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バックギャモンセット【コロネーションチキンサンドとキャンディ】

「なにをどう動かせばいいのかわかんない」


 バックギャモンボードを前に瑞穂が途方に暮れていた。


挿絵(By みてみん)


「マズ4、5、7と18、20、21にブロックポイントを作りまショー」

「そこが重要なポイントなんですか?」

「イエス」

 アリスがササっとボードの駒を動かした。


「20と21のブロックポイントは『ハイアンカー』、18は『バーアンカー』デス。プライムの阻止ブロックやバックマンの脱出エスケープには欠かせないので、バックマンでブロックポイントを作るならここデス」


「バックマンってなんだ」

「これデス」

 初期配置でボードの最後尾(1、あるいは24にある2枚の駒)を指さした。

「ヒットされたピースもバックマンと呼びマス」

「なるほど。バックマンを脱出させるために18、20、21が重要になるから、その逆である4、5、7にブロックポイントを作ることで、相手のバックマンを封じ込めることができるわけですね」

「いぐざくとりー。7は『バーポイント』、4、5は『ハイポイント』デス」

 22、23はブロックポイントを作ってもバックマンの脱出にはほとんど役に立たない『ローアンカー』。

 ただし『ローポイント』である2、3のブロックポイントは敵のエンターを邪魔できるので、ローアンカーよりは役に立つ。

「2、3、4、5、7のブロックポイントはアンカーよりもイージーに作れマス」

 アリスがホワイトボードに出目を書く。


 3・1

 4・2

 5・3

 6・4


「これは6ポイントと8ポイントにあるピースの『初手オープニングムーブ』デス」

「6と8は2マス離れてるから、3・1、4・2、5・3、6・4みたいに『2違いの出目』ならブロックポイントを作れるのか」

「6・1なら8とミッドポイントでバーポイントを作れマス」

「ミッドポイント?」


「13を『ミッドポイント』と呼びマス。ミッドポイントと8の間は『インダイレクトショット』なので、ミッドポイントのピースはどんどんここへ進めまショー」


「……どんどん知らない言葉が増えていくわね」

「インダイレクトショットってなんだ?」

「6ピップ以内をダイレクトショット、7ピップ以上をインダイレクトショットと呼びマス」


「6マス以内にいる駒ならサイコロ1つでヒットできるからダイレクトショットってことか?」


「いえす」

「7マス以上離れていたらサイコロ2つを合計しないとヒットできないので、確率がガクッと下がりますね」

「意外と安全地帯あんちあるんだ」

 バックギャモンの初期配置がなぜこうなっているのか、どうバランス調整されているのかなんとなくわかってきた気がする。

「6・5ならバックマンを1枚ミッドポイントへ進めまショー。6・1、6・4、6・5以外の6ならバックマンを1つ18に進めマス」

「バックギャモンはソフトで完全に解析されてましたよね? もしかして『初手はこう指せ』って全部決まっているんですか?」


「決まってマス」


「マジか」

「バックギャモンのルールだと先手の初手にゾロ目ないから、サイコロの出目は限定されるのよね?」

「えーと、出目は全部で15種類ですね」

「……丸暗記は基本っぽいな」

「しかも後手はゾロ目ありで、相手が先に動いているわけですから、パターンが一気に増えますよ」


「『レスポンスムーブ』をマスターしてからが本番デス」


「……何百通りあると思ってるのよ」

 返事レスポンス、つまり先手に対する後手の手筋ムーブだ。

 一応アリスが後手の代表的な手筋をホワイトボードにまとめたものの、覚えるだけでも大変だ。


「コロネーションチキンサンドをどーぞ」


「ころね?」

「エリザベス2世の戴冠式で出されたものだ。イギリスだとサンドイッチの具にするらしい」

「へー」

 物珍しそうにチキンサンドを一口。

「……なんかすごく馴染みのある味がするんだけど」


「カレー粉をクリームチーズやヨーグルト、家庭で簡単に作るならマヨネーズを混ぜて作る料理だからな」


「それたまにまかないで作ってるやつ!」

 うちではよくツナ、タマネギ、キャベツをカレー粉とマヨネーズを混ぜたもので炒めている。

 普通にご飯のオトモにしても美味い。


「キャンディをぷりーず」


「あいよ」

 紅茶はキャンディやディンブラ、ニルギリ、キーマンあたりが合うだろう。

「さて……」

 サンドイッチをつまみながらいくつかの手筋は覚えた。

 これでそこそこ戦える。

 ただし、


「うぃなー!」


「……なんてこった」

「強すぎでしょ」

 回数をこなすほど実力差が出てくる。

 1ゲームだけならサイコロ運でどうにかなるものの、ポイントマッチになると勝ち目がほとんどない。

「……仕方ありませんね」

 先生が目の色を変えてサイコロを振る。


ころころ


「5ゾロです!」


「ダイスはちゃんとローリングさせまショー」


「……」

 相手が確率を支配するのなら、目を支配すればいいという発想なのだろう。

 先生は出したい目を上にして、サイコロが転がらないように(目が変わらないように)横回転をかけていた。

 ただやはり横回転しているだけのサイコロを、さも転がっているように見せるのは難しい。

「これならどうです?」

 再びゾロ目。


「うー、安物ディスカウントなのでダイスカップがありまセン」


「ダイスカップ?」

「バックギャモンではカップでダイスを振りマス」

「イカサマ防止か」


 ちなみに今の先生の技は『自分の出したい目を下にして一回転半だけ転がす』という力加減の難しい高等テクニックだ。


 一応転がしているのでイカサマとはいえない……のかもしれない。

 カジノでやったら叩きだされるだろうが。

「カップは紙コップでもいいの?」

「OK」

「くっ、運を天に任せてサイコロを振るしかないんですね!」

「そういうゲームですからこれ!」


「……どうやら神器の封印を解く時が来たようですね」


 紙コップを渡すと、先生がバッグから厳重に包装されているサイコロを取り出した。

 それも一つや二つではない。

 イカサマ用のサイコロかもしれないので確認する。

「重心が偏ってるものはないな」

「ただのダイスですネ」

「もちろんタネも仕掛けもありません。これは人為的に作り上げた豪運サイコロですから!」

「は?」


「ふふふっ……。ボードゲームショップに置いてある大量のサイコロを一斉に振って6が出たものだけを集め、さらにそれを振って6を集め、連続で10回以上6を出したものだけを集めた豪運サイコロです!」


「ふぁっ!?」

 その発想はなかった。

「ちなみにこれは1だけを集めた凶運サイコロです」

「バカじゃないの」

 ……やはりギャンブラーは頭がおかしい。

 当然1から6まで全部そろっている。

 たぶん8面ダイスや10面ダイスも持っているだろう。

「これで勝負はいただきました!」


ころころ


1・2


「あああっ!?」


 10回連続で6が出てるからといって次も6が出るなら誰も苦労しない。


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