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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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リバーシセット【メロンパンとユンヨン】

「なるほど、こうか」

 囲碁入門書を片手に石を並べる。

 といっても碁盤ではなくオセロ盤だ。

 オセロは8×8マスなので、囲碁に換算すると初級者向けの9路盤になる。

 公式戦で使われる19路盤よりも親しみやすい。

 だが、

「……これ9路盤で使えなくないか?」

 やはり9路と19路では根本的な違いがあり、19路盤の入門書で9路盤は狭すぎた。


「オー、リバーシですネ!」


「リバーシブルがなんだって?」

「このボードゲームですヨー。イギリスにもありマス」

「オセロってイギリスにもあるのか。いや、そもそも名前の由来からしてシェイクスピアの『オセロー』だったか?」

 黒人オセローと白人デズデモーナを中心に、関係性が目まぐるしくひっくり返るところからの連想だろう。

 リバーシよりずっと気が利いている。

「オセロやるか?」

「イエス!」

「じゃあ何か注文しろ」


「ではパイナップルパンをプリーズ」


「パイナップル?」

「メロンパンですヨ?」

「あー、ホンコンではパイナップルパンって呼ぶんだったな」

 メロンパンを皿に盛る。

 うちのメロンパンは一口サイズのものがセットになっているのだ。


「1つはトーストして、バターをサンドしてくだサイ」


「それが香港流の食い方か。お茶は?」

「『ユンヨン』をプリーズ」

「ユンヨン?」


「コーヒー紅茶デス」


「……イギリスの租借地でよくそんな飲み物が生まれたな」


 パラジウム加工のカップにユンヨンを注ぐ。

 パラジウム加工はわかりやすくいえば鏡面加工だ。カップの表面が鏡になっており、幾何学模様の施された受け皿の上に乗せると、皿の模様がカップに映し出され、目にも美味しい器になる。

 ただ受け皿から持ち上げると模様は消えてしまうが。

 ミステリアスなので、こういう未知のお茶を淹れるには適している。

「どれ……」


 メロンパンのバターサンドを食してみる。


 トーストされたクッキー生地に、冷たいバターの塊が口の中で絡まり合う。

 そしてユンヨンの、コーヒー豆特有の苦さと茶葉の繊細な風味。

 これはなかなか乙なものだ。

 ただ、

「……砂糖がちょっと邪魔だな」

「ホンコンではクッキーにシュガーをかけまセン」

「なるほど、それでか」

 日本のメロンパンには砂糖がまぶされているから、香港風に食べると粗が出てしまう。

 機会があればパイナップルパンも焼いてみよう。


「さて、勝負だ」

 盤上に黒石と白石を交差させて四つ並べる。

 オセロのスターティングポジションだ。


○●

●○


「最初はどこに置いても同じだな」

 適当に黒石を打ち、アリスもすかさず打ち返す。

 単純なゲームだからそれほど考えることもなく、どんどん白石を裏返していく。

 見渡す限りの黒。

「俺の圧倒的優勢だな」


「ノン。ブラックはアタックできるポイントがありまセン」


「なん……だと……?」

 ハッとして盤上を見回す。確かに黒の打てる場所がない。

「ブラックのポイントがナッシングならば、ホワイトはアタックしほーだいデス」

 アリスの一手で黒が盛大にひっくり返る。しかも俺には打てる場所がない。

「……パス」

「ではココもいただきマス」

「パス」

「ココも」

「パス」

 大勢は決した。


「ぜ、全滅?」


 盤上の石が全部白になってしまったので、隙間が空いているのに打つことができない。

 マンガで64マスが一色に染まっているのを見たことあるが。まさかリアルでそれに近い状況になるとは。


序盤オープニングから取りすぎデス。あんなに取ったらアタックできまセンよ?」


 そうか、自分の石を増やすほど相手の打てる場所は増えていくのか。

 序盤に無駄に増やしてしまうと終盤に打てるところがなくなって、打たれまくるのだ。

「も、もう一局だ!」

 今度は序盤から取りすぎないように慎重に打つ。

 しかしあっという間に旗色が悪くなる。

「なんで俺だけ打つ場所がなくなっていくんだ?」


「アユ太はクッキーだけ食べ過ぎですネ」


 アリスはミニメロンパンからメロンパンの皮、いわゆるクッキー生地を剥がした。

「リバーシではクッキーではなくブレッドをたべましょー」

「……日本語で頼む」

「こーいうことデス」

「?」

 アリスが打つとまた俺の打てる場所が減った。

 だがなぜ減っているのか、その原理がよくわからない。


 クッキーを食べ過ぎ。つまり外側の石を取りすぎということだろうか?


 確かに外側の石をひっくり返してしまうと、自分の打てる場所が減った分だけ相手の打てる場所が増える。


●●●●●

●○○○●

●●●●●


例 ●は打つ場所がない


 問題は中身のパンだ。内側の石を取るにしても効率がある。

 最も効率よくパンを食うにはどうすればいいのか?

 コツをつかみきれない内にどんどん黒石が減っていき、終盤に差し掛かろうという場面でようやく気付く。


「つまり囲まれている石をひっくり返せってことか」


「イエス!」

 囲まれている石だけをひっくり返せば、自分の打てる場所は減らず、内側から相手を分断できる。


○●○   ○●○

○○○ → ○●○ 中割り

○ ○   ○●○


 打てる場所を減らせば相手にパスをさせて一方的に打ちまくれるし、打ちたくない場所に打たせることもできる。

 将棋や囲碁と違ってわかりやすい原理だ。


 だが理解しても時すでに遅し。


 最も重要な端をことごとく奪われ、成す術がない。

「参りました」

「ぬふふ、これでパイナップルパンはむりょーデスね」

 残りのメロンパンを平らげていく。

 かと思いきや、

「……なにしてる?」

 ミニメロンパンのクッキー生地を剥がし、中身のパンを山と積んでいった。

「アユ太にはブレッドが必要デス」


「単にクッキーを食いたいだけだろうが!」


「カリカリですネ」

 やむなくメロンパンの中身を処理するためコンビニで『メロンパンの皮』を買う。

 メロンパンの皮だけなんて誰が買うんだと思っていたが。まさか自分で買うことになるとは。

 空しさを感じながら皮でパンを挟んで食べる。


 外はカリカリ、中はモフモフ。


「……メロンパンだな」

 どうしようもなく普通のメロンパンだ。

 なぜ俺は普通のメロンパンを食べるためにこんな苦労をしているのだろう。

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