五目並べセット【サモサとジャワ】
「五目並べしよ」
「懐かしいな」
小学生の頃、黒板に丸を描いて遊んでいたのを思い出す。
3目並べから始まって、4目・5目と徐々に丸が多くなって、3人4人とプレイする人数も多くなって収拾がつかなくなったな。
しかもちゃんと線を引いて打つわけではないので、思わぬところが繋がって勝つこともあった。
そういうアバウトさが子供の遊びの面白い所だろう。
だが今回はちゃんとした盤と碁石での五目並べだ。
縦・横・斜めのいずれか、一直線に自分の色の碁石を五個並べられたら勝ちだ。
○ ○
○ ○
○○○○○ ○ ○
○ ○
○ ○
シンプルに五目並べた形
「よいしょ」
瑞穂がいつもと違う碁盤を運び出した。
「ん、15路盤?」
「17以上だと黒有利で、13以下だとなかなか勝負がつかなくなるから」
「囲碁よりも盤に左右されるんだな。よし、15路盤で打とう。オーダーは?」
「今日は甘いのじゃなくて、油っこいのがいい。唐揚げとかコロッケみたいな」
「ならサモサにするか」
「サモサ?」
「一言で言えばインドの揚げ餃子だ」
ひき肉と玉ねぎ、そして潰したジャガイモなどを混ぜて香辛料で味付けをし、餃子の皮で包んで揚げる。
「カレー風味なんだ。んー、皮がパリパリでスパイシー」
「紅茶はジャワだ。カルダモンティーにしてもいいし、ミルクティーでもいい」
「かるだもん?」
「『スパイスの女王』だよ」
「じゃあカルダモンティー」
「あいよ」
サモサがカレー味だから、カレーに欠かせないスパイスであるカルダモンとの相性はいい。砂糖もミルクも入れないストレートがオススメだ。
俺はミルクティーにしておこう。
サモサにパンチがあるから、甘いミルクティーはよく馴染む。
「締めに紅茶ゼリーもあるぞ」
ジャワの紅茶を淹れ、隠し味にリキュールを一滴。
それにゼラチンを投入して固め、冷蔵庫で冷やしたものだ。
生クリームとフルーツはお好みで。
「揚げ物の後の甘いものは最高ね」
「だな」
二人でサモサとゼリーをぺろりと平らげ、
「じゃ私からね」
瑞穂が先手(黒●)で打ち始める。
「あ」
っという間に、3目を2つ作られた。
「これが三々(さんさん)。一手で3を2つ作れるの」
●
●●●
●
三々の一例
1つを止めてももう一つの3目が4目となり、あっけなく五目並べられる。
「もう一回する?」
「当たり前だ」
再び瑞穂が先手で。
「あ」
今度は一手で4目を2つ同時に作られる。
「……四々(よんよん)か」
「四々(しし)よ」
紛らわしい。
「もう一局!」
懲りずに何度も挑戦するが結果は同じだった。
何度も三々や四々を作られ、挙句の果てには5目以上の石を並べられる『長連』で負けた。
「これ必勝法あるだろ?」
「……じゃあ連珠ね」
瑞穂は視線を逸らしながらそう言った。
「れんじゅってなんだ?」
「五目並べは先手必勝だから。涙香って人がルールを整備して連珠を制定したの」
やっぱり必勝法があったのか。
「……それにしても黒岩涙香とはまたマニアックだな」
ゴシップ紙『萬朝報』の創刊者であり、『鉄仮面』『岩窟王』『噫無情』などの翻案(ストーリーはそのままに、登場人物や物語の舞台だけを置き換えること。たとえばアメリカを日本に、マイク・デイビスを鈴木一郎に置き換える)で有名な人物だ。
翻案小説は原作と一味違った『黒岩ワールド』ともいえる世界観を形勢しており、その魅力に惹かれた江戸川乱歩は『黒岩涙香の翻案小説を翻案』している。
「連珠では黒の三々・四々・長連が禁じ手ね」
「そのルールでいこう」
三々・四々・長連さえ封じられればこちらのものだ。
……と思ったのが甘かった。
「これが四三」
「反則じゃないのか?」
「三々でも四々でもないじゃない」
なんという屁理屈。
「っていうか黒が勝つにはこれしかないから」
「そういえばそうだな」
四三以外に黒が五目を作るのは不可能だ。
ということで瑞穂に四三を作られまくる。
しかも、
「これで私の勝ち」
「それ長連だろ?」
「5連と同時に禁じ手ができた場合、5連勝ちが優先されるの」
状況によって禁じ手が禁じ手でなくなる。死んだ石が生き返る。
その形がややこしい。
白は初級者向けではないのかもしれない。
白は四三・三々・四々・長連、何でも打てる。
だが何でも打てる分だけ何を打っていいのかわからない。
しかも黒は先手で常に一手先んじている。黒に禁じ手があるのは先手有利だからだ。
その一手差をなくすには『黒を禁じ手の形に誘導』するしかない。
四三を防ぐだけではだめなのだ。禁じ手の形に誘導できるようになって、やっと互角の勝負ができる。
しかし初級者にはそのやり方がわからない。
「黒打たせろ」
そこで不意に思い出す。
「碁盤で」
17以上なら黒有利。
これでまともに戦えるだろう
「19路にしても結果は同じだと思うけど」
盤を変え、先後を交代して打ち始める。
やはり白と黒では打ち方が違う。
強くなれば白と黒どちらが有利とは一概に言えなくなるだろう。
どちらの戦法が得意か。重要なのはそこだ。俺には黒の方が打ちやすい。
ただ『四三しか作れない』のがきつい。直線的に作ろうとすると一瞬で潰される。
白の四三・三々・四々・長連を潰すのも難しい。四三だけ潰すのとはわけが違う。
なによりきついのは、
「それ三々」「それ四々」「それ長連」
「……」
反則地獄。
面白いように禁じ手を打たされた。
「……やっぱ白だな。黒は禁じ手が多くて堅苦しすぎる」
盤も碁盤から連珠盤に変えて打っていると。
「オー、リバーシですネ!」
囲碁も五目並べも知らないアリスが来店した。
「連珠よ。誰かさんは白黒くるくる変わってるけど」
「誰がオセローだ」