ハンドマネジメントセット【コルネットとカプチーノ】
参考ゲーム
コンコルディア
「コルネットをお願いします」
「コルネットってなんだっけ」
「イタリアのクロワッサンだ」
「ブリオッシュデス」
「クロワッサンとブリオッシュとコルネットの違いは?」
「……たぶんイタリア人も区別できてないぞ。あくまで俺のイメージだが、クロワッサンのほうがサクサクで、コルネットのほうが甘い。朝食の定番だ」
「じゃあ私もそれ」
「みーとぅー」
「あいよ」
といってもコルネットはないので、クロワッサンにジャムやクリーム、チョコを挟んでそれっぽくする。
お茶はカプチーノ。
クロワッサンと似ているだけに、フランスと同じ組み合わせだ。
イタリアではエスプレッソを飲むことも多い。
「ではイタリアを舞台にしたゲームをやりましょう。正確には古代ローマですが」
先生が『ディスコルディア』なるゲームの箱を開け、ボードを広げる。
イタリアを中心に、周辺諸国の地図が描かれているボードだ。
各都市は道路(半分は海路だが)で繋がっている。
「1ラウンドに1枚カードをプレイするだけの簡単なゲームです」
「……絶対簡単じゃないわね」
「ばっどふぃーりんぐ」
今までの経験でそういうことだけは確実にわかる。
「基本は『長官』や『商人』の手札を使って資源を集めて、『建築家』でローマの属領に自分の家を建てていきます」
「『護民官』と『外交官』と『元老院議員』はなんなの?」
「護民官は今まで使った手札を回収するカードです。使った手札が3枚を超えていれば、超えている枚数分だけお金をもらえます」
「手札をたくさん使ってから回収したほうがいいわけか」
「はい。しかも『食料』と『道具』の資源を使えば『入植者』を1人増やすこともできます」
「入植者?」
「家を建築するのに必要な駒です」
ローマに人と船の形をした駒を置く。
「この駒の数だけ陸路、もしくは海路を移動できます。初期設定では陸路と海路を移動できる入植者が1人ずついるので、2マス移動できます」
駒を進めて道の上に置く。
「え、都市から都市に移動するんじゃないの」
「いえ、道から道に移動します。その道が繋がっている都市に家を建てることができます」
「……適当にプレイしてると絶対間違えるな」
各都市は道で繋がっているので普通なら都市から都市へ移動させてしまう。
だがこのゲームでは都市と都市を繋ぐ道、その線の上に駒を置くのだ。
都―都―都
※都から都へ移動するのではなく、―から―へ移動する
―に繋がっている都に家を建築できる
「資源さえあれば、隣接している複数の都市へ同時に家を建てることができます」
「動かした駒が止まった道に隣接する都市ですか?」
「いえ、そのプレイヤーが持っているすべての入植者の道に隣接している都市です。資源さえあれば同時に何軒でも建てられます」
移動方式が少し変わっているだけで、システムそのものは単純だ。
なおすでに他のプレイヤーが家を建築している場合、建築にかかる費用が高くなる。
「外交官はコピー能力です。自分の手番の前にプレイした、他のプレイヤーの手札の能力をコピーして使用できます」
「強いな」
「すとろんぐ」
「元老院議員は手札の購入です。ただしお金は使えません。食料や道具といった資源を支払って購入します」
少なくとも初期手札に複雑な要素はない。
難しそうだと思ったのは杞憂だったか。
「勝利条件は何ですか?」
「プレイヤーの誰かが家を15軒建築、もしくは元老院で買える手札がなくなったらゲームが終了します。終了条件を満たしたプレイヤーは7点を獲得し、他のプレイヤーはもう1ラウンドプレイして、最終的にポイントが一番多いプレイヤーの勝ちです」
「ポイントはどうやって稼ぐの?」
「『家を建てている属州1つごとに1点』『入植者1人につき2点』など、6つの得点ボーナスがあります。基本的にはそこまでわかりにくくはないんですが……」
「何か問題があるのデスか?」
「このゲームには得点ボーナスにローマ神話の神さまの名前がついています。家を建てている属州1つごとに1点はサトゥルヌス、入植者1人につき2点はマルス。他にもウェスタ、ユピテル、メルクリウス、ミネルヴァがあります」
「う……、覚えにくい」
