第十九章 忠誠心と本心の狭間で(7)
「この条件には、裏があってな」
「裏ですか?」
「アルベルトが悩んでいただろう? マリンの本心について。仕事と恋愛のどちらを優先するタイプかと」
「はい」
「アルベルトの側室になれる権利を得て、それからどうするか。それでわかるんじゃないか?」
「なるほど。それはよき案ですね」
同意するリドリス公にケルトは、すぐさま指示を出した。
「国王ケルトの命により、シドニー神父に暫くの間、シスター・エルを借り出したいと伝えて欲しい。詳しいことは言えないが、世継ぎ絡みの問題であること、長引く可能性があることも伝える。その代わりシスターを借りるのだから、こちらの希望の全てが叶ったならば、半恒久的な孤児院と教会への援助を行おうと伝えて欲しい」
「援助の額を確認されたら?」
「アルベルトが稼いでいた額と同程度、だな。それだけあれば一年間、生きていける事は証明されている。それで充分だろう。本来アルベルトが去った段階で、得られないはずの金額なんだ。それ以上は必要ないな」
それ以上の援助は、外から見て明らかにやり過ぎに映るだろう。
その辺はケルトは弁えている。
アルベルトがいつも気にしている王族の横暴。
ケルトだって気にしているのだ。
「後マリンを呼んで欲しい。二度手間を省きたいから、シスター・エルと登城が同じでも構わない」
「畏まりました」
アベルの容体が気になるリドリス公は、一言だけ確認してみた。
「殿下が目覚めるまで、猶予を頂いてよろしいでしょうか? 王子が今回の騒動で記憶を取り戻している場合、そのご命令は不要と言うことになりますから」
「そうだな。そうしてくれ」
その時ノックの音が響いた。
「お父さま、こちらですか?」
「レイか?」
「入ってもよろしいですか?」
「あ、ああ」
アベルが倒れているのを思うと、少し躊躇ったが、ケルトは許可を出した。
護衛のマリンに先導されて、レイティアとレティシアが入ってくる。
部屋の中では、アベルが倒れていて、介護されている状況を見て、3人ともハッとする。
「アル従兄さまはどうされたのですか?」
「あ、あ。少し精神的に混乱してな。激しい衝撃を受けて昏倒したんだ」
「激しい衝撃って? なんですか? お父さま」
「ちょうどいい機会だから、マリンに聞きたいんだが」
「はい」
「アルベルトが孤児院に来た頃のことが記憶にあるか?」
「あ、はい。私も2歳でしたが殿下と私は半年違いでしたので、記憶はくっきり残っています。個人的に拘っていたものがありましたし、王子が孤児院にいらっしゃった頃の事は、一応覚えております。それが何か?」
「ではシスター・エルは当時何歳で、既に孤児院にいたのか?」
「シスター・エルは当時まだ両親が健在だったので、実家から教会に通っている日々でした。年齢差は4歳差でしたから、当時のことを一番よく覚えているのは、私よりシスター・エルかもしれません」
「では、僅か2歳でありながら、そなたの記憶にくっきり残るほどの印象を残した。アルベルトとの出逢いとはどういう意味だ?」
「いえ、その。口に出すと、不敬罪になってしまうので、ご容赦いただけないでしょうか?」
「構わん。どんなに失礼な内容でも罪には問わない。申せ」
「は、はい。孤児院に来たばかりの殿下は、どこかぼんやりしていてすることといえば、剣の鍛錬ばかり。はっきり言えば、周囲から浮いてしまっていたのです」
「そうか」
「私も幼かったですから、硬なに周りと打ち解けようとしなかった殿下が、少し癪に触ったというか、周りを見ないことが腹立たしくて、喧嘩を売っては、殿下を何とか子供たちの輪に入れようと必死でした。子供心ながらに、このままではいけないと感じていたのかもしれません。このままでは殿下は孤立してしまうと、なんとなくわかっていたのかも。まぁ今になって思えば、子供の浅知恵だったなとは思いましたが」
「僅かもうすぐ3歳になろうという2歳に過ぎないマリンが、そこまではっきり覚えていると言う事は、同居していなかったとは言え、4歳差で教会に毎日通っていたシスター・エルは、もっとはっきり覚えていそうだな」
「あの一体どういうことでしょうか?」
なにか罪に問われている気がして、マリンが不安げに問い掛ける。
そんな彼女を庇うようにレイティアやレティシアも口を挟んだ。
「何故そのようなことを問うのですか? お父さま」
「説明して頂けませんか? このままではマリンは不安になるばかりです」
「アルの意識が戻るまで待ってほしい。今は説明できないのだ」
ケルトにそう言われたら、誰にも文句は言えない。
3人は口を噤み、寝台で魘されているアベルを見ていた。
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