ステルスゲームセット【あんぱんと牛乳】
参考ゲーム
天誅
忍道
アサシンクリード
「忍者死すべし。慈悲はない」
取り出したるは忍者の絵が描かれたレトロゲーム。
なぜかタイトルは横文字だった。
『グラスカッター』
「芝刈り機? いや、草薙の剣か? たしか海外ではそう呼んでたはず」
「残念だけど草薙の剣は関係ないから。忍者のことを『草』って呼ぶでしょ? つまりニンジャスレイヤーってこと」
敵に気づかれないように身を隠しながら任務を遂行する、いわゆる『ステルスゲーム』らしい。
「敵発見」
さっと建物の陰へ隠れた。
そして巡廻の侍が近づいてきた瞬間、物陰から飛び出してブスッと一突き。
一撃で相手を仕留める。
「相手に気づかれてなければ一撃必殺ができるの」
「忍者ならではだな」
すかさず死体を担いで走り、ポイッと井戸に捨てる。
死体をそのままにしておくと侵入したことがバレるからだろう。
『大丈夫か!?』
「大丈夫じゃないわよ、あんたがね」
わざと死体を発見させて、駆け寄ってきたところを刺すのもアリだ。
「バリエーション豊富だな」
「やってみる?」
「ああ」
コントローラーを受けとり、忍者をグリグリと動かしてみる。
「巡廻の武士が来たわよ」
「……緊張するな」
物陰に潜み、タイミングを見計らって飛び出す。
すかっ
「あ」
「なんでそのタイミングで外すのよ!」
「慣れてないから仕方ないだろ!」
『曲者だ! であえーであえー!』
「やばい!」
武士がわらわら集まってきた。
必死に逃げ回るものの、どうしても振りきれない。
「食らえ!」
やむなく応戦する。
だがあっけなくガードされ、反撃を食らってしまった。
体力ゲージがごっそり削られる。
しかも手こずっている内にどんどん敵が集まってきた。
めった斬りだ。
『ぬわー!?』
GAME OVER
「……敵強すぎだろ」
「弱かったら隠れる必要ないじゃない」
「たしかに」
ゲームのシステムを成立させるために主人公を弱く、敵を強く設定しているわけだ。
一対一ならまだしも、一対多ではどうしようもない。
「まずは巡廻ルートを覚えよう」
「基本ね」
先端に鉤のついた縄を投げ、屋根に登り、上から庭や廊下を見下ろす。
こうして警備の巡廻ルートを覚え、一人になって背中を向けたところを一突き。
最初のステージなこともあって、敵の動きも単純で隠れる場所も多い。
困った時の『隠れ身の術』もある。
壁と同じ色の布を広げ、壁と同化するアレだ。
ただし隠れ身の術が有効なのは敵が正面もしくは斜め方向からやってくる場合だけだ。
真横から来た場合、隠れ身の術はバレバレだからである。
壁
━━━━━━
○←忍者
━←布
※正面からは壁と一体化して見えるが、横から見ると壁が不自然に膨らんでいるのでバレる
ガサガサ
『誰だ!?』
『にゃー』
『なんだ猫か』
……こういう古典的なネタでごまかすこともできる。
もちろん二度は通じない。
「だいたいわかった」
システムはほぼ把握したので、二度目のプレイでは難なく暗殺できた。
次のミッションは屋敷に潜入するところから始まった。
ランダムで現れる通行人は厄介だが、これを利用することもできる。
通行人と同じ方向へ、同じスピードで歩くと、通行人に紛れることができるのだ。
こうして群衆に紛れている間は敵に発見されない。
様々な工夫を凝らして用心棒の目をかいくぐり、無事に屋敷へ侵入することに成功する。
「巡回せずに見張ってる奴が厄介だな。動かないから背中をとれない」
「上下から狙えば?」
「上下?」
「縁側とか畳の下から槍を突き出したり、屋根からぶらさがって足で相手の首を折ったり、縄を首にかけて吊ったり……」
「……仕事人かよ」
予想以上に一撃必殺のバリエーションは豊富だった。
他にも障子や襖越しに刺したりすることもできるらしい。
「そういやこれ、敵の着物は剥げないのか?」
「敵の着物で変装することはできるけど、近くで顔を見られたらバレるわよ。防御力が低くて移動速度も遅くなるし、ジャンプ力も落ちるから敵に見つかると確実に死ぬわね」
たしかに忍者装束と違って、武士の服装は機動性に欠けそうだ。
