第十四章 秘められた想い(5)
「あの子はその……年頃の同性と比べて、少し……幼いでしょう? 体型が」
言われて公爵は言葉に詰まった。
公爵には「可愛い娘」と映るあの体型も、女の子にとってはどうやらコンプレックスだったらしいと知って。
「特に恋敵であられる王女殿下方は、その……凄く言いにくいのですけど、リアンと比較して女性として魅力的なプロポーションをお持ちですわ。比較されればそれは落ち込むでしょう? 自分だけが子供だと」
「確かに王女殿下方は女性として魅力的だが、そういう体型の女性が好きという男ばかりでもないぞ?」
「それは男性の言い分です」
苦笑いで言われて言い返せない公爵だった。
確かにそうだったので。
同じ男として魅力的なプロポーションがあるように、同じ女性として憧れるプロポーションがあるのだろう。
それがリアンの場合は王女方にはあって、自分にはなかったのだ。
「わたくしも女性としては、その……あまり恵まれた体型ではありませんから。あの子はわたくしに似てしまったのでしょう。申し訳なく思います」
公爵は二度目の結婚については出産というのを条件に入れて選んだので、体系的に多産系の上に家系的に大家族だったりと実績のある女性を視野に入れて選んだ。
つまり彼女の実家は大家族だったということだ。
しかもこれは予想外の結果に終わったが、女の子より男が多い家族だった。
その中の唯一の女の子という位置に彼女はいたのである。
しかし男ばかりの中で育ったからか、それとも彼女の母親も体型には恵まれていなかったので、ただ単に似てしまったのか。
彼女はあまり女らしい体型ではなかった。
第一夫人は女性として魅力的な体型の女性だったので、公爵の眼にも最初は酷く幼く映った。
これで肉体関係を持つという現実が、どうにも受け入れにくく付き合う期間を長く置いて、そういう関係になれるかどうかを判断した過去がある。
だから、彼女が気にする理由はわかるのだが。
「もしかして気にしていたのか? 奥との体型の差を」
問われて夫人は曖昧に微笑む。
その顔から肯定と知る公爵だった。
思わずため息が出る。
「言い訳くらいさせてほしいが、確かに出逢った頃はふたりを比べていた。奥と比べてあまりに幼く映るそなたを妻として愛せるかどうか、わたしにも自信が持てなかった」
「わかっています。だから、長く婚約すらせずに付き合っていたのでしょう? あの頃は別れを言われると覚悟していました」
「リーズ」
夫人の名を呼んで頬に手を当てる。
リーズ夫人は軽く首を傾げていた。
「子供を産ませることだけが目的だったなら、リアンが産まれた後にそなたを抱いたりしなかった」
「……あなた」
跡継ぎとなるリアンが産まれても、夫が望んでくれたのは、きっと女の子だったからと思い込んでいた夫人である。
この言葉には酷く驚いた。
「そなたには誤解されていたようだが、わたしはリアンが跡取りでなにも不満はない。令嬢も悪くはないものだ。自分で選んだ信頼できる子弟を跡取りにできるからな」
「ではどうして?」
「男が女を抱くのに愛しているから。それ以外の動機がいるのか?」
「そんなこと一言も……」
「わたしは口下手なのだ。それくらい察しなさい」
顔を赤く染めてそっぽを向く夫にリーズ夫人は涙を浮かべて見詰めている。
「妻としてひとりの女性として愛せると自信が持てたから、だから、結婚したのだ。そなたと結婚したのは決して跡取りを産ませることだけが目的ではない」
そこまで言ってから公爵は泣いている夫人をじっと見上げた。
「ここまではっきり言ったのだ。もう誤解してはいけないぞ? そのときは」
「そのときは?」
「朝まで寝かせないという罰にしようか?」
皮肉な笑みを浮かべ笑う夫に夫人は意味が通じて赤くなった。
「だからというわけではないのだが、リアンが体型を気にしているというそなたの話だが、わたしはさほど気にするようなことではないと思う。さっきの意見をそなたは男の意見だと一蹴したが、リアンが気にしているのも、その『男の意見』なのだろう?」
要するにリアンが自分の体型を気にして子供だと拗ねるのも、アベルがそんな自分を見てどう思うか。
そこが気になるからである。
逆から言えばアベルが「そんなリアンがいい」と一言言えば、きっと気にしなくなる。
公爵はそう思っていた。
愛する人のために美しくいようと努力はするだろう。
だが、愛されている自負があれば、殊更に自分を貶めたりしないものだ。
リアンに足りないものは自信だと公爵は思う。
「確かに殿下にどう思われるか気になるからあの子も気にするのだとは思いますけど」
「ここは陛下にお断りをして、殿下のお力を借りるべきだろうか」
「あなた?」
「いや。さすがにわたしも体型のことを気にする娘になんて言えばいいのかわからない。解決できるのはアルベルト殿下だけだと思う」
「そうでしょうね。殿下が一言女の子として魅力的。そう言って下されば、きっとリアンも気にしなくなるとは思うのですが」
「ただあの子の気持ちを明かすか伏せるかで悩むところだが」
「殿下に対してですか?」
問い掛けに公爵はかぶりを振った。
「陛下に対してだ」
「それは……」
「陛下はアルベルト殿下のことでは、常の冷静さを失われる傾向がある。特に王女殿下方との婚約準備を進めているときに、リアンの気持ちをお教えすれば恐らく……」
リアンを責めることはないだろう。
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