電鉄ゲームセット【ラ・フランスのゼリーとジュース】
参考ゲーム
桃太郎電鉄
「『びわゼリー』ある?」
「びわはないな」
「『揚げタイ焼き』と『酢卵のジュース』は?」
「……まともな注文をしろ」
「じゃあ洋梨のゼリーとジュース」
「あいよ」
俺が天童市名物のおやつを準備している間に、瑞穂がレトロゲームをセットした。
「あ、『金鉄』ですか?」
普段TVゲームをやらない先生が珍しく反応する。
「ふふん。ルールはアナログゲームっぽいけど、これなら負けないわよ!」
カセットを挿し、スイッチON。
「オー、キンタロー!」
車掌の姿をした金太郎が現れ、OPが流れはじめた。
『スーパー金太郎電鉄DX』
プレイしたことはないが、アナログゲームをベースにした『友情破壊ゲーム』だということは知っている。
「じゃあ10年勝負ね。10年が経過した時点で一番資産の多い人の勝ち。ちなみにプレイ中でも期間は変更できるから」
つまり負けそうになったら延長すればいいわけだ。
「そう都合よくプレイ期間はいじらせないわよ?」
『ちっ』
俺と先生の舌打ちがかぶった。
考えることは同じらしい。
「一番最初に目的地へ着いたプレイヤーに賞金が出るんですよね?」
「そうよ。序盤で一番大きな収入源ね」
このゲームでは駅がマス目になっており、全国に張り巡らされている鉄道網を走って目的地を目指すらしい。
ルーレットが回り『博多』が目的地に選ばれた。
ゲームの始まりだ。
「てい!」
瑞穂がボタンを押すとサイコロが投げられた。
6
6マス西へ進むと、黒いマスに停まった。
「黒のマスは黒字で一定の収入が得られるの」
ルーレットが回転し、ボタンを押すと200万円で止まった。
これだけで200万が手に入るらしい。
なんてボロい商売だ。
「赤のマスは赤字ね。ちなみに夏はプラスが多くてマイナスが少ない。冬はマイナスが多くてプラスが少ないの」
「夏場はマイナスが少ないから赤マスに停まってもリスクは少ないわけか」
「そうね。でも一回行動すると1ヶ月経つから、月を確認せずに赤マスへ飛びこむと痛い目を見るわよ」
「イエローのマスはなんデスか?」
「それはカードマス。ランダムで色んなカードがもらえるの。一番使う機会が多いのは『特急』かしら。振れるサイコロが増えるカードよ」
「重要そうですね」
「半分カードゲームだもの。それと星マスはカード売り場で、カードを売り買いできる場所ね」
「プレイヤー同士で取り引きはできるのか?」
「できない。ちなみにカード売り場で買えないカードもあるし、場所によって売ってるカードも違うわよ」
買えるカードは確認しておいた方がよさそうだ。
次は俺がサイコロを振る。
1
黒・白・黄・星でもない、ちゃんと駅の形をした『新宿』のマスに停まる。
「駅では物件が買えるわよ。お店や田畑、工場にレジャー施設、それと野球チーム。これが『資産』ね」
「……高すぎて何も買えん」
一番安いゲームセンターでも5億だ。
手持ちは1000万なので手も足も出ない。
調べてみたところ、物件の値段は最低でも1000万円。
最初はひたすら目的地を目指しつつ、夏は黒マスで稼いで、冬はカードマスでカードを調達するのが妥当か。
「物件の価格の横にある数字はなんですか?」
「収益率よ。たとえば1000万の物件で、収益率が50%なら3月の『決算』で500万円の収益があがるの」
「安くて収益率が高い物件を買えばいいんですね」
「そういうこと。たとえばこの『出雲』!」
直進して広島方面から博多に向かった方が近いのに、わざわざ迂回して島根の出雲駅に停まり『出雲そば屋』の物件を買い占めた。
すると耳心地のいい軽快なBGMが鳴り響く。
「なんデスか、これは?」
