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千夜一夜  作者:
(5)消された想い出

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第二十章 吟遊詩人アベルと王太子アルベルト(2)

「後はシスターエルだけか」


 そう言ったとき、寝台から声が聞こえた。


「ちちうえ」


「どうした? アルベルト? 私ならここにいるぞ」


「目が覚めたらちちうえがいなくて、どんどん忘れていって怖かった。大勢の子供達がいて、ちちうえだけがいない」


「アルベルト。そうか。それは怖い夢を見たな。ところでアルベルト。そなたは今何歳だ?」


「10歳。もう随分長くちちうえに逢っていない気がする。クレイも」


 10歳ということは、孤児院にきて7年後か。


「アルベルト。今日は友人や妹代わりの令嬢がきているんだ。逢うか?」


「嫌だ」


「アルベルト」


「ちちうえがいないのが嫌だ。寝たらまたいなくなる。起きなくちゃ」


「アルベルト。そんなに私がいなくなるのが怖いのか?」


「だって本当はちちうえはもう」


「アルベルト」


 本当はわかっているのか?


 10歳の頃には兄上は亡くなっていると。


 少なくとも自分は二度と逢えないと。


「旦那様。このお薬を若に。認識が重なるのは悪化を招きますじゃ」


「アルベルト。薬の時間だ。恐れなくても私はどこにも行かないから」


「じいやの薬は苦いからヤダ」


「若。爺はショックですぞ」


「後で美味しい果汁を用意するから、今は我慢して薬を飲んでくれ」


「いつまでも3歳の誕生日ならよかったのに」


「アルベルト」


「眠り薬だよね。ちちうえ、手を握っていてくれる? 眠ってもいなくならないように」


「わかった。安心しなさい」


「夢の中の女の子。どうしてボクにばかり怒ってくるんだろう。笑えば可愛いだろうに」


「アルベルト」


「ちちうえ。どうか消えないで」


 薬の力で眠ってしまうとアベルは、涙を浮かべてケルトの手を握り締める。


 よほど兄上を失うのが怖いらしい。


「爺。アルベルトの記憶は混在してないか?」


「時間軸が交錯しているようですな」


「兄上に触れることも叶わず失った。つらかったのだろうな」


「夢に出てきた怒ってばかりの女の子って、もしかして私?」


「夢というか記憶だな。3歳から10歳までの記憶は、戻っているんだと思う。だから兄上は、父親はもういないと無意識に理解している。だから、兄上だと思っている私がいなくなるのを恐れるんだ。本当は本人がわかっているから。私は兄上ではないと」


「でも、お父さま。アル従兄さま、お父さまが誰なのか、わかった上で伯父様を重ねているのでは?血筋的には叔父と甥、でも、わたくしたちが輿入れすれば、お父さまはアル従兄さまのお父さまになります。それを考えたら」


「ええ。きっと従兄さまは従兄さまなりに、お父さまに必死で、助けて欲しいと訴えているんじゃないでしょうか」


 事は記憶や認識に関わることである。


 特に故意に作られた人格の交代するほどの。


 必要なのはおそらく心の奥底で一番心を預けている相手。


「爺。確か言っていたわね?」


「はい?」


「アル従兄さま、心の支えにしているのが、お父さまだと。それ伯父様ではないのでは?」


「自信はなかったんですじゃ。心の中まではわからんものじゃから。そうであれば良いとは思ってたんじゃが。亡くなった大旦那様を心の支えにされていた場合、若のこの病気、治せないかもしれないと」


「どういうことだ? 爺」


「心に入り込む治療ですじゃ。その鍵がもう既に亡くなっている大旦那様では、どうにもできないんじゃ。だから、若の気持ちが父上ではなく、旦那様を慕われていると賭けるしかないかと」


 爺が内心で抱えていた不安に思っていたものの大きさにその重さがわかるから、だから、王族のみんなは声をなくした。


 アベルの病が、それほど重いものだとは思わなかったから。


「記憶だけならショック療法とか、色々ありますが、そこに多重人格が絡むと治すのは困難なんですじゃ。鍵は心の支えにある。それが大旦那様である場合、旦那様が違うとわかったら、最悪若の心が壊れる可能性もあったんですじゃ。それが杞憂で済みそうでホッとしておりますのじゃ、わしも」


「だから、気にしていたのか? アルベルトの認識が、現在に戻り完治するまでは、執務を休んででも、側にいてやってほしいと。私に無茶を言ってまで」


 アベルの心の支えがケルトであったなら、問題はなにもない。


 しかし違えば大惨事。


 爺はふたりが別人だとアベルに認識させた上で、ケルトの存在を認識させようと、治療で誘導していた。


 その結果がさっき出た。


 アベルは大好きだった父上は死んだと、無意識下で理解した上で、ケルトの存在を受け入れた。


 アベルの忘れた記憶の中で、一番大切な存在を実の父から、ケルトに切り替えることに爺は成功したのである。


 アベルが目覚めてから眠るまでの一部始終を見て、爺は本気で安堵したのだった。


 最悪の事態は避けられたと。


 後は当初予定していた治療でなんとかなるだろうと踏んでいた。




 どうでしたか?


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