第十五章 お披露目の夜に(1)
第十五章 お披露目の夜に
近付いてくるアベルのお披露目のために、ケルトはここ暫く多忙な日々を送っていた。
彼にしてみれば、それは嬉しい悲鳴なのだが。
亡くなった兄王の正式な世継ぎとして、アベルを紹介できるというのは、彼にとっては夢にまで見たことだ。
そのために多忙になるのは望むところだった。
おまけにそのお披露目で娘たちとの正式な婚約まで企んでいるのである。
これを喜ばないでなにを喜ぶの世界なのだ。
しかしそんな日々に浮かれていると、ここ暫く落ち込んだ顔をしていることの多かった宰相、リドリス公爵から不意打ちを食らってしまった。
それは執務室でふたりきりになったときに、言いにくそうにリドリス公爵に声を投げられたことから始まった。
「あの……大変申し上げにくいのですが、陛下」
「なんだ?」
アベルのお披露目のための衣装選びの書類に目を通していたケルトは、不意に声を投げてきたリドリス公爵を振り向いた。
公爵は居心地が悪そうに俯いている。
それでなんとなく良くない予感がして眉を潜めるケルトだった。
「娘のことでひとつお願いがございます」
「令嬢のことでわたしにお願い? 一体なんだ?」
不機嫌さを隠しもしないケルトに、リドリス公爵は「もう警戒されている」と内心で途方に暮れていた。
ケルトの不興を買うのを恐れはしない。
だが、その結果が娘に跳ね返るとなれば、さすがの公爵も肩身が狭いので。
打ち明けるのは非常に気が重かったが、言わなければ口に出した意味がないので、リアンがなにを気にしているかをケルトに打ち明けた。
最初はアベルのアの字も出さずに。
打ち明けられたケルトは、さすがにちょっと居心地が悪そうだった。
自分の娘たちと比較され、落ち込まれるというのは、やはり肩身が狭いらしい。
遠回しにケルトにも責任があると言っているようなものなので。
「リアンがそういうことを気にしているとは思わなかったな。三人でよく親しくしていたし。女性としてプロポーションのことで、レイたちと自分を比較して、落ち込んでいるとは想像もしなかった」
親しくしていたのが嘘とはケルトも思わない。
寧ろ引け目を感じていたのに、付き合うときには微塵も、そんな気配を感じさせず、友情を貫いてくれたことに感謝したほどだった。
尤も。
その感想も公爵が続きを口にするまでの話だったが。
「妻の推測したところによれば、元々気にはしていたようです。王女殿下方と比べて、自分があまりに幼い体型をしていることを」
「しかしこれまではそれを態度には出さなかった。そうだろう?」
「はい」
「いきなりどうして夫人に打ち明けたんだ?」
それが解せないと首を傾げるケルトにリドリス公爵は一呼吸おいてから告げた。
口に出すには気が重かった現実を。
「それは……アルベルト殿下のご影響かと」
「アルベルト? 何故?」
眉間に皺を作り渋面になるケルトに公爵は「これは懸念しているな」と内心で困り果てていた。
今はどん言い方をしても、ケルトを不機嫌にせずに片付けるのは無理だろうと悟って。
「おそらく陛下もご推測されていらっしゃると存じますので、敢えてはっきり言わせて頂きます」
「……言うなと言っても言うんだろう?」
ムッとしているケルトにリドリス公爵は、ちょっとだけ黙り込み頷いた。
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