ギシギシ
「……う、古い木の床だ。うかつに歩けば気付かれる」
「逆立ちすれば足音を消せるわよ」
「そういや忍者の歩法にそういうのがあったな」
両手を床について、手の甲の上に足を乗せて歩くと音がしないらしい。
さすがに見栄えが悪いので逆立ちにしたのだろう。
「逆立ち中は周囲の気配がわからなくなるから注意ね」
「マジか」
忍者は気配で周囲にどれだけ敵がいるか読むことができる(画面上のマップに表示されている)。
だから背後から近づかれても相手に気づかないということはなく、一撃必殺を食らうこともない。
それができなくなるのだから不安だ。
「来るなよ来るなよ……」
『曲者!』
GAME OVER
……お約束すぎる展開だ。
任務はどんどん難易度が上がっていく。
「なんだこれ、人が多い上に行動パターンが完全にランダムだぞ!」
「これは完全に運ね」
「突破しやすい配置になるのを待つしかないな」
物陰から敵の様子をうかがうことしばし。
だがなかなか理想通りの形にはならない。
長期戦になりそうだ。
「あんパンと牛乳ある?」
「刑事ドラマの見すぎだ」
なぜ刑事は張り込みであんぱんと牛乳を食べるのだろう。
長年の謎だ。
ちなみにあんぱんは山岡鉄舟によって明治天皇に献上されたものと同じく、桜の塩漬けが真ん中に配されている。
表面にはゴマが散らされており、その香ばしい匂いは食欲を増進させた。
あんぱんは塩漬けを埋めるために中央が大きくくぼみ、真ん中の部分にはあんが入っていない。
普通のあんぱんなら真ん中はパン生地が最も薄い場所だが……。
くぼませた分だけパン生地が内側にめりこんでおり、あんとパンをバランスよく食べたい派にはありがたい。
桜の塩気もあんこの甘さを引き立たせる。
シンプルだがよく計算された一品だ。
「ちょっとあぶってみるか」
「なにそれ」
「かの文豪・泉鏡花はあんぬきあんぱんが好きで、表面をあぶって食べてたんだぞ」
「へー」
少しあぶってみる。
「で、味は?」
「……ただのあんぬきあんぱんだな」
中途半端にあぶるぐらいなら、トーストした方がよかったもかもしれない。
「やっぱり牛乳にひたして食べるのがベストね」
「だな」
最後は牛乳に落ちたあんこを一緒に食べる。
それがまた美味い。
『曲者!』
「うああ!?」
……こうしてあんぱんと牛乳に夢中になっている間に敵に見つかり、あえなくゲームオーバー。
再三の挑戦でようやく任務を成功させると、
『忍者死すべし、慈悲はない』
相次ぐ暗殺に、とうとう敵も警備に忍者軍団を投入した。
侍より視野が広く音にも敏感で、すぐに見つかってしまう。
『曲者!』
「ここにもいるのか!?」
屋根の上や縁の下などにも潜んでいるのが厄介だ。
安全地帯がない。
おまけに死角から手裏剣で遠距離攻撃してくる。
「……忍者やばすぎだろ」
「ちょっと貸して」
コントローラーを渡す。
「忍者の手裏剣は正確だけど、音がするでしょ?」
「十字手裏剣だからな」
棒手裏剣と違い、回転させることで軌道を安定させているので風切り音が聞こえるのだ。
ヒュンヒュン
「ここでジャンプ!」
「避わした!?」
「いま自分のいるところに手裏剣は飛んでくるわけだから、音がした瞬間にステップかジャンプすれば当たらないのよ」
「……シューティングと同じ要領で避けられるのか」
さすがに歴戦の忍者は格が違った。
ざばーん
池や川に石を投げ、水に飛び込んだ振りをして別の方向へ逃げる。
逃げられない場合は逆に敵へ突っ込んだ。
「接近戦は侍より弱いんだから、ガンガン突っ込んでいけばいいのよ。敵に見つかって警戒態勢になっても、それが永遠に続くわけじゃないんだから」
「……でも殺しすぎると死体の隠ぺいが面倒なんだよな」
「隠すのが面倒なら利用すればいいじゃない」
「は?」
「死体を背負えば後ろから攻撃されてもダメージ受けないわよ。いざとなったら相手に投げつけて時間稼ぎできるし。二人羽織の要領で死体を動かして、相手に接近することもできるわね。壁に寄りかからせれば意外に死んでること気付かないんだから」
死体万能説。




