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ダンスゲームセット【紫芋のプリンとジュース】

参考ゲーム

ダンスダンスレボリューション

「ゴーゴーカフェやりましょ」


「うちの店に客が踊れる余裕なんてないぞ」

 ゴーゴーとはロックやソウルに合わせて踊るダンスだ。

 ゴーゴーカフェは1960年代に一世を風靡したらしい。

「だからこれで踊るのよ」


『ダンスダンスクーデター』


 有名なダンスゲームだ。

 専用のマットコントローラーを本体に繋ぐ。

 四角形のパネルがあり、前後左右の矢印が配置されていた。


×↑○

←□→ 四隅の○×△□はコントローラーのボタンに対応している 

△↓□


 音楽に合わせて画面の上から矢印が降ってくる。

 この矢印が下にある矢印アイコンと重なった瞬間に、対応するパネルを踏むのだ。

「どうせ踊るんならゴーゴーじゃなくて『スウィングジャズ』にしろ」

「あの楽器を振るやつね」

「は?」

「あれ? スウィングって楽器を振ることじゃないの? 映画でもアニメでも楽器をくるってさせてたんだけど」

「……ノリが良くて、思わず体を揺らしてしまうことをスウィングっていうんだよ」

「まぎらわしいわね」

 普通はそんな勘違いしない。

「でもスウィングジャズって踊れるの?」

「踊れる。スウィングジャズが大編成のビッグバンドを組むのも当時の音響設備がしょぼかったからだしな。ダンスホール全体に音を響かせるには頭数を増やすしかない」

「へー」

 スウィングジャズが流行していたのは1920~30年代のアメリカ。

 アル・カポネが暴れていた禁酒法の時代だ。

 秘密裏にアルコールを提供していたダンスホールで、ダンスミュージックに選ばれたのがジャズだった。

「ジャズって種類が多いからどれを聞けばいいのかわからないのよね」


「スウィングは貴族の音楽だ」


「なにそれ、かっこいい」

「昔のジャズミュージシャンのあだ名は大げさなのが多かったんだよ。そしてスウィングを代表するアーティストが公爵デューク伯爵カウントだ。この2人の曲なら間違いはない」

