第十七章 四角関係(2)
アベル、いや、アルベルト王子と現王ケルトの双子の王女、レイティアとレティシアの婚約は、諸外国にも広く知れ渡り、知らぬ者の方が少ないくらいだった。
しかし重婚を快く思わない国々も多く、ディアンとの国交をより強固なものにするために、ふたりの内どちらかがアルベルトの正妃となるなら、もうひとりは我が国に迎えたいという申し出が殺到していた。
重婚が問題ではないのだろうなと頭を悩ませながらケルトも思う。
有力貴族や諸外国の王族と婚姻を結び、国同士の繋がりを強固にすべき王女が、ふたりとも自国の世継ぎに嫁ぐと発表されたから、諸外国は慌てているのだ。
これまでアルベルトの存在が明らかになる前は、レイティアが女王になり、レティシアがどこかの王族に嫁ぐのだろうと噂されていた。
またレティシアもそれを覚悟してもいただろう。
まさか今になって好きな相手に嫁げるとは、想像もしていなかったはずだ。
そのレイティアと有力貴族最後の令嬢とあってか、リドリス公爵令嬢リアンにまで申し込みが殺到していた。
「公爵」
執務室でふたりきり頭を悩ませていたケルトと公爵は、不意に声をかけられて背筋を伸ばした。
「はい」
「レティシアの方はマリンに護衛を頼むが、リアンの方は公爵の方から、信頼できるできれば女騎士を護衛につけてくれ。マリンほど信頼できる騎士は、見つけ出すのも難しいだろうが」
「はい。既に手を付けていますが難航しています。マリンはかなり腕が立ちますからね。彼女を基準にすると誰も残らなくて」
「しかしマリン以下となると選ぶ気も起きないか」
ここまで言ってから無駄だろうなと思いつつ指摘してみた。
「男性騎士はどうだ?」
「どれほどの腕前があろうとも、異性は異性。信頼できません!」
断言する公爵にケルトも頷くしかなかった。
「マリンがふたりいるか、もしくは貸してほしいくらいです」
「それはどちらも難しいが、ひとつだけ手段があるぞ?」
「なんでしょうか?」
「公爵も長く滞在している宮中にリアンを招き、3人同時にマリンに護衛させる」
「確かにマリンの負担は大きくなりますが、それが理想的な解決策な気はしますね」
しかし自分で指摘した通り、マリンの負担が大きすぎる。
万が一なんらかの理由で、3人にバラバラに動かれたら、マリンの手には負えなくなる。
それを防ぐためには最低限マリンのお眼鏡にかない、自分たちも納得いく部下を後ふたり選抜する必要がある。
それを王に相談すれば、快く承諾してくれた。
「マリンも呼んで詳しい相談をしよう」
そんな事態になっているとも知らないアベルは、ひとり隔離され勉学に励んでいた。
遅れている勉学は数多く、アベルはそれを父譲りの才覚でなんとかしている。
その日は隣国から皇太子が来ているとかで、宮廷はずっとピリピリしていた。
アベルの同席は望まれなかったので、詳しいことは知らないが、なんでも正式な来訪らしく、今夜舞踏会が行われることになっている。
アベルはまだ舞踏会などのパートナーなどを申し込んだことはないが、今回はそういうことも言っていられないんだろうなと考えていた。
ここで申し込まないと婚約者であるふたりの立場が丸潰れだからだ。
とりあえず講義を片付けて、早くふたりに申し込みに行こうと考えていたのだが、舞踏会開始直前まで長引いてしまい、アベルは遅れて登場することとなった。
そのせいで事態は意外な方へ傾いて行くことになる。
アベルは周囲を騒がせないように黒い仮面を身に付けて、舞踏会会場に紛れ込んだ。
世継ぎとして騒がれたくないと爺に相談した結果だ。
アベルは前王に生き写しなので、現れただけで騒ぎになるから。
舞踏会には出慣れているが、自分が主役のひとりという事態には慣れていない。
戸惑いつつ中央に進もうとして、意外な場面を目にした。
レイティアは第一王女だからか、ケルトやリドリス公爵と外交に忙しく、残されたレティシアとリアンが、貧乏くじを引いたみたいだった。
柱に追い込まれるようにして、数人の貴族の子弟らしき青年たちに囲い込まれている。
それを見つけたアベルは、ため息をつきつつ近づいていった。
「レティシア姫。私は貴女に恋焦がれているのです。貴女を恋慕うこの気持ちをどうか受け入れて頂けないでしょうか?」
「わたしにはアルベルト王子という正式な婚約者がいます。お受けできません。お諦めください」
「ですが王子にはレイティア姫がいらっしゃる。王妃にはレイティア姫がおなりでしょう。貴女に第二妃は似合わない」
これにはレティシアも答えられなかったのか、口を噤んでしまった。
その間に違う男がリアンを口説く。
甘い言葉に遅効性の毒を込めて。
「ぼくはリドリス公爵令嬢に婚約を申し込みたい。この手をとって一曲踊って頂けませんか?」
敬愛する父が断った相手なら、リアンに受ける意思はない。
断りたいが周りを子弟に囲まれていて、怯えてしまい声が出ない。
その様子を見て同意ととったのか、主格の青年がふたりレティシアとリアンに腕を伸ばした。




