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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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三次元将棋セット【ハニートーストとボリビア】

擬人化イラストは膝腰楽朕さんに、そして擬人化イラストのドット絵とピラミッド・砂漠はくろやぎさんに描いていただきました。

転載禁止。

「三次元将棋を考えてみました」


「三次元? 高さの概念を持ち込んだ将棋ですか?」


「はい。これがサンプルです」

 将棋盤とエジプトの壁画を擬人化した駒を取り出した。


挿絵(By みてみん)


上の段は左からアヌビス、ホルス、セクメト、ハトホル

下の段はファラオ、ラー、メジェド



挿絵(By みてみん)

三次元将棋



 工作用の木材を165枚、ピラミッド型に積み上げた労作である。

「……力技すぎませんか?」

「これ以外に作る方法が思い浮かばなかったんですよ」


「作るのにいくらかかりましたか?」


「100円ショップで1セット12個入りを14セット買いました」

「……駒を足せばそれなりの値段になりますね」

 まあ、これでもアナログゲームとしては安い方だ。


「名前は『天王山』にしようと思ったんですけど、一般人には通じないので素直にピラミッドにしました」


「賢明な判断ですね」

 昔は将棋盤の真ん中、5五の位置を『天王山』と呼んでいた。


 いわゆる『山崎の合戦』だ。


 天王山は明智光秀と秀吉が戦った山崎の合戦の舞台になった場所で、天王山を取った方が勝つというぐらい重要な戦略の要衝だった。

 秀吉は光秀に先んじて天王山を奪取し、見事に合戦に勝利したという。

 スポーツでも絶対に負けられない戦いの時に『ここが天王山』というのは山崎の合戦からきている。

「じゃあルール説明を」

 駒の配置は本将棋と同じだ。


「……駒が見えないんですが」


「あ」

 ピラミッド型なので向こう側が見えない。

 やむなく盤を90度回転させる。

 これなら自分の駒も相手の駒も見やすくなるだろう。

「わかりやすいように飛車で説明します。上から下へ降りる場合は普通に飛車の動きができますが、下から上に登る場合は1マスしか動けません」



飛 上から下には一気に駆け下りることができる

│ ↑

↓ 飛 下から上には1マスしか登れない



「上にいる駒は下にいる駒を取れますが、下から上の駒は取れません」

「つまり頂上にいる駒は取れないわけですね?」


「いえ、桂馬だけは二段飛ばしで上に登ることができて、下からでも上の駒を取れます」


「あー、それはいいルールですね。地味になりがちな桂馬に脚光が当たりますし、3D将棋ならではの独自性を感じます」

「初期配置の問題がありますから、桂馬は頂上に行けませんけど」


「山崎の合戦にちなんで『玉が頂点に立てば勝ち』という勝利条件を設定してもいいかもしれません」


「なるほど、これぞ天王山だな」

 自分では考えもしなかった案が飛び出すからゲーム作りは面白い。

 『頂上に立った駒は成れる』という選択ルールがあってもいいだろう。

 さっそく天王山ルールも採用することにした。


「それから持ち駒ですが……。現在、自分の玉がいる高さの段までしか持ち駒は打てません」


555555555

544444445

543333345

543222345

543212345

543222345

543333345

544444445

555555555


高さの参考

初期配置だと玉は5にいるので、5にしか持ち駒は打てない



「妥当ですね」

 自由に持ち駒を打てると3Dである意味がない。

 高い位置ほど有利だから持ち駒の打ち方に制限がつくわけだ。


「角がいまいちですね」


「下手したら銀以下ですからね」

 上には1マスしか進めないので、低い位置にいる角は斜め1マスしか進めず、正面に進むことができる銀より弱い場面もある。

「先手が確実に頂上取れますね」

「しかも頂上の駒は桂馬以外では取れません」

 普通の将棋とは何もかもが違う。

 常識は通用しない。

「玉の囲い方も悩みどころだな」

 『囲い』は玉の周りを他の駒で固めることだ。

 海外では『城』と呼ぶ。

 盤の隅に囲う『穴熊』が初級者にもわかりやすい。



歩歩歩

香銀金

玉桂金


穴熊囲い



「4筋と5筋は香車と飛車が走って危険そうですから……。居玉の方がいいんでしょうか?」

 居玉は玉を初期配置から動かさないことだ。

「居玉なら飛車が頂上に行かない限り、玉は攻撃されにくいかもしれません。ただ一番重要なのは、やっぱり持ち駒ですよ」

 先生から奪った歩を無造作に前線へ打つ。

「?」

 先生は俺の意図が読めなかったらしく、放っておいても大丈夫だろうと判断して歩を無視した。

 俺の歩はそこからさらに一歩進み、と金に成る。


「詰んでますよ?」


「え」

 先生は居玉だ。

 俺のと金は玉の真上にいるから、最下段にいる玉や金では取れない。

 しかも飛車を3高に上げているので、飛車を横にすべらせてと金を取ることもできない。



 ●←相手の金がここへ進むと詰む

金玉金



「……高低差を利用されると駒1枚で詰むんですね」

「はい。玉を守るなら横より上のほうがいいですよ」

 だいたい攻め手のほうが高い位置にいるので、下からでは相手の駒が取れずに死ぬ。

