第十九章 忠誠心と本心の狭間で(1)
ここからマリン問題に突入します。
マリンの望む幸せの形とは?
第十九章 忠誠心と本心の狭間で
「ただいま。叔父さん。時間内に帰ってこれたよな?」
リドリス公の城にフィーリアを送り届けると、もう時間がなかったので、フィーリアにリアンへの伝言を頼んで帰城した。
そのときリドリス公がいなかったので、王城に向かったんだなと判断して。
帰城してから執務室に顔を出せば、そこにはケルトの傍らに右腕である宰相リドリス公が控えていた。
「先程は娘たちのために、わざわざお出向きくださり、ありがとうございます。アルベルト殿下」
「当然のことをしただけだよ。元はと言えば原因は俺みたいなものだし」
「それでも殿下は、きちんと動いて下さった。私には感謝の気持ちしかありません。本当にありがとうございました!」
「リドリス公」
アベルが困っているとケルトが割って入った。
「なんだか顔色がよくないようだが、向こうでなにかあったのか?」
「娘たちがなにか失礼でも?」
「いや。リドリス公のところではなにもなかった」
「それは他で何かあったという意味か?」
やはりケルトはアベルに関しては鋭い。
アベルは図星をさされて、扉に凭れ掛かると口を開いた。
「フィーリアの養子縁組の報告と婚約の報告に教会に行ったんだ。そうしたらエル姉が」
「エル姉?」
「あ。ごめん。シスターエルがって言ったほうが早いかな」
「ああ。あの怪盗をやっていた女性か。それで?」
「もうひとり候補に入れてほしい人がいると言ってきて」
この発言に対して反応はなかった。
ただふたりとも難しい顔になっている。
アベルは気を遣いながら発言を続けていく。
「フィーリア以外にも俺を好きでいてくれた人がいたらしくて、その人を候補に入れてほしいって。職務の関係上で気持ちを封じるしかないのは可哀想だって」
「もしかして近衛騎士のマリンか?」
「もうバレた? 俺も相手がマリンだとしたら、俺への好意を無視して、その上で妃たちの護衛をさせるのは気が咎めるというか」
「アルベルト。そなたはもしかして押しに弱いのか? 当人からであれ、周囲からであれ、好意を寄せられると断れないのか?」
「全く知らない人とか、邪な魂胆の人なら簡単に断れるよ」
「つまり最低限友人と呼べる相手からの好意を断ることはできないということか」
「ただマリンの件は簡単な気持ちで、動いてはいけない気がした。マリンを側室に迎えたら、警備体制が大きく崩れてしまうから」
「そうだな。マリンを側室に迎えたら、問題しか残らない。マリンには悪いが」
「さっき俺は押しに弱いって叔父さんは言ったけど、今回の件は相手がマリンじゃなかったら迷ってないよ。さっきも言ったけど、マリンが本気で俺を想ってくれている場合、その気持ちを無碍にして、妃の護衛をさせるのは、良心が痛むというか」
「まあそれは治世者の傲慢というか、その類の問題だからな」
ケルトの言っていることも尤もで、アベルは部屋の奥のケルトの執務机に近付いた。
「レイやレティに気付かれず、この問題を片付ける方法がないかな? シドニー神父の言葉を借りれば、どんな形であれマリンの気持ちが片付いて、側室に迎えるにしろ、振るにしろ、ね。その上で彼女が魂を注いでいる仕事と両立できれば、俺も気が楽なんだけど」
「難しいことを簡単に言うな。リドリス公。なにか良い作戦はないか?」
「私に振るんですか? そうですねえ」
話を振られたリドリス公は、暫く考え込んでから、アベルに確認した。
「殿下はどう収まれば納得できるのですか?」
「俺が納得? え? マリンじゃなくて?」
「幼馴染につらい想いをさせて、自分だけ幸せになるのが、居た堪れない。そういうお話なのでは?」
「え? 俺の自己満足の話? いつそうなった?」
アベルがオタオタしているとリドリス公は、まだ続けた。
「殿下は色々小難しく仰ってますが、要は彼女を傷付けたまま幸せになるのが、良心が痛んで仕方ない。そう聞こえましたけど?」
「あ。要約するとそうなるのか? つまり俺の自己満足の話なのか?」
混乱するアベルを見かねてケルトが割って入る。
「まあそういう一面がないとは言わないが、誰かを傷付けて自分だけ幸せになるのが、心苦しいというのは、誰でも考えることだ。あんまり考え過ぎないほうがいい」
「う、うん」
「しかもマリンの職務は、妃たちの護衛。余計に気になるだろう。それは仕方がない話だ」
ケルトの気遣う言葉に、アベルは少し救われた気がした。
でも、そうか。
自己満足か。
そうとも取れるのか。
マリンのことばかり意識していたつもりだが、半分くらいは自己満足のためだったんだな。
人間とはなんと身勝手なんだろうか。
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