第十七章 四角関係(5)
舞踏会が終わりを迎える。
その前に彼女と話そうとレイティアを探したがいない。
これはリアン絡みでなにかあったか?
ケルト叔父に相談した方が早いかもしれない。
レティシアは既に侍従に任せて部屋に送り届けたし。
とにかく今はレイティアを探さなければ!
平等性。
それを見失いたくない。
アベルはふたりに平等であろうとするあまり、自分が身動きできない状態に陥っていることにまだ気付いていない。
平等であることは確かに重要だ。
しかしそれにのみ囚われてしまうと自由に動けなくなる。
アベルはそんな恋愛の恐ろしさをまだ知らなかった。
そのままの焦りでケルトを探す。
すると近くから言い争う声が聞こえてきた。
なんだろうと耳を澄ます。
アベルは元々の職業柄耳はいいので。
最初は今日は問題の多い日だと軽い気持ちで。
すると。
「ねえ、リアン。どうしてそんなに泣いているの? 言ってくれないとわからないわ。さっきの事件だけが理由ではないのでしょう?」
この声はレイティア?
アベルはそっくりだと言われるふたりの声を聞き分けることができる。
レティシアは少し高めのソプラノで、レイティアは落ち着きのある少しだけ低めなアルト。
凄く微妙な違いなのだが、アベルにはそう聞こえる。
どうやらさっきの続きのまま、レイティアとリアンが揉めているらしい。
アベルは自分が行って余計に事態を悪化させないか懸念しながら、声のするバルコニーを目指した。
「レイティア様にはきっと言ってもわからない。わたくしの気持ちなんて」
「どうしてそう思うのか教えてちょうだい」
説得しているレイティアも少し疲れているのがわかる。
声に僅かな疲労と苛立ちが混じっている。
わかってくれない親友に疲れ。
「わかるはずがない。レイティア様の慰めは、ご自分は愛されているという自負から来る優越感ですか?」
「リアン。あなたまさか従兄さまのことを?」
近づきつつそこまで聞いていたアベルは、完全に割り込むタイミングを見失ってしまった。
(不味い。これ、俺が出ちゃいけないやつだ。でも、放置するとレティシアに告白してる今、レイティアへの告白が、あまりに遅くなると誤解される。どうしよう。リアンを嫌いかと言われるとそう言い切れないし、泣かせたいわけでもないのに)
一度重婚を受け入れてしまうと背徳感との戦いはあるが、ハーレムもきちんと認められているなら、いいのかもしれないと思えてくる。
人間環境が変われば考え方も変わるものだ。
教会で育ったあのアベルが、今は自分がハーレムの主人になることを受け入れているのだから。
だから、多分リアンの事情がそれを許すなら、今のアベルは多分彼女を側室に迎えるだろう。
元々リアンには好感を抱いていたし。
完全なリアンの勘違いとも言えるが、アベルは彼女の家の事情をよく理解しているので、面と向かって告白されても断るだろう。
宰相もやっている公爵家の唯一の跡取りを王子の権力で奪うわけにはいかないと、アベルにだってわかっているから。
断ることで胸が痛んでも、それが自分の役目だと言い聞かせて。
(ごめん。リアン。もしかしたら恋人になれたかもしれないのに、貴族の常識を優先させて泣かせる俺を許してほしい)
「レイティア。ここにいたんだ?」
「従兄さま」
「アルベルト様!」
「悪いけどレイティアに話があるんだ。少しだけ借りるよ?」
そこまで言ってから、アベルはマリンを呼んだ。
「マリン!」
「はっ! 御前に」
「リアンを無事に公爵のところまで連れて行ってほしい。それが終わったらレティシアを守ってほしいんだ。レイティアは俺が部屋まで送るから」
返事をして一礼したマリンは少し戸惑って、結局は口を開いていた。
「随分女泣かせになったわね、アベル。環境はやっぱり人を変えるの?」
「俺はなにも変わってないよ。ただ課せられた重婚を受け入れただけだ。それを変わったと思うのなら、そうかもしれないな」
「そのことじゃないわ。あんたは絶対に自分から女の子は泣かせないと思ってたから」
ここでリアンを切り捨てることを言っているのかとわかったが、だって言えないではないか。
貴族社会の常識的にリアンの気持ちは受け取れないなんて。
それなら一度は泣かせても、ここで突き放すべきだとアベルは思う。
どうせ一緒になれないなら、その方が彼女のためだと。
恋って怖いな。
素晴らしい面もあるけど、叶わないときは、こんなに辛いのか?
アベルからはなにも言えずにいると、マリンはリアンを宥めながら連れ出してくれた。
「従兄さま。よかったのですか?」
「彼女がどんなに俺を想ってくれても、彼女は俺の妃にはなれない。それが現宰相の公爵家の跡取りってものだろ? 突き放すことが優しいことも世の中にはあるよ。悲しいけどさ」
「従兄さま」
「アルベルト」
「え?」
「レティシアにも言ったけど、婚約者に兄呼びはおかしいから、これからは呼び捨てにしてくれよ」
「婚約者と認めてくださるのですか?」
レティシアのときみたいに瞳を潤ませるレイティアにアベルは、リアンが去って行った方を振り向いた。
「従兄さま?」
「ふたりが言い寄られて困ってたとき、とっさにレイティアとレティシアは、俺の大事な婚約者だって気持ちが口から飛び出した。そのときリアンのことは、大事な友人と言ってしまったんだ。気持ちの自覚と引き換えに、俺が彼女を傷付けたな」
「従兄さま。それ遠回しな告白です」
「レティシアにははっきり言ったから、真似しても仕方ないし、だから、レイティアには行動で」
そう言ってアベルは彼女の肩を抱き寄せると頬にキスをひとつ落とした。
「ごめん! 今はこれが精一杯!」
「従兄さま。お顔が真っ赤ですわ」
微笑むレイティアの方が余裕がありそうで、アベルは真っ赤な顔のまま俯いた。
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