しりとりセット【ロールとケール】
「しりとりで勝負だ!」
『メギャンランド』のボスみたいな感じでしりとり勝負を仕掛けてきた。
「動詞禁止な」
「当たり前でしょ」
動詞ありだと在る、炒る、売る、得る、折るなどの不毛な『る攻め』が展開されることになる。
『る攻め』が有名なのはアール(R)、イール(うなぎ)、ウール、エール、オールなど『〇ールで終わる言葉』が多くてわかりやすく、なおかつルミノール、ルーブル、ルノワール、ルイス・キャロルなど『るで始まってるで終わる』言葉が多いからだ。
意外に奥が深い。
とりあえずロール(ケーキ)とケール(栄養価が高く、青汁によく使われる『野菜の王様』)のジュースをたしなみながらルールを設定していく。
「同じ言葉は禁止、文字の置き換えはなしだ」
「置き換え?」
「『は』を『ば』や『ぱ』に置き換えたりするのはなしってことだ」
「OK」
「じゃあ始めるか」
「しりとり!」
「料理」
「倫理」
「量子物理」
「り、利売り」
「硫酸カリ」
「り、リハビリ」
「リカバリ」
「……リール」
あっという間に『りで始まりりで終わる』り攻めのネタが切れた。
かろうじて『る』で終わらせているあたり、まだ勝負を捨てる気はないらしい。
なお『り攻め』もアリ、瓜、襟、檻、狩り、霧、栗、蹴り、狐狸など日本語で『〇り』が多いので、しりとり初級者にもおすすめだ。
「ルーズボール」
「ルイビル」
「ルチャドール」
「ルクソル」
「ルシフェル」
「ルークシュポール」
……だんだんめんどくさくなってきた。
「ループ」
「ふふふ、墓穴を掘ったわね。プルトップ!」
「プロトタイプ」
「え」
「さあ、次はなんだ?」
『ぷ攻め』も有名だから当然知っている。
アップ、イソップ、カップ、切符、ケチャップ、コップ、湿布、ソップ(ちゃんこ鍋の種類、あるいはやせ型力士のこと。オランダ語のスープ)など、『〇ップ』の言葉が結構多い。
『るで始まってるで終わる』言葉のストックはまだあったが、同じ言葉を言ってしまったら負けなので、凡ミスをしないようにぷ攻めに切り替えただけだ。
「ぷ、プロペラポンプ」
「プランジャーポンプ」
「プラカップ」
「プロショップ」
「ぷ、プッシュアップ」
「プロップ」
「……プール」
弱い。
「さあ、次はどうする? 『ぬ』、『ね』、『ず』、『ど』あたりか?」
「ぐぬぬ!」
使いやすいのはライオンズやドラゴンズなどチーム名を多用できる『ず』攻めや、アド(アドバンテージの略。ゲームでよく使われる)・井戸・ウド・江戸・小戸やアミューズメントパークの〇〇ランドを使える『ど』攻めだ。
「どうせ『ん』で始まる言葉も用意してるんだろ?」
「んで始まる言葉なら負けないわよ!」
「ちなみに沖縄の方言では『ん』で始まる言葉が100個ぐらいある」
「ええっ!?」
沖縄県民とは絶対にしりとりをしてはいけない。
「会津」
「恐竜!」
「置き換え禁止だぞ」
「は?」
「あいづだから『つ』に濁点だ。『す』じゃない」
「え、づで始まる言葉ってなに? づ、宝塚?」
「河津」
「ぎゃー!?」
会津、河津、木更津、根津、焼津など、づで終わる地名は多い。
「づ、漬け?」
なんとかづのつく言葉を絞り出した。
あとは『ヅラ』ぐらいしかない。
づ攻めはルール次第ではかなり強力な戦法なのだ。
だが『づ』よりも強い言葉は存在する。
「鼻血」
「ジェル!」
「くくく、これも置き換え禁止だぞ。鼻血は『し』じゃなくて『ち』に濁点だ!」
「ええっ!?」
「変換してみろ」
スマホでぽちぽちと入力する。
「ほんとだ」
『はなじ』で変換しても鼻血にはならない。
「ぢで始まる言葉なんて知らないわよ!」
「『バルジャーノンに花束を』とか『ステファニーで朝食を』みたいに『を』で終わるタイトルもおすすめだぞ」
「……しりとりこわい」




