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フードファイトセット【パフェとエスプレッソ】

「リベンジ!」


 アリスがダーンと漫画のようにドアを開いた。

「なんの話だ?」

「フードファイト!」

 ぼったくられたのがよほど悔しかったらしい。

「ふふふ、私も大食いのために朝食抜いてきたわよ」

「それは一番やってはいけないことだぞ」

「え」


「活動してない胃は縮んで広がりにくい」


「……普通にランチにしよっと」

 早くも一名脱落。

 大食いをやるのならちゃんと飯を食って胃のウォーミングアップをするのがセオリーだ。

 空腹は最高のスパイスではあるが、大食いでは最大の敵になるのだ。

「オーダーは?」


「パフェをぷりーず!」


「パフェか……」

 大食いでは想定していなかったオーダーだ。

 材料はいくらでもあるから作ること自体は不可能ではない。

「……量の目安がわからんな」

「アニメに出てきたものでも作ったら?」

「そうだな」

 瑞穂のオススメでいくつかアニメのパフェをチェックする。


 『葬送のフリーラン』のジャンボベリースペシャル、『ぎんいろモザイク』の超無謀パフェ、『星クズアイドル』のウルトラデラックスクリームパフェ、『ダーカーザンホワイト』の旬のフルーツとシューショコラ、白玉杏仁入りパティシエの超気まぐれパフェetc


 どれもかなりでかい。

 まったく完食させる気を感じられないデザインはある意味必見だ。

「作るならジャンボベリースペシャルかウルトラデラックスクリームパフェだな」

 とりあえず比較的シンプルなウルトラデラックスクリームパフェを参考に、どでかいガラスの器にこんもりとパフェを盛る。


 ……実際に作ってみると、アニメよりもさらにやばい感じになってしまった。


「バカじゃないの」

「お前が参考にしろって言ったんだろうが!」

 アニメのメニュー表だと3000円になっているが、赤字覚悟の良心的な値段設定だ。

 しかし作ってしまったものはしょうがない。

 倒れないようにテーブルへ運ぶ。

「いただきマス!」

 アリスが猛然と食べ始めた。


 キーン


「ぎにゃー!?」

 苦悶の声を上げながら頭を抱える。

 冷たいものを食べた時に起こるアイスクリーム頭痛だ。

「エ、エスプレッソをプリーズ」


「アフォガードか。パフェが甘いから苦いのがいいな」


 アリスがエスプレッソを飲みつつパフェにかける。

 パフェも他のメニューと同じく、どうしても味に飽きが来てしまう。

 コーヒーやソース類をかけるのも悪くない。

 しかしパフェの量が多すぎる。


「しーずにんぐ!」


「なっ!?」

 アリスがカバンの中から無数の調味料を取り出した。


 抹茶、醤油、きな粉、黒蜜、みたらし、ゴマ、天かす、わさび、七味、あんこetc.


 次々とアイスにぶっかけていく。

「前回と同じ失敗は繰り返さないか」

 飽き対策は万全らしい。

「なにこれ、アイス用の醤油?」

「存在は知ってたが実際に見るのは初めてだな」

 とろみがついているのでチョコレートソースっぽい。

 少し舐めてみる。

 まるでカラメルだ。

 しょっぱさが甘さを引き立たせる。

 それはゴマ塩や天かすでも同じだった。


 出汁の効いた天かすのスナック菓子のようなカリカリ感。


 七味のピリっとする刺激もいい。

「……ドレッシングと納豆まであるのか」

「アイスに混ぜると納豆の粘りでトルコアイスっぽくなるのよね」

 納豆特有の臭みなどもアイスにかき消されるので意外に悪くない。

 ドレッシングは梅だ。

 一応、大食いには酢がいいといわれている。

 食欲が増して胃の働きもよくなるからだ。


 苦味・辛味・酸味と隙がない。


 だがパフェにはまだまだ難敵がいる。

「う……」

 アリスが口を押える。

 生クリームによる胸焼けだろう。

 これは食べ方によってある程度緩和できる。

 問題はもう一人の宿敵、


 ガクガクブルブル


「……なんか真っ青で震えてるんだけど」

「アイスで体の内側から冷やされてるんだよ」

「そういえばアニメでも震えてたわね」

「しかも珍しくクーラーが働いてるからな」

「……このためにわざわざ空調利かしてたの?」

「当然だ」

 大食いの世界は厳しいのである。

 アリスが上着を羽織った。

 そして、


「エ、エスプレッソをプリーズ」


 デジャヴ。

 こうしてまた量が増え、次第にスプーンを動かす手が勢いを失っていき、

「……参りまシタ」

 アリスの負け癖に拍車がかかる。

「うう……、無念デス」

 テーブルに突っ伏した。

「大食いを成功したいんならもう少し勉強することだな」

 食は人間の体に直結している。

 何も知らずに挑戦することほど無謀なことはない。

 後で胃薬を差し入れしてやろう(たぶん今は胃薬と水さえ胃に入らない)。

「余ったの食べていい?」

「好きにしろ」


 キーン


「あああ!?」

 瑞穂がアイスクリーム頭痛でもだえ苦しむ。

「……一気に食うからだ」

「だ、だってこんなに食べる機会ないんだもん」

 たしかにうちでケーキバイキング企画をしたことはあるが、溶けるのでアイスは使わなかった。

 これだけの量を食べるなんてめったにないだろう。


 ガクガクブルブル


「さ、さむい」

「……学習能力ないのか、お前は」

 やむなくコーヒーを渡す。

「うー、まださむい」

「じゃあ俺が温めてやろう」

「ふああっ!?」

 まあ、アイスで体の内側から冷やされているわけだから、外から抱きしめた所で効果はないのだが。


 色んな意味で俺の懐は温かかった。


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