことも出来ないの? 昔からそうだけど、シンディに比べてフィオンって色々と駄目よね。駄目なあなたのいう事なんて、ほんとは聴く義理もないんだけど、シンディがどうしてもって言うから聞いてあげようとは思っているわ。だからしゃんとして、わたしともっと向き合って、言いたいことをキチンと纏めて言って頂戴よね。」
彼の聞き取りづらい小さな声に、アリッサはいちいち文句を言う。
延々と捲し立てるアリッサに、フィオンは思わず身を震わせた。アリッサの言葉は、言葉尻から、何から何までいちいち神経を逆なでる。父は彼女の話し方を、グレゴリー氏とそっくりだと言うが、そうは思えない。
フィオンはカッとして思わず、こちらからも何か悪しざまに、洗いざらい思っていることを吐きそうになった。
しかし、頭の片隅に“これも妹の、アイリュスのためだ”と抑止する自分が居る。そんな献身的な自分のおかげで、フィオンはなんとか冷静さを保つことが出来た。頭の片隅に居座る献身的なフィオンは、次の一言を発するように諭してくれた。
「……頼みがあるんだよ、アリッサ。」
思いがけず、言葉はすらりと流れ出た。一度カッと熱くなったことが、彼の言葉から要らない装飾をとかしたのだった。フィオンは飾り気のない言葉を、その調子で続けた。
「アイ……、友達に図書館を案内してやろうと思ったんだ。だから今度、ここに来て、暫くここを見て回ることになると思う。……シンディ無しでね。」
「それで?」
「……で、でさ、その、いいかな。」
「それだけ?」
アリッサは眼の端を吊り上げた。フィオンは、アリッサの威圧的な言い方に不安を感じはじめていた。
「そ、それだけだよ。」
声が震えているのが分かる。緊張しているのだろうか。それとも、ここまで下手に出なければならないことを憂いているのだろうか。考えてみればアリッサに何かを頼むことなど、これが初めてのことだ。
どちらにしろフィオンはじっとアリッサを見つめ、答えを待った。口の中が乾く。断られたらどうしようと、フィオンは不安な気持ちでいっぱいだった。
「ホントにそれだけ? 要するに図書館が使いたってことでしょ? そんなことを言いに来たの? シンディまで連れ出して? ホントに馬鹿なの、あんた。別に良いに決まってるでしょ。」
「そうなるよな、ごめ……は!?」
フィオンは素っ頓狂な声を上げた。アリッサの言った言葉が信じられなくて、二度ほど瞼をぱちくりと動かした。
こんなにあっさりと許可が出るなんて思わなかったのだ。バカと連呼された挙句に“別に良い”と言われるなんて、予想外だった。てっきりそのままの流れで否定されるとばかり思っていたのに。
「い、いいの?」
フィオンは詰め寄りながら確認した。すると、アリッサは面倒臭そうに払う仕草をして、
「図書館使うのに、許可なんて必要ないでしょ。確かにここはわたしの家だけど、博物館や図書館はふつうの人に開放しているんだから。」
と、呆れたと言わんばかりに大きなため息をついてみせた。
「あの、おれがここにいる間、そっとしておいてほしいんだけど……。そ、その友達ってなかなかこっちに来ない奴でさ、こっちの知り合いとはなるべく合わないように、図書館が良いって思ったから……。その。」
アリッサはフィオンを額をつついて、歯切れの悪い言葉を止めた。
「要するに、邪魔するなってことでしょ。別に、あんたの邪魔なんてしないわよ。わざわざ頼みに来るくらいなんだから、仮に見かけたって見ないふりしてあげる。突っかかるのは無しにするってこと。妹さんの誕生日祝いの準備する間、図書館で時間つぶしたいんでしょ、それくらいの時間は、私の視界に脳みそミジンコ系男子が映ることにも我慢してあげる。」
「な、なんかやけに、今日は親切なんだね。」
話しがとんとんと進むことに拍子抜けして、フィオンは腑抜けた声を出した。
すると、アリッサは妙に慌てて、
「そ、そんなの、シンディの為に決まってるでしょ。別にあんたが個人的にやってることだったらどうなっても知らないけど、シンディが大変な想いするのは良くないから、私は邪魔しないで居ようって思ったの! ただそれだけのことなんだからね!」
等と、早口でまくしたてた。
いつも通り憎まれ口を叩くアリッサだったが、彼女が何を意図しているのかを知り、フィオンはほっと胸をなでおろした。アリッサは本当に、自分を邪魔することはないだろうと、確証を得たからだ。
「……ありがとう、アリッサ。」
「えっ!?」
「ほんと、ありがとう。おれ、すんなり聞き入れて貰えるって思わなかったから、なんかすごい嬉しいよ。なんていうか、おれはおまえのこと、少し誤解してたかもしれない。」
満面に、屈託のない笑顔を浮かべた。フィオンの鬱々とした心は晴れていた。シンディの言うとおり、自分は考えすぎていたのだ。ことが上手く運び、これで無事に誕生日当日を迎えられるだろう。
フィオンは嬉しくなって、思わずアリッサを抱きしめた。
「ちょ、ちょっと! 離れなさいよ!! べべ、別にあんたのことを考えたわけじゃなくて、……その、シンディが妹の為にってしてるからであって……、っていうかさっきも言ったけど、ほんとにそれだけで!!」
アリッサは思い切りじたばたして、フィオンを振りほどこうとした。
「……あーあ、仲いいのになぁ、こいつら。だけど、ちょっと惜しいんだなぁ。」
少し離れたところからやるせない表情で、シンディは二人を見つめていた。
ふと、視界の端に居た図書館のカウンターに座っている職員と目が合う。職員は静寂な図書館の風紀を乱す、暴れる二人を睨み付け、それからシンディに”なんとかしろ”と目配せを送る。
シンディは愛想笑いを浮かべた。それからそっと視線を窓の外へと向けると、虚ろな目で空を眺め、ぼそりとつぶやいた。
「どうしてなかなか、上手くいかないんだろうなぁ。」