「しかもそれぞれの手札にも得点ボーナスが入っています。元老院で手札を買うたびに、獲得できる点数がプラスされていきます」
「……なんで属州ボーナスとか入植者ボーナスにしないのよ」
制作者が凝った設定を作ってわかりにくくなる典型的なパターンだ。
瑞穂のいうように属州ボーナスなら誰でもわかる。
だがローマ神話の神さまの名前だと知識があまりないので、得点ボーナスと神さまが頭の中で結びつかず、どの神さまがどのボーナスに対応してるのかわからない。
おまけにボーナスが6種類もあり、手札を買うたびに得点がプラスされていくので計算が大変だ。
自分だけでも大変なのに、他のプレイヤーの点数を把握するのは至難の業。
得点計算以外は特に難しい要素がないのが救いか。
「レンガ都市安いな」
長官を使うと、その属州の特産物と属州内にある都市に描かれている資源を獲得できる。
家を建てるのにレンガは必須だが、例外的にレンガ都市だけはレンガなしで建設できた。
その代わりユピテルの得点ボーナスは『レンガ都市以外の都市に家を建設すると1点』となっている(サトゥルヌス=属州ボーナスがあるので、レンガ都市でも得点はできるが。レンガ以外の都市ならユピテルとサトゥルヌスボーナスを同時に獲得できる)。
最初から各素材を1つずつ持っているので、レンガ都市と他の都市に家を2軒建築できる。
「じゃあ私は絨毯都市」
「アリスはツボにしマス」
「……絨毯は織物、ツボはワインです」
ボードや駒に描かれている絵だけではそこまでわからない。
「ふふん、絨毯金策よ!」
商人カードを使うと、1つの資源を2回売買できる。
しかも売値と買値が同じだ。
レンガ3、食料4、道具5、ワイン6、織物7である。
たしかに織物都市に家を建設して、織物を回収しまくれば金には困らないように見える。
だが、
「あー、お金あるのに資源1種類しか買えない!」
「織物に頼りすぎだ」
商人では売買は2回しかできないので、織物を売ると資源は1種類しか買えない。
このやり方だと家はレンガ都市か織物都市にしか造れない(他の都市はレンガ+αなので資源が足りない)。
満遍なく資源を集めないと元老院で手札も買いにくい。
「ちっ、俺も資源が足りない。長官使うか」
「ゴチになりマス」
「ぐっ……」
長官は指定した属州から資源を徴収する能力。
なのでその属州に家を建てていれば、他のプレイヤーが長官を使ったときに自分も資源をもらえるのである。
いわゆる『相乗り』というやつだ。
まあ、レンガ都市に家を作りまくっているので、相乗りしていればレンガに困ることはない。
「元老院で手札買っておくか」
元老院も商人と同じく手札を2枚買える(売ることはできない)。
建築は最重要アクションだが、外交官で建築家をコピーしないと、護民官で手札を回収するまでに建築をやれる回数が少ない。
しかも外交官は他のプレイヤーが建築家を使わないとコピーできないので、最悪建築が1回しかできないこともある。
建築家は絶対に買っておきたい。
あとは資源を確保できる手札。
長官と違って自分の家からだけ徴収するので、相乗りされないのがいい。
「いい感じだな」
手札を有効に使ってうまく立ち回れている気がする。
これなら勝てるかもしれない。
そう思ったのが甘かった。
「手札を買います」
「ドーゾ」
「手札を買います」
「また?」
「手札を買います」
「……おい、このパターン前にも見たことあるぞ」
「『ワインセラーの四季』デスね」
「あ、ワーカープレイスメントの皮をかぶったカードゲーム!」
「くそ! 手札に得点ボーナスがあるから、買えば買うほどボーナスの倍率が上がっていくのか!」
レンガ都市以外の都市に家を建設すると1点だが、ユピテルの手札が増えるごとにボーナスが+1されていく。
一度に2枚まで買えるので、一手で得点ボーナスをはね上げることができるのだ。
「こっちも元老院だ!」
慌てて手札を買いあさる。
しかし、
「買い占めたらそこでゲーム終了ですよ?」
「あ」
ゲームの終了条件はプレイヤーの誰かが家を15軒建築、もしくは元老院で買える手札がなくなったら。
完全に忘れていた。
「ではここで最終ラウンドに突入です」
「ぎゃーっ!?」
焦って手札を買ってしまったのが失敗だった。
……いや、まんまと手札を買わされたというべきか。




