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将棋・チェスセット【お子さまランチ】

「今日のテーマは『駒の価値』だ」


「はーい」

 ホワイトボードに得点表を書く。


飛車 15 17

 角 13 15

 金  9

 銀  8  9

桂馬  6 10

香車  5 10

 歩  1 12


「金銀桂香と盤上へ並べる順に価値が高い。これはあくまで駒得計算の目安だぞ」

「チェスに似てマス」

「チェスは戦いが進むほど駒が少なくなるから得点差が勝敗に直結するが、将棋は持ち駒を打てるから駒が減らない。序盤・中盤・終盤でも駒の価値は大きく変わるぞ」

「『終盤は駒得よりも速さ』ですね」

「はい。終盤はむしろ駒を捨てて玉を詰ましにいきますから。終盤までいかに駒得しておくかが重要になります」

「右は成り駒の得点よね? なんで『と金』がこんなに高いの?」


「相手のと金を取ったら元の駒に戻るだろ。つまり9点の金と同じ価値があると金を取ったのに、持ち駒としては1点の歩にしかならない。だから成り駒は元の駒の価値が低いほど価値が高くなる」


「ナルホド」

「『将棋は成金のゲーム』ってことね」

 ……微妙にニュアンスが違う気もするが、おおむねその通りだ。

「飛車と角の点差はなに?」

「真ん中でも隅っこでもいいから飛車を盤上に置いてみろ。盤上のどこにいても16マス動けるだろ」

「1、2、3、4……16ね」

「角が16マス動けるのは5五、いわゆる天王山の位置だけだ」

「あー、5五から離れるにしたがって14・12・10・8って少なくなるんだ」


「角のように駒は指す位置によって価値が変わる。わかりやすいのが桂馬だ。1七、つまりボードの端に跳ねると次は2五にしか跳ねられない。だから桂馬はだいたい3七に跳ねる。基本的に端ほど価値が低く、中央に近づくほど高くなる。初期配置の歩と香車を見ろ」


「これがどうかしたの?」

「端で睨み合っているだけでお互いに手を出せないだろ? 先に手を出した方が負ける。しかも歩と香車は移動できないから他の戦いに関与できない。だから序盤における端の価値はかなり低いわけだ。だが将棋が上達すると駒は必然的に中央へ集まるから端が薄くなる。そこでやっと端の出番だ」


 ホワイトボードに『三歩持ったら端攻め』と書く。


「敵陣に踏み込めば成れるから、前に進んでいる駒ほど価値が高い。相手の玉に近づけばもっと高くなる。守りの駒もヒモがついてて玉に近いほど価値が高い。そして駒の価値で負けていても戦は数だ。『二枚換えなら歩ともせよ』、たとえ駒損でも二枚奪えば数で押せる。最後は駒の利きだ」

