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紙ペンゲームセット【ドライフルーツと団茶】

ロゴと嵯峨天皇のイラストはTRAVAdesignさんにデザインしていただきました。

転載禁止。


「また紙ペンゲームを作ってみた」


 テーブルの上にどさっとメモ帳を乗せる。


 その名も『嵯峨フロンティアスリー


挿絵(By みてみん)

表紙


挿絵(By みてみん)

中身


「これ、ちゃんと製本されてるけど……。印刷費かなり高いんじゃないの?」


「100冊で10万円ぐらいだな」


「はあっ!?」

「といっても高いのは最初の100冊だけ、印刷の基本料金です」

「基本料金込みなら500冊で20万いかないしな」

「りーずなぶる」

「……これ安いの?」

「ボードゲームで500部20万は安いほうです」


「それにこれはメモ帳形式で、1ページ1ページ切り取って使えるんだぞ。1冊50枚つづりを500円として、参加費として1人10~30円ぐらい支払ってもらえば費用は余裕で回収できる」


「他のゲームは無料でプレイできるのに、このゲームだけお金取るの?」

「ああ。パーティーゲームにして景品を出す。たとえば『次にうちの店で入荷するゲームを指名できる権利』だ」

「せこっ」

「うるさい」

 客寄せのために月1で新しいゲームを入荷して、開封イベントをする必要がある。

 どうせ入荷しないといけないのだから、そのゲームを客に選ばせても特に損はない。


 開封イベントが定着すれば、入荷するゲームを決めるためのパーティーゲームイベントも定番になって客足が増えるかもしれない。


 一石二鳥だ。

 あとはモーニングやフリードリンクなどの無料券、あるいは安く制作できるグッズ、たとえば安価で作れるバッジなどを景品にしてもいいだろう。

 『パチモン』でジムリーダーに勝ったときにもらえるジムバッジや、スキー・スノーボード・フィギュアスケートなどの技能テストに合格したときにもらえるバッジのようなイメージだ。

「……で、これはどういうルールなの?」


「ビンゴでコンボを決めるゲームだ」


 ページを切り取って全員に渡す。

 平安京のマス目の中には、ビンゴのように数字が描かれていた。


挿絵(By みてみん)


「なにこの数字?」

魔方陣マジック・スクエアデスね」

 さすがに計算が速い。

 この4×4マスで区切られた区画は、縦・横・斜めの合計がすべて同じになるように数字が配置されている。

 魔方陣ビンゴだ。


「中国の伝説では、亀の甲羅に3×3の魔方陣が描かれていたという伝説がある。いわゆる『紫白九星』だな。日本でも九星図というものが作られて、占いなどに使われたらしい」


492

357

816


九星


「へー」

「そこでこのゲームの嵯峨天皇は考えた。平安京は4×4マスの『坊』で区切られている。坊を九星よりも大きな魔方陣にしたらものすごい効果があるんじゃないかと!」

天才じーにあす!」

「住所がめちゃくちゃになるので住みにくいことこの上ないですが」

「些細なことです」

 ほとんどランダムな数字の並びなので、住人や役人は大変だろう。

 郵便配達は地獄だ。


「じゃあ始める前に平安スイーツでも用意しとくか。とりあえず団茶だな」


 団茶は蒸した茶葉を固めた固形茶で、

「これを削って煮出し、上澄みをすくって飲む」

「お湯に塩を入れるんですね」


「モンゴルのスーテーツァイとかと同じですよ。塩を入れて飲むから、塩を入れたお湯で煮出すことも多いんです」


 甘い岩塩なのでしょっぱさはない。

 シナモンや生姜、ミルクを加えれば出来上がり。

 砂糖には出せない風味だ。

 そして平安時代にも食されていた柿、あんず、イチジクなどのドライフルーツを盛る。

 果物も長い時間をかけて品種改良されているので、本当の意味で昔の味を再現することはできない。


「さて……」


 ドライフルーツをつまみながら、いつものようにサイコロを二つ振る。


ころころ


1と6


「サイコロの出目に従ってシートに描かれている数字を消す」


挿絵(By みてみん)


「数字の消し方は3パターンある。1.シンプルに1と6を消す。2.1+6で7を消す。3.1と6を横に並べて16を消す、だ。あとは『10の1を消す』みたいに『二桁の数字の1つだけ消す』ということもできる」


「ゾロ目が出た場合は?」

「その数字を4つ消せる。1ゾロなら1を4個消せる」

「マジックスクエアにあるパオはなんデス?」


挿絵(By みてみん)


「保の数字を4つ消して、保を完成させたら得点と能力を獲得できる。完成させた保によって獲得できる能力は違う。この能力を駆使してコンボを繋げるのが高得点を稼ぐコツだ」


【保・完成時の報酬】

一保.選択した数字を消す(二桁の数字なら1つ、一桁の数字なら2つ消せる)


二保.現在のサイコロの出目で作れる数字を1つずつ消せる(出目が1・2なら1・2・3・12を1つずつ消せる)。


三保.3マス消している保の最後の1マスを消せる(二桁の数字でも消せる。3マス消している保が複数あった場合、そのすべての最後の数字を消せる)


四保.未使用のサイコロの出目に2回±1できる(1つの数字に2回使ってもいい。ゾロ目に±1をしてゾロ目でなくなったら、ゾロ目の追加効果が消える)


※獲得した報酬はその場で使うことができます

※同時に複数の報酬を使用可能です。



「ちなみに保を完成させると獲得できる基本点は10点だが、保の中にある『サイコロ1つで消せる一桁の数字』の数だけ2点減点される」

「は?」


「例えば左下だ」


挿絵(By みてみん)