「その駅の物件を全部買い占めて『独占』すると、収益率が倍になるのよ。出雲はシリーズを通して独占しやすい駅なの」
「……それでわざわざ迂回したのか。知識量で俺たちが圧倒的に不利だろ。他に独占しやすい駅は?」
「有名なのは盛岡の冷麺、宇都宮の餃子、喜多方のラーメン、松島の笹かまぼこかしら」
「おいしそーデス」
「製作者が食べ歩きして選んでるんだもの。オススメ物件は長崎のびわゼリーと天童のラ・フランス!」
「さっきお前が言ってたやつだな」
「びわゼリーは4年に1度開催される『主水セレクション』で金賞を取れる可能性が高い物件なの。高額賞金をもらえるわよ。ラ・フランス園も一定の確率でゼリーとジュースがブームになって臨時収入が出る優良物件ね。ちなみに最高収益物件は『五所川原』の揚げタイ焼き。1000万で買えて収益率は驚異の500%!」
「500!?」
「つまり五所川原を独占すれば10倍ね。あとは襟裳の牧場、稚内のカニ漁船、佐渡の金山、小倉の炭鉱、横浜の野球チームかしら」
位置的に近いのは小倉の炭鉱と長崎のびわゼリーか。
積極的に狙っていこう。
「シンカンセン!」
アリスがカードを使って大量のサイコロを振り、一位で博多に到着した。
賞金として1億5千万ほどもらい、さらに有名な『貧乏神』が現れた。
「誰かが目的地に到着した時、目的地から一番遠い人に貧乏神が憑りつくわよ」
「……憑かれてしまいました」
先生が行動するごとに、貧乏神が厄介ごとを起こしていく。
勝手に物件を売ったり、倍の値段でカードを買ってきたり、ローンを組んで物件を買ったり、怪しい新会社を設立して倒産させたりetc.
やりたい放題だ。
「別のプレイヤーの電車とすれ違えば貧乏神をなすりつけられるわよ」
「ではカードでサイコロを増やしましょう」
「げ」
先生に一番近いのは俺だ。
案の定、サイコロを2つ振って貧乏神をなすりつけられる。
しかし先生の電車はすぐそばにいるので即座に貧乏神を返した。
だがサイコロ1つでは遠くへ逃げられない。
また貧乏神が俺の元へ。
貧乏神はプレイヤーが行動した後に悪事を働くため、お互いに押し付け合っている間はなにもしない。
不幸中の幸いだ。
俺と先生が醜い押し付け合いをしている間に、瑞穂とアリスは悠々と次の目的地へ向かう。
「序盤なんだからそんなに貧乏神を恐がらなくてもいいのに。このゲーム、借金はあってないようなものなんだから」
「そーなんデスか?」
「借金を0にするのは簡単なのよ。だから1000万の借金も100億の借金も実は大差ないわけ。それに貧乏神は2倍の値段でだけどカードを買ってくることが多いから、序盤のカード集めには便利なんだから」
貧乏神を利用してカード集め。
その発想はなかった。
「恐いのは中盤から後半、たくさんお金と物件を持ってる時ね。……特に1位の時は地獄よ」
やりこんでいるだけに説得力がある。
「とりあえず貧乏神対策に物件は『農林』系を中心に買うことね。借金を背負うと物件を売って返済しないといけないんだけど、農林物件は売らなくていいし、貧乏神も勝手に売ることはできないの」
「つまり決算のある3月の前に借金を0にしておけば、次のターンには農林物件の収益で一気に黒字経営に戻れるわけですね」
「そういうこと。決算前の2月は何でもいいから物件を買っておくのも重要ね。すぐに収益が出るから。ちなみに農林物件を狙うなら東北がオススメよ。特に青森とか仙台周辺は農林物件が安くて充実してるし」
覚えておこう。
東北には地元の天童もあるからなおさらだ。
調べてみるとラ・フランス園だけでなく、さくらんぼ農園や将棋の駒工場もある。
地元の物件は買い占めたくなるのが人間心理。
ちゃんと地域の特産を調べて作ってあるのが心憎い。
