手本引きセット【サンデーとクリームソーダ】
「手本引きをしましょう」
返事をする暇もなく1から6までの札が場に並べられる。
「こちらはアユ太君の目安札になります」
「は?」
7から12までの目安札を並べだした。
「手本引きなのに俺の目安札があるんですか?」
「対戦形式です。花札もトランプの絵柄みたいに、4種類に分かれてますよね?」
「1点・5点・10点・20点の札ですね」
「普通の手本引きは『1から6までの月を当てるゲーム』ですけど。今回は月だけでなく点数も当ててもらいます。月を当てることが出来たら、当てた札の点数が入ります。月と点数の両方を当てることが出来たら2倍のポイントです」
例
親が1月の20点を隠す
子が1月の1点と予想
月は当たっているので20点
子が1月の20点と予想していれば倍の40点
親が隠していたのが5点なら子は5得点
「ゲーム終了時に総合得点の高い方が勝ちです」
「月と点数の両方を当てるのは難しすぎる気が……」
「そうでもないですよ? 目安札に点数札も並べますから。それに一度出した札はもう出せませんし」
最初の目安札
ゲームの途中の目安札 一度隠した札は目安札に並べられるので二度は使えない
「なるほど。たとえば『目安札に点数札が3枚出てれば次に出せる札は1枚しかない』ってことですね」
「はい。お互いに目安札で既に1点の札が並べられてますから、どの月も残り3枚。全部で18枚です」
つまり17回勝負(最後の一枚は確実に当てられるから数には数えない)か。
「ではなにか賭けましょうか」
「何にします?」
「そうですね……。日曜日といえばサンデーとクリームソーダでしょうか」
「日曜日はわかりますけど、なんでクリームソーダ?」
「アメリカの一部では日曜日は安息日なので贅沢が禁止されていました。それでクリームソーダも禁止になったんですが、『クリームにソーダがダメならチョコやフルーツを乗せればいい』と考えて生まれたのがサンデーです」
「……サンデーのほうが贅沢じゃないですか?」
「それは言わない約束です」
ちなみに綴りもSundayではなくSundaeである。
Sundayのままだとあまりに不謹慎すぎるので一応配慮したようだ。
「たしかルートビアとかコーラがベースですよね?」
「はい。日本ではメロンソーダを使うので緑色ですが、海外では茶色やピンクです」
一見するとクリームソーダとは思わないだろう。
クリームもアイスではなく生クリームやホイップクリームである。
クリームの甘さにルートビア特有の湿布のような風味。
かなりクセが強い。
サンデーで口直ししようにも、甘さと甘さのダブルパンチで胸焼けがしそうだ。
……セットで食べるのはおススメしない。
「では先生から隠しましょう」
手拭いの中に札を隠す。
札が少なくなるほど、月と点数の両方を当てられる確率が高くなる。
ということは、早い内に20点や10点の札を出しておくのがセオリーか?
月と得点の両方が当たる確率は18分の1だが、月だけなら6分の1、そして狙いを20点と10点の札に限定すれば確率は同じ6分の1。
「3月の20点」
「外れ、6月の10点です」
「うっ」
最初はお互いに札を外しあう。
ここは高得点の札を早めに消化しよう。
特に8月と11月は20点と10点の両方がある月だ。
どっちだ?
既に8月の20点は出したから。ここで10点も潰しておこう。
「……いや」
ちょっと待った。
同じ月の札を3枚(目安札を含めて4枚)出してしまうと、もうその月の札を出せなくなる。
例 1月の札はもう出せない
つまり目が少なくなって、6分の1が5分の1、4分の1と少なくなっていく。
ここで8月の2枚目(目安札含めて3枚)を出してしまうと、目がなくなってしまうからもう8月の札は出せなくなる。
4枚目を出さなくても、3枚目の時点で事実上確率が1分減ってしまうわけだ。
出すなら11月!
「11月の10点ですね?」
「うわあ!?」
いきなりの20点。
しかも相手は先生。敗色濃厚だ。
「……ハンデください」
「なら鬼札を使いましょう。これは花札のジョーカーで、ゲームによって鬼になる札は変わるんですけど。たとえば『ポカ』なら1月の20と5、2月の10が鬼札で、今回はこの3枚を鬼札にします。鬼札で月を当てれば『点数を当てられなくても得点が倍』。しかも『相手が鬼札の時に鬼札を出せば更に倍』!」
「上手くいけば一撃必殺ですね」
「もちろん鬼札を出して目安札にした場合、相手はもうその鬼札を出せません。子は鬼札を出したのに月を当てられなかった場合と、親が鬼札の時に月を当てられなかった時は10点取られます。鬼札を出した時に親が別の月の鬼札を出していたら20点」
例
親が1月の20(鬼札)を出した場合
子は1月の1点なら20点
1月の5点(鬼札)なら40点
1月の20点(鬼札)なら80点
子が1月を出していなかったら-10点
別の月の鬼札を出していたら-20点
ハイリスクハイリターンだ。
だが幾分読みやすくなった。
人間心理として鬼札は早めに目安札に並べたいはず。
鬼札を目安札にしてしまえばもう相手は鬼札を使えない。
鬼札は3枚。
1月の20点札を同じ鬼札で当てたら80点で致命傷。
出してくるなら1月の5点札か2月の10点札のはずだ。
「2月の10!」
「外れ。1月の5でした」
「ぐ」
だがこれで1月の20点札を出してしまうと目を潰してしまうことになる。
即死のリスクもあるからあえてもう一度、
「2月の10!」
「1月の20」
目を潰してきた!?
これで鬼札は2月の10だけ。
もう鬼札は出してこないだろう。
だがもし鬼札を出されて、月を当てることが出来なかったら-10点。
行くべきか行かざるべきか。
「……2月の10」
「残念」
「ぐああ!?」
ハンデどころか致命傷になってしまった。
「正しく『目も当てられない』状況ですね」