「キングはいないの?」

「いるぞ。全盛期はスウィングの時代よりも前だけどな。あとスウィングで有名なアーティストというとグレン・ミラーだな」

 『茶色の小瓶』に『ムーンライト・セレナーデ』、『イン・ザ・ムード』あたりが鉄板だろう。

 ためしにムーンライト・セレナーデでプレイしてみる。


『miss』


「なに?」

 ちゃんと踏んだはずなのにミス判定された。


『miss』

『miss』


「なんでだ?」

「↑と↓間違えてるわよ」

「あ」

 どうやら↑の時に↓を、↓の時に↑を踏んでいたらしい。

 ←と→は間違えようがないが、下のパネルを見ずに踏んでいると前後がわかなくなり、つい間違えてしまうのだ。

 『↑↓』の同時踏みも曲者だ。


『miss』


「くそ!」

 前足と後ろ足のタイミングが合わない。

 『←→』の同時踏みは簡単だ。

 なぜなら右足と左足を同じ動きで横に広げればいいからである。

 だが前足と後ろ足では足の動き方が違うので、微妙にタイミングがずれてしまう。


「体を横に向けて踏めばいいのよ」


「こうか?」

『Perfect』

「おお!」

 いいタイミングで踏めた。

 横を向いて←→を踏めば↑↓になる。

 こういうアドバイスがすぐに出てくるということは、おそらく初級者がハマりがちな場所なのだろう。


『↑→』


「うお!?」

 今度は前と右の同時踏み。

 この90度踏みを反射的に踏むのは難しい。

 ただ『↑→』『→↓』『↓←』『←↑』の4パターンしかないので、慣れれば対応できる。



「長い!?」

 変わり種の矢印が来た。

 夢中で連打する。


『miss』


「なに!?」

「それ、矢印が続いてる間はパネルを踏みっぱなしにしろって意味よ」

「連打じゃないのか……」

「『太鼓の名人』やってる人ほど連打しがちね」

 ありがちな勘違いらしい。



 今度こそ本物の連打が来た。


『miss』


「ぐ」

 予想外に難しい。

 イメージではトントントンと簡単に踏めるように思える。

 だが慣れていないと、人間の足はそんなにスムーズに動かない。

 個人的にはかかとで踏むよりつま先の方がやりやすかった。


 ……連続で連打が来るとさばききれないが。


『Perfect』

 試行錯誤しながらやっている内にコツもわかってきた。

 パネルの真ん中を踏む必要はない。

 少しでもパネルに触れていれば反応してくれる。

 ただし体重をかけないと反応しないし、大きな音を立てて踏むと疲れてしまう。

 パネルが壊れる可能性もあるので、適度な脱力が必要だ。


 それと矢印パネルを踏んだ後、必ずしも足を戻す必要はない。


 どうやらこのゲーム、他の矢印を踏んでもミスにならないらしい。

 本能的に矢印パネルを踏んだ後は真ん中のパネルに足を戻していたが、矢印を踏みっぱなしでもOKなのだ。

 ということは左足で←を踏みっぱなしにしておき、利き足の右で↑→↓を踏むこともできる。

 疲れてきたら軸足を入れ替えればいい。


「『関東ステップ』ね」


「やっぱり同じことを考える人はいるんだな。関東というからには『関西ステップ』もあるのか?」

「あるわよ。矢印じゃなくて真ん中に左足を置いて、右足で↑→↓踏むの。←が来た時はジャンプして軸足を入れ替えて踏むわけね」

 試しに踏んでみる。


ぴょんぴょん


「ハアハア……」

 頻繁に軸足を入れ替えるために飛び跳ねるので、かなりスタミナの消費が激しい。

 東北民に関西ステップは向いていないのかもしれない。

「仕方ないわね。お手本みせてあげる」

 瑞穂がパネルに乗り、リズムを刻む。

 矢印が来ていなくてもパネルを空踏からぶみして、ずっとそのリズムをキープし続けた。


ピタッ


「な!?」

 譜面が突然止まり、何事もなかったかのように再び流れ始める。

 プレイヤーを惑わせるための演出だろう。

 瑞穂はそれにも動じず、確実にパネルを踏んだ。

 リズムを刻んでいたのはこのためか。

 目で譜面を追いかけていると、今みたいに譜面が止まっても直前までスクロールしていたタイミングでつい踏んでしまう。


 だが常に正しいリズムを刻んでいれば、間違ったタイミングでパネルを踏むことはない。


 足さばきにも無駄がなかった。


スッ


「え」

 踏みっぱなしの長い矢印のはずなのに、途中で左右の足を入れ替えた。

 一瞬だけならパネルから足を離してもmissにはならないらしい。

 次の矢印を踏みやすいように、普通なら右で踏むところを左で踏んで体をひねっている。

 ひねるたびに長い髪が横にたなびき、完全に一つのダンスだ。


「曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲が~れ!」


 アニソン特有の奇妙な歌詞と共に体を回転させる。

 モニターから視線が切れて矢印が見えないはずなのにステップが止まらない。

 譜面を暗記しているのだろう。

 体が上下動しないのもすごい。

 腰が常に一定の高さにあり、すーと滑るように移動する。

 ワイヤーで体を吊っているようだ。

 腕も積極的に動かしていた。

 思い返すと俺がプレイしている時、下半身にばかり意識を集中して、腕は変な形で固まっていたような気がする。

 硬直していると体が硬くなるし、なにより見栄えが悪い。

 その点、瑞穂の動きはアイドルのようだ。

 とりあえず動画を撮っておこう。

 永久保存版だ。


『フルコンボ!』


 どうあがいてもこのスコアは越えられそうもない。

 点数で争うのは辞めて楽しむことに徹しよう。

「そろそろおやつにしない?」

「そうだな」


「えーと、ペパーミントプリンとイチゴプリンと抹茶プリンと紫芋プリンと……」


「……プリンばっかだな」

「ボス曲の通称がプリンなのよ。イチゴとか抹茶は難易度を表す色からの連想ね」

「とりあえず一個にしぼれ」

「はーい」

 迷った末に紫芋プリンにした。

 飲み物もプリンに合わせて紫芋のジュースだ。

「わ、すっごい紫!」

 色が特徴的なだけにプリンもジュースもショッキングな色になる。

 ただ素材を活かしているので、見た目に反して素朴な芋の甘さだ。

 話題作りにはいいかもしれない。

「この『ダブルプレイ』モードってなんだ?」


「シューティングでやってたでしょ。1人でパネルを2つ使ってプレイするの」


「DDCでもやれるのか」

「シューティングほど難しくないわよ。要するに1人プレイの矢印を2つのパネルに分けてるだけだから」

「ん? 矢印は増えないのか?」

「足は2本しかないんだから増えたら踏めないでしょ」

「それもそうだ」

 対戦のできるゲームでは1つの筐体に2つのレバーとボタンがある。

 DDCもスコアを競う対戦モードがあるのでパネルが2つ設置されている。


 ただDDCの場合、1人で踊るのは恥ずかしいので2人で踊れるように配慮している部分もあるだろう。


 現にゲーセンで下手なプレイヤーが一人で踊っている姿はあまり見ない。

「とにかくDDCのダブルプレイは移動距離が増えるだけなの。その移動距離が問題なんだけど……」

 瑞穂がイスにタオルをかける。

「それは?」


「DDCの手すりは転倒防止で滑りにくくなってるから、タオルかけて滑りやすくするの。こうすれば手すりを持ってても横移動しやすくなるでしょ」


 ……転倒防止とはいったい。

「じゃあダブルプレイね」

 瑞穂が2つのパネルを踏み始める。


『↑ ←』


「1Pと2Pの同時踏み!?」

「1Pと2Pのパネルはぴったりくっ付いてるから充分踏めるのよ」


□↑□□↑□

←□→←□→

□↓□□↓□


 1Pと2Pのパネルの間に1ブロックぐらいの隙間がありそうなものだが、驚くほどぴったりとくっついている。

 動かすのは足が中心で体は基本的に中央にあるため、1Pと2Pで2人のプレイヤーが同時に踏んでいてもぶつかることはあまりないのだろう。

 反復横跳びのように1Pと2Pを行き来する。

「ふふ。楽勝ね」

 その慢心がいけなかった。


ツルッ


「きゃ!?」

 大きく横に動いた際、タオルが滑ってバランスを崩した。

「ちっ!」

 とっさに腕を伸ばして受け止める。

 片腕で支えるには勢いが強すぎたが、それでもギリギリで踏ん張り事なきを得た。

「あ、ありがと」

「……調子に乗ってるからこうなるんだ」


「でも横移動の多いダブルプレイじゃ、台落ちはよくあることだし」


「そういう問題じゃないだろ。せめて手すりをちゃんと持て」

「はーい」

 珍しく反省したのか、しゅんとして俺の腕の中で小さくなる。

「どうせならこのまま2人で踊るか?」

「え、2人で?」

「これが本当のダブルプレイだ!」

 一人用のダブルプレイを2人でプレイ。

「いてっ!?」

「あ、ごめん」

 足が多すぎてお互いの足を踏むことも多かったが……。

「この手すり、プレイしやすいかも」


「人を手すりにするな」


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