ダーツセット【ピーナッツとミルク】
「ダーツでゼロワンをやってみよう」
「どういうゲーム?」
「カウントアップの逆だ。101とか301、あるいは501の持ち点から、獲得したポイントを引いていく減点式のゲームで、先に持ち点を0にした方が勝ちだ。あくまで0ぴったりにしないと勝ちにならない。オーバーしたら『バースト』といって、そのラウンド開始時のポイントに戻るらしい」
「上がりにくいように下2ケタが01(ゼロワン)に設定されてるのね」
「そういうことだろうな」
とりあえず301でやってみる。
8ラウンド24投という条件の中で着実に得点を積み重ねるカウントアップと違って、ゼロワンは早い者勝ちのスピード勝負になるだろう。
「アイスミルク、ダブルでね」
「……どこのカウボーイだ」
バーの定番といえばやはりミルク。
シャーとグラスを滑らせるのもお約束。
「ピーナッツ3個」
「それはピーナッツじゃねえよ」
名作アニメ映画『KIARA』のワンシーンだが、ここでいうピーナッツとは麻薬の隠語だ。
とりあえず小皿にピーナッツを3個乗せ、随時追加していくことにする。
「勝敗を分けるのは100点を切ってからのアプローチだな」
塩気のあるピーナッツをつまんでは小皿に補給しながら、ダーツを投げていく。
加点式ではなく減点式なので、いかに持ち点をコントロールするかが重要だ。
持ち点が60以下ならシングル3本で上がれる。
できるだけ3投同じ場所を狙えるようにした方がいい。
同じ場所を狙い続ければそれだけ命中率も上がる。
残り60なら20を連続して狙う。
自信があるのなら10を狙ってもいい。
狙い通り10のシングルを落せたらブルの50点狙いだ。
10が逸れて15のシングルに行けば、15のトリプルで45を狙う。
「あ、奇数になっちゃった」
「調整が難しいな」
持ち点が奇数になってしまった場合は、ボードの下にある7・19・3・17狙いがベストだろう。
このエリアは全部奇数だから点を調整しやすい。
60以下で点数を調節する場合、16を基準にする。
16、32、48だ。
残り16なら8と16を狙う。
8と16は隣接しているからだ。
16を外しても8なら、次に8のシングルを落せば上がれる。
16が基準になるのならその上は32。
16が逸れて8に行ったら残りは24。
8のトリプルを狙い、8のシングルに逸れたら16のシングルを狙う。
あるいは12を2回狙って24にしてもいい。
16の隣にある7に逸れたら残りは25。
8と16のように10と15も隣り合っている。
10と15の間を狙い、10に行けば15を、15に行けば次は10を狙う。
32の上は48。
これまでのパターンを応用して攻めればいい。
48の上は60だ。
64でも大した問題はないだろう。
こうして綿密に計算しながらプレイしていると、
「俺の勝ちだな」
「ぐ、やるわね」
瑞穂よりダーツの腕が劣る俺でも勝てる。
「また俺の勝ちだな」
「うう……」
連戦連勝だ。
なぜなら、
「えーと、このラウンドで持ち点が80以下になるのよね。それを効率よく上がるためには……」
瑞穂が指折り数えながら計算する。
「えーと、えーと……」
だが計算しているようでいて、何をどのように計算すればいいのかをそもそも理解していない。
ゼロワンはバカに向かないゲームなのだ。
「……ねー、どうすればいいの?」
とうとう泣きついてきた。
「64・68・72・76・80のどれかに調整しろ」
「なんで?」
「今あげた数字は16から20までの数字4本で上がれる。同じ数字を狙い続けることができるわけだから、上がれる可能性が高い。まずはトリプルを狙って、狙い通りトリプルを落とせたらシングル。トリプルが逸れてシングルになってもまたトリプル。それでもシングルになったら最後はダブル。これで1ラウンド以内に上がれる」
「???」
いまいち理解していないようなのでわかりやすくまとめることにする。
「64・68・72・76・80は16・17・18・19・20の同じ数字4本で上がれる」
ホワイトボードに要点を箇条書きにしていく。
1ラウンドで上がるにはトリプル→シングル(たとえば64なら、16のトリプル48が当たったら次はシングル16を狙う)
トリプルを失敗してシングルになったらシングル→トリプル(シングル16になったらトリプル48を狙う)
二度トリプルを失敗したらシングル→シングル→ダブル(シングル16→シングル16ならダブル32を狙う)
最悪の場合でも同じ数字のシングル→シングル→シングル→シングル
「なるほど」
「シングルに当てられるのが前提だけどな」
それでも3投の内1投でもトリプルかダブルに当てれば攻略できると考えれば精神的にも楽だろう。
最終ラウンドには4の倍数を残せば上がりやすいから、持ち点が偶数なら偶数が隣接している16と8、10と6、18と4を狙うと4の倍数に調整しやすい。
「すごい!」
「すごくない。小学生レベルの計算だぞ」
「ふふん。計算の仕方さえわかればこっちのものよ!」
「じゃあオフィシャルルールを採用しよう」
「へ?」
「『マスターアウト』っていうルールがあってな、最後の一投はダブル・トリプル・ブルじゃないと上がれないっていうルールだ」
「ええっ!?」
「大会では『ダブルフィニッシュ』が基本らしい。当然これまでとは計算の仕方も違ってくる。さて、計算できるかな?」
「えーと……」
瑞穂が両手の指を駆使して数えだした。
そして、
「……これ非公認の試合だから」
こいつが公式試合に出場することは永遠にないだろう。




