第十八章 恋心と嫉妬の戒め(10)
第十八章 恋心と嫉妬の戒めはこれにて完結です。
次回からは第十九章に突入します。
「俺はそれがわからないんだ。マリンは仕事熱心で、レイやレティに対する忠誠心も強い。仕事に生きることが、マリンの幸せなのか。それとも恋の成就か。どちらをマリンが望んでいるのか、俺にはそれがわからないんだ」
アベルの危惧も尤もだった。
シスターエルは善意から口に出したが、マリン自身が自分の幸せをなんだと決めているか、それを無視してはいけない。
もし仕事に生きることを望んでいたら、実行に移した場合、職場を壊すわけだから、それこそ余計なお世話になってしまう。
感謝どころか恨まれる結果になりかねない。
「やっぱり余計なお世話だったかしら?」
「マリンから先に聞き出すという方法もあるけど、それ自体不快にさせる可能性がある。それでも俺も思うんだ。マリンがもし本当に俺が好きで、辛い気持ちを抱えてるなら、それを解消せずに護衛として甘えてるのもダメだと思うんだと。だから、なにかをするなら、よく考えてから決める必要がある」
リアンやフィーリアのように気持ちを認めれば済むという簡単な問題じゃない。
マリンには仕事があり、仕事に情熱を燃やしてもいる。
その仕事は王妃となるレイティアや、第二妃レティシアの護衛。
その結婚相手がアベルで、マリンが好きなのも、多分アベル。
相当ややこしい問題だ。
これは政治的な問題に発展しかねないだろう。
ケルトやリドリス公にも相談しないで、単独で簡単に動いてはいけない。
それだけは世継ぎとして理解していた。
「シドニー神父」
「はい?」
「これは確認なんですが、シドニー神父から見ても、マリンの気持ちは明らかでしたか」
「私から口にするのもマリンには悪いですが、それはもう幼少の頃からあからさまなほどに一途でしたね。鈍い私にもわかるくらい」
「そうですか。じゃあやっぱり叔父さんやリドリス公に相談しないと、迂闊には動けないな。マリンの問題はリアンの問題より厄介だから」
現在の警備態勢に大きな影響が出る。
そのくらい警護におけるマリンの影響力は凄かった。
妃たちを守れる唯一無二の女性騎士。
表向きは王女たちの専属護衛騎士だが、正式には近衛騎士である。
女性で近衛を名乗れるのは、マリンただひとりである。
それだけ狭き門ということだ。
近衛に女性枠はないので、男性相手に互角以上に戦えないと女性は近衛にはなれない。
マリンはその狭き門を通り抜けて近衛になったエリート中のエリートなのだ。
だから、この問題はアベルの一存では動けない。
すべての関係性を壊してからでは遅すぎるから。
「だが、私はあの子にも幸せになってほしい。確かにシスターエルが言うように、フィーリアまでが結婚相手となっている状態で、マリンだけが職務の関係で省かれるのは悲しすぎる。職務を続けながらも、あの子の想いも成就する方法があればいいんですけどね」
シドニー神父の発言に、アベルは少し考え込んだ。
それから顔を上げる。
「とりあえずフィーリアの件は、きちんと報告したので、俺たちはこれで帰ります。マリンの件はどうなったかは経過を見てくださいとしか言えませんが」
「それで充分です。アルベルト殿下。陛下にもお礼を申し上げますとお伝え下さい」
「え?」
「あのとき頂いた生活費のおかげで、今も食べていけています。ありがとうございますと」
「わかりました。伝えますね、シドニー神父」
そこまで会話してからアベルは、寄り添っているフィーリアを振り向いた。
「それじゃ帰ろうか? フィーリア? 送っていくよ」
「はい。アルベルト様」
答えてエスコートされて馬車に乗り込んだフィーリアは、馬車が走りだしてから、窓から顔を出して泣きながら叫んだ。
「シドニー神父様! エル姉! もう逢えないかもしれないけど元気でね!」
「フィーリアも元気で!」
「幸せになってね! 見守ってるからね、フィーリア!」
エルやシドニーの瞳にも、光るものがあって、アベルはこれが別れなんだなと実感していた。
また逢えるといいな。
口には出せない想いを胸に秘めて。
どうでしたか?
面白かったでしょうか?
少しでも面白いと感じたら
☆☆☆☆☆から評価、コメントなど、よければポチッとお願いします。
素直な感想でいいので、よろしくお願いします!




