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千夜一夜  作者:
(5)消された想い出

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第十九章 忠誠心と本心の狭間で(5)

主人公の実の父である先王について

踏み込んで書くのは初めてです。

何故アベルが孤児院に避難させられたのか

その辺がわかるかも?

「爺。兄上がアルベルトに酷な事をしたとは、一体どういう意味だ?」


「あれは今から十六年前。若が三歳になられ、腕輪の継承が可能になった年、若は大旦那様と久し振りに逢えて、とても喜んでおられたんじゃ」


「待て。兄上はアルベルトは、自分の息子だと教えた上で、クレイに預けて育てていたのか? それなら何故記憶がない? 三歳なら僅かとはいえ記憶に残っていても」


「少し黙って聞いて下さらんかの。わしも話して嬉しい話題ではないんじゃよ、旦那様」


 いつもは飄々としている爺の重苦しい雰囲気に、ふたりとも黙るしかなかった。


「大旦那様は若に父親として接しておいでじゃったよ。若も滅多に逢えない大旦那様を父上と慕う仲の良い親子じゃった。大旦那様の悩みはただひとつ。何故親子なのに滅多に逢えないのか? 何故自分には母上はいないのかと、若に問われることじゃった」


「「‥‥‥」」


「そして大旦那様の切望していた若の三歳の誕生日。わしは大旦那様に命じられ、対面の儀に参加しておった。あの日のことは、今でもよく憶えておるよ」


『アル。元気だったか?』


『うん! 元気だよ、父上! ねえねえ、今日がなんの日か知っている? 父上?』


『ああ。三歳の誕生日おめでとう。アルベルト』


『嬉しいなあ。ありがとう、父上! 今日から三歳だよ?』


『今日はアルの三歳の誕生日だからな。特別な贈り物を用意しているんだ』


『なあに?』


『この腕輪をアルに贈ろう』


『え? 無理だよ。そんな大きな腕輪。僕には合わないよ。失くしちゃう』


『大丈夫だ。アルが間違いなく私の子なら、問題なく継承できる』


『危険なものなの?』


『そうだな。少し体に負担がかかる。そのために爺に来て貰っているんだ』


 ここまで聞いて、さすがにクルトも黙っていられなくなった。


 困惑した顔で爺に問う。


「私も王族だが、腕輪の継承に危険や体への負担があるという話は聞いたことがない。確かに継承の儀に爺を呼ぶのは慣例だが、それは妃が万が一不義密通を働いていた場合、儀式を行うと失敗するからで? 兄上は義姉上の不義密通を疑っていたのか?」


「有り得んよ。旦那様。大旦那様は大奥様を信じておられた。不義の子を産むために、命を捨てるような出産など有り得んじゃろう」


「では何故」


「腕輪の継承に多少の危険が付きまとうというのは、可能性は低いが事実としてあるんじゃよ。腕輪の継承に小さな体が耐えられず、王子が倒れた前例が、数例だが確認されておるんじゃ」


「そうだったのか」


「腕輪の継承の後、若は軽い昏睡に陥られた。やはり幼い体に腕輪の継承は、多少の無理はあったんじゃろう。心配して若に付き添っていたわしは、大旦那様に相談されたんじゃ」


「なにを?」


「この昏睡を利用して、若の記憶を消せないかと」


「「なっ」」


「わしは可能は可能だが、危険だと反対申し上げたんじゃ。それに何故今若の記憶を消す必要があるのかとも。唯一の肉親である父の記憶を消される。それでは若が気の毒すぎて」


「兄上。何故そんな真似を」


「大旦那様はこう申された。これから先若と逢うつもりはないと。多分逢えないからと」


「兄上。まさか」


「これはわしの推測だが、大旦那様は体調に異変を感じておられたんじゃないか。ご自分の余命が短いことを悟っておられたのではないかと」


 その証拠にと肌身離さず持っていた書状をクルトに差し出した。


「大旦那様はこうも申された。若の安全のために若の痕跡は消すと。そのために新しい環境に馴染ませるためには、ここでの記憶が邪魔になる。だから、これを弟を探し出して渡し、若の安全が確保できるのを信じたいとも」


「これが兄上が私に宛てた最期の手紙?」


「隣で拝読してもよろしいですか? 陛下? あの人が残した最後の痕跡なら知りたいので」


「構わない。私がリドリス公爵の立場でも、同じことを願うだろうから」


『我が最愛の弟ケルトへ。

 

 この手紙が無事そなたの手に渡るころ、私はおそらくこの世にはいないだろう。

 体調に異変があり、これは遅効性の毒だと判断したが、犯人もどうやって毒を盛っているかもわからない。

 このままでは私は多分助からない。

 ケルト。

 私には幼い息子がいる。継承権を得たばかりの、本当に幼い世継ぎだ。

 今の状況下で息子を手元に置いたままでは危険と判断した。

 森に隠した世継ぎを探し出し、どうかケルトの手で即位させて欲しい。

 それが私の最期の願いだ。

 それから次期宰相にはリドリス公爵を推す。

 そなたは喧嘩ばかりしていたが、これ以上はない忠臣であり、私にとっても得難い友だから。

 最後にケルト。

 そなたが城を捨てたのは、おそらく身分の低い愛する女性がいたのだろうが、そのことを相談してもらえなかったことを、多少恨んでいる。

 私が反対するとでも思ったのか?

 だとしたら兄不孝ものだぞ?

 今そなたが近くにいたら、違う手を打ったかもしれない。

 今更恨み言を言っても仕方ないが。

 最早手遅れなほどに私の体は毒に冒されているから。

 私の愛しい弟よ。

 私の残した次期王をよろしく頼む。

 ケルトも家族で幸せにな』


 形式など無視した思いの丈をぶつけるような遺言だった。




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