「この坊はすべての保がサイコロ1つで消せる数字で構成されてるだろ。ビンゴしやすいかわりに、-2が4つだから8点減点される。基礎点が10点だから、保を完成しても2点しか獲得できない」


「低得点の保で能力を獲得しつつ、コンボで高得点を狙っていくわけね」

「そういうことだ」

 基本的なことはすべて説明したので、本格的にプレイを開始する。


「とりあえず少ない手数で完成できる左下と真ん中の坊がねらい目でしょうか」


「でも0ってどうやって消すの?」

「3パオか4パオ能力スキルを使いまショー」

「えーと、三保が3マス消してる保の最後の1マスを消せるやつで……。4保がサイコロの出目に±1できる能力ね。でも四保じゃ0を4個も消すの難しいでしょ」


「1ゾロに±1すれば0ゾロを作れますよ?」


「は?」

「四保の能力解説にはこうあります。『ゾロ目に±1をしてゾロ目でなくなったら、ゾロ目の追加効果が消える』。逆にいうとこの能力を使えば好きなゾロ目を作ることができるんです!」

「ええっ!?」

 仮に出目が1・3でも、四保の能力なら1ゾロ、2ゾロ、3ゾロまで好きなゾロ目を作ることができるのだ。


「このスキルで11ゾロを作ることはできマスか?」


「できるぞ」

「つまりゾロ目に±1することで、11、12、13、14、15、16ゾロまで作れるわけですね」

「バカじゃないの」

「そういうゲームなんだよ」

 いかに能力を組み合わせて、自分に都合のいいコンボを組めるかが肝だ。


「4つの保をすべて埋めて坊を完成させた場合、最後に完成させた保の報酬を2つ獲得できる。例えば最後に完成させたのが一保なら、一保の報酬を2つ獲得できる」


「同時に複数の保のマスを埋めて坊を完成させたら?」

「そのすべての保の報酬を2つ獲得できる」

「三保の使い方が重要になりますね」

 3マス消している保の最後の1マスを消せるので、やろうと思えば一手ですべての能力を2つ獲得することもできる。


「二保は『現在のサイコロの出目で作れる数字を1つずつ消せる』とありますが、これにゾロ目を組み合わせたらどうなりますか?」


「ご想像にお任せします」

「なるほど、だいたいわかりました」

 察しがよくて助かる。

「……また何か企んでる」

 俺たちのやり取りを聞いて瑞穂がコンボを組み立て始めた。

 ゾロ目なら出目の数字を4つ消せる(1ゾロなら1を4個消せる)。

 二保の能力なら現在のサイコロの出目で作れる数字を1つずつ消せる(たとえば出目が1・2なら1・2・3・12を1つずつ消せる)。


「え、ちょっと待って……。1ゾロで1の目を4個と、二保の能力で1ゾロの出目4個を組み合わせることでできる数字、つまり2・3・4・11・12・13を消せるってこと!?」


「1の目は5個消せるぞ。1ゾロの4個と現在の出目で作れる数字を消せる、だからな」

「じゃあゾロ目に四保の±1を組み合わせて二保の能力を発動したら……」

「……さすがにそこまで行くと、規制したほうがいいかもしれんな」

 計算するのもめんどくさい。

 あらかじめコンボの組み合わせや、そのコンボで消せる数字の表などを作っておくのも手だ。

 しかしそれだとプレイヤーが自分でコンボを考える楽しみを奪うことにもなる。

 塩梅が難しい。

 ただ今回はそれほどゲームバランスを破壊する要素もなさそうなので、


「優勝者には次にうちの店で入荷するゲームを指名できる権利をやろう!」


「うおー!」

 予定通りゲーム大会を開催する。

 1回20円だ。

 ちなみに本体を500円で購入すれば参加費は無料である。

「さて、どうなることやら……」

 さすがに先生やアリスが考えた極悪コンボを初回プレイで使いこなすゲーマーはあまりいなかった。

 いや、むしろ少数ながら初回でコンボを使いこなすゲーマーがいることのほうがおかしいのか?

 ともかくスコアアタックはそれなりに盛り上がり、本体もいくつか売れた。

 この分ならそのうち元を取れるだろう。

 安心して今回の優勝者(さすがに初回なので先生やアリスは参加させなかった)に『次にうちの店で入荷するゲームを指名できる権利』と描かれたボード(バラエティ番組の優勝者や活躍したスポーツ選手がお立ち台で渡される〇〇1年分のような副賞の名前が書かれたあのでかいボードだ)を渡す。

「ではなんのゲームにしますか?」


「じゃあ『フロストヘヴン』でお願いします」


「おおっー!」

 周囲から歓声が上がった。

 この反応からするとかなり面白いゲームらしい。

 だが聞いたことのないゲームだ。

「フロストヘヴンってそんなに面白いんですか?」


「有名なゲームサイト『AGG』いわゆる『アナログゲームギーク』のランキングで、7年連続1位を取っている作品『グルームヘヴン』の続編ですね」


「へえ」

 想像していたよりもすごいゲームだった。

 しかし、

「……ん? なんでそんなすごいゲームを誰も持ってないんですか?」

「う……」

 露骨に目線をそらした。

「少なくともここにいる人たちは誰も持ってませんよね? 持ってるならうちの店に持ち込んでるはずですし、そもそも入荷希望もしない。……まさか品薄でプレミアがついてるとか?」

「プレミアはついていません。もともとがプレミア価格並みのお値段なので」

「……ちなみにおいくら万円ですか?」


「こちら税込みで4万9500円になります」


「ぐあああっ、なんで天井を設定してなかったんだ!」


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