 盤上の角道を止める。

「強くても角道を止められたり、飛車先の歩を交換できなかったり、自由に動けなければ価値は下がる」

「へー」

 標準的な駒の価値、成り駒、序盤・中盤・終盤、位置と高さ、相手玉との距離、ヒモと玉の守り、駒の数、駒の利き(働き)。


 ようするにTPO=Time(時)Place(場所)Occasion(場合)だ。


 これを頭に叩き込んでおけば、今まで理解できなかった盤面も違った景色で見えるようになるだろう。

「ついでにチェスも教えておこう」

「待ってまシタ!」



クイーン  8

ルック   5

ビショップ 3.5

ナイト   3

ポーン   1



「チェスの得点は場所によって求められたポイントだ」

「場所?」

「チェスボードを自陣と敵陣に分けて、敵陣を移動できるマスの数だ」

「チェスボードは8×8マスなので8×4で32マスデスね」

「そうだ。とうぜん敵陣をたくさん移動できるほどポイントが高い。たとえばルックは初期配置なら4マス、敵陣に侵入したら10マスになる」




※ルックが初期配置の時に移動できる敵陣のマスが●



B●●●●●●●


※敵陣に突っ込めば10マスになる



「同じようにクイーンは初期配置だと5マスだが、最大で16マスになる。ビショップは初期配置が2マスで、最大値は7」

「最大値の2分の1が駒の価値になっているわけですね」

「あ、だからビショップは3.5なんだ」

「ただビショップは同じ色のマスにしか動けないから、色が悪ければ価値は低くなる」



   ●

   ●

   ●

・・・●・・・●


※初期配置クイーンの範囲



●・・●・・●・

・●・●・●・・

・・●●●・・・

●●●Q●●●●


※クイーンの最大値




・●


※ビショップの初期配置



 ●     ●

  ●   ●

   ● ●

・・・・B


※ビショップの最大値



「ポーンとナイトは初期配置では敵陣まで動けないから、駒の価値は限りなく小さい。だから序盤に効率よく前に出る必要がある」



・●・●・

●・・・●

・・N・・

●・・・●


※ナイトの最大値



「ちなみに端のポーンは1マスしか攻撃できないから価値が低い。そして敵陣の奥に到達するとクイーンに成れるから、前に出ているポーンほど価値が高くなる」

「ポーンは最大で8になるわけね」


「クイーンは9ポイントのこともありマス」


「なぜですか?」

「クイーンとルック+ナイトのトレードはイコールではないからデス」

「えーと、ようするにクイーンはルック+ナイトよりも価値が高いって考えられてるから9ってこと?」

「そういうことだ。得点は同じでも駒の組み合わせやシチュエーションによって価値が変わる」

 ゲームが進むほどお互いに駒が減っていくので、チェックメイトできる最小限の組み合わせ『キング+クイーン』『キング+ルック』『キング+ビショップ2つ』『キング+ビショップ+ナイト』以上のチームを作るのが理想だ。


「頭使いすぎてお腹空いたー」


「じゃあ試食でもするか」

「シショク?」

「お子さまランチを中心にファミリーフェアをやる予定だ。おかずが多くてコストパフォーマンスは最悪でも、家族連れを呼び込む常套手段だからな。ワンプレートに何をまとめるかが問題になる」

「ハンバーグ、エビフライ、オムライスは鉄板よね」

「うちの近所ではチキンライスでしたね」

「チャーハンはだめデスか?」


 ……ライスからしてバリエーションが多い。


「アニメによく出てくるからそれ参考にしたら?」

「そうだな」

 とりあえずチェックしてみる。

 必ず存在するのがハンバーグだ。

 次にエビフライ、フライドポテト、プリン、ゼリー、ナポリタン。

 そしてタコさんウインナー、うさぎのリンゴ、ミニトマト、レタス、きゅうり。

 飲み物は某乳酸菌飲料かクリームソーダ。


 あとはオムライス、チキンライス、カレーライス、おにぎり。


ふらっぐもぷりーず」

「あいよ」

 どのライスも旗付きなのは共通だ。

 唐揚げ、クリームコロッケ、ふりかけ(子供に自分でかけさせることに意味がある)、コーンポタージュなども用意して、テーブルに並べる。

 さすがにオモチャは無理なので、ゲームの駒でもプレゼントしようか?

 悩みどころだ。


「タダ取りタダ取り」


「ぬ、ずるいデス!」

「独り占めすんな」

 瑞穂が我先にと欲しいものをとっていく。

「重いものばっかだぞ。食いきれるのか?」

「う……」

 油ものばかりで味も濃く、バランスが悪い。


「ミニトマトちょうだい」

「唐揚げをよこせ」

「うさぎのリンゴもないとお子さまランチとはいえないわね」

「えびふりゃーをぷりーず」

「あ、飲み物がない」

「ハンバーグと交換しましょう」

 にわかにおかず交換が活発化した。


「……あれ、わたし駒損してない?」


「最初に高いものばっかり取るからだ」


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