 玉の守りといえば金が定番だが、玉の隣に金を置くのではなく、1つ上に置いたほうがいいのかもしれない。

 3D将棋だと高さに邪魔されて好きな場所に大駒を動かせないから、好きな場所に打てる持ち駒が本将棋以上に重要になる。

 持ち駒は要注意だ。

 こうして3D将棋の微調整を進めていると、

「なにこのピラミッド」


「3Dチェス?」


 瑞穂とアリスが肩を並べて来店した。

「ああ、3Dだぞ。チェスじゃなくて将棋だけどな」

「ハニトー食べたい」

「……ハニートーストを積むのか?」

「うん」

 漫画やアニメのコラボカフェでは食パンを1斤丸ごと使ったハニトーが定番だ。


 食パンを格子状に細かく刻み、カリカリにしてからピラミッド状に積む。


「ぐれーと」

 壮観だ。

 お茶はボリビア。

 花の香りがするのではちみつと相性がいいコーヒーだ。

 バターの風味にも非常にマッチする。

「さて……」

 2人増えたのでもう一つピラミッドの将棋盤を作らねばならない。

 ハニートーストのピラミッドを崩しつつ、一方ではブロックを1つ1つ積んでピラミッドを建築していく。

「これ、桂馬が強いんでしょ? 古将棋の駒の駒も増やしたほうがよくない?」

「そうだな」

 古将棋の跳ね駒をリストアップする。



記室


  ●

 ● ●

● 記 ●

 ● ●

  ●



神僧


● ● ●


● 神 ●


● ● ●


神僧で直接取れるのは神僧だけ(神僧以外の敵の駒を直接取ることはできない)。

ただし移動した後に自分の周囲8マスにいる駒を射撃(その場から動かずに)して取ることができる。



麒麟(獅子に成れる)


  ●

 ● ●

● 麒 ●

 ● ●

  ●



馬兵


 ● ●

●   ●

  馬

●   ●

 ● ●



 今まで使ったことのあるものだとこれぐらいだろう。

 どうせならもっと駒をそろえたほうが楽しくなりそうなので、マイナーな駒も発掘してみる。



飛龍


●   ●


  飛


●   ●




鳳凰


●   ●

  ●

 ●鳳●

  ●

●   ●




飛猫


● ● ●


● 猫 ●

 ●●●



「さすが古将棋、色々ありますね」

「でもバランスが難しいな。どれを採用すればいいのやら」

 実際に指してみないことには始まらない。

 とりあえず適当にデッキを組んで対局してみる。


「ほっぷ・すてっぷ・じゃんぷ!」


「くそ、ぴょんぴょん跳ねやがってうっとうしい!」

「こんなのどうやって守ればいいのよ」

 跳ね駒が相手だと玉を囲うのが難しい。

 どうしても守りの駒を飛び越えられてしまう。

 それに跳ね駒をメインにしてしまうと、低い位置にいても不利にならないので3D将棋の意味が薄れる気がする。

 八方桂が2枚か3枚ぐらいのバランスにしたほうがよさそうだ。


「玉を自在天王にするのもありか?」


「自在天王は一手で盤上のどこにでも移動できる駒ですから、扱いが少し難しくなりそうですね」

「自在天王も下から上には1マスしか登れませんよ。まあ、1つ上の段でも好きなマスに移動できるんで強い駒に変わりありませんけど」

 玉を囲うよりも、自在天王で積極的に頂上を狙っていきたい。

 ただ一般人向けに売る場合、古将棋のルールは敷居が高い。

 これはあくまで選択ルールにして、標準ルールはシンプルなものにしておくべきだろう。


「3Dチェスボードもぷりーず」


「あいよ」

 ボードを組みなおす。


「あ、8×8マスだと頂上が4×4マスになるのか。見栄え悪いな」


「4×4マスの真ん中にブロックを配置するしかないわね」

「4×4マスの高さにいる駒は、どんな駒でも頂上に登れるようにするというルールにしましょう」

「そうですね」

 そして頂上に登った駒はキング以外の好きな駒に成れる。

 これでだいぶプレイしやすくなったはずだ。

「ブロックを組み替えて、タクティクス系のシミュレーションRPGみたいにしても面白いな」


「……でも一個一個ブロック積むのめんどくさすぎでしょ。せめてブロックパズルにしなさいよ」


「ブロックパズル?」

「こういう立方体のパズルよ」

 棚の奥にしまってあったブロックゲームを取り出した。



■■



■■■

 ■



■■■



 様々な形のブロックを積むゲームだ。

「交互にブロックを上に積んでいって崩したプレイヤーの負け」

「……なるほど、ボードそのもので遊ぶのか」

「ブロックを白と黒に色分けして、『上から見たときに見えている色が多いほうの勝ち』というルールでもいいですね」



■□■□□

□□□■■

■■□□■

□■■■□


※ブロックパズルを真上から見た状態

相手のブロックの上に自分の色のブロックを乗せたりして、最終的に自分の色が相手よりも多ければ勝ち



「ナイスアイデア」

「ブロックを加工する分、値段は少しお高めになってしまいますが」

「ささいなことよ」

 『自分でボードを積まないといけない』という欠点を、『ブロックで遊ぶこともできる』という長所に転換している。

 多少の値上がりは許容範囲だろう。

 なにより、


どんがらがっしゃん!


「のー!?」

「いえー、私の勝ち!」

「……このためのブロックパズルか」


 単純な積み上げパズルなら頭の悪いやつでも勝てる。


 大人から子供まで楽しめるいいゲームになるかもしれない。


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