「さて……」
2回目の決算を迎える頃にはだいたいのコツはつかめた。
たとえば目的地まであと1~6マスという状況で、サイコロの目に嫌われることは結構多い。
そういう場合はあえてカードを使い、大量のサイコロを振るのも手だ。
特に目的地へ行けるルートが複数ある場合、サイコロの目は多い方が実はゴールしやすいのである。
目の大きさを活かして、色んなルートを迂回して目的地を目指せば、数字を調節することができるからだ。
「とりあえず買えるものだけ買っておきましょう」
「ちまちまうっとおしいわね!」
「うふふ、独占はさせませんよ?」
一件だけ物件を買っておいて独占を阻止するのも有効な戦術だろう。
「早くゴールしなさいよ」
「のん」
それと目的地に近くても、すぐゴールはしない。
他のプレイヤーが集まるまで黒マスで稼いだり、カードを集めるなりして時間を稼ぐ。
なぜなら他のプレイヤーから離れて孤立していると、次の目的地へ行く場合、一人だけ出遅れてしまう可能性があるからだ。
しかもそのまま誰かが次の目的地に着いた時、目的地から自分が一番遠い可能性があり、貧乏神が憑りついてしまう。
おまけに孤立しているから誰かに貧乏神をなすりつけることもできない。
一位のプレイヤーに貧乏神が憑いてる場合もゴールせずに待ちの一手。
理由は言うまでもないだろう。
貧乏神を他のプレイヤーになすりつける場合は、目的地とは反対側へ行くように電車を進めるのがコツだ。
目的地と反対方向なら相手はこちらを追いかけにくい。
「だったら次は私が目的地に一番乗りするまでよ! 次の目的地は予測できるんだから」
「なんでだ?」
「一巡するまで、同じ場所が目的地になることはないからよ。目的地になった場所を覚えておけば次の目的地を予想できるの」
「カウンティングか」
次の目的地を予想してあらかじめ移動しておき、カードを買っておけばスタートダッシュできるということか。
そしてまんまと瑞穂が一番乗りを果たし、
「ドロー!」
勢いに乗って房総半島を暴走。
カードを集めまくる。
房総半島はカードマスが多い上に周回できるので、買えないカードを集めるには最適な場所らしい。
「ふふ、クレジットカードで超高級物件を買ってローンを踏み倒してやるわ!」
「……最悪だな、お前」
「そういうあんたにはマリオネットカード。これを使うと相手を1ターン操ることができるのよ!」
「げ」
「厄介なカードをそろえてたから、捨てさせてもらうわ!」
「くそ!」
「自分が何のカードを持ってるか小まめにチェックしてるからこうなるのよ。テレビ画面は1つしかないんだから、うかつに確認すると手の内を読まれるわよ。手持ちのカードは丸暗記が基本。相手のカードも全部覚えること」
「その言葉、アナログゲームをプレイしてる時のお前にそっくり返そう」
「……うるさいわね。デジタルとアナログじゃ勝手が違うのよ」
やっていることはほとんど同じなのに、なぜアナログのゲームでできたことがデジタルでできないのか。
七不思議の一つだ。
「禁止カードを決めた方がよくありませんか?」
「たしかに強いカードが多すぎだな。カード売り場でまとめ買いできるのも問題だ。一度に買えるカードは一枚にした方がいい」
「えー」
「えーじゃない。このままだとお前が有利すぎるだろ」
「ただでさえ私が一位で集中攻撃されてるのよ。せめてプレイ期間は延長させてもらうから」
「それぐらいならいいか」
アナログゲームは途中で中断しにくいが、デジタルだからセーブできる。
これがデジタルゲームのいいところだろう。
「で、何年勝負にするんだ?」
「300年」
……いつからこのゲームは浦島太郎電鉄になったのだろう。




