バックギャモンセット【フィッシュサンドとアールグレイ】
「『フレアーエムブレム』にも追加ルールが欲しいな」
せっかくレトロゲーム風のボードや駒を作ったのに、チェスゲームしかプレイできないのはもったいない。
キング
ナイト
ルック
ビショップ
クイーン
ポーン
「じゃあボードと駒を再利用して何か作る?」
「ではバックギャモンはどうでしょう」
「なんでギャモンなの?」
「ボードのモチーフは『トラ食え』のフィールドマップですよね?」
「はい。最初の町と竜王の城です」
ボード
「トラ食えシリーズの作曲家『すぎやまほういち』はバックギャモン協会の名誉会長です。そしてトラ食え1のラスボスといえば竜王。バックギャモンの世界でも将棋のようにタイトル戦が行われていますから、すぎやまほういちに敬意を表して竜王戦を開催してもいいと思います」
「じゃあフレアーエムブレムのボードを横に広げるか。トラ食えのマップでも東の洞窟から海を渡って竜王の城へ向かうからな」
「船も作りまショー」
「そうですね」
海が広いので人の駒だけだと違和感が大きい。
船のドット絵を駒に描く。
船
船の駒の裏にはキャラのドット絵を描き、海と陸地の両方に対応できるようにしておく。
「そういえばフレアーエムブレムの説明書とかで使ってるこのキャラ……」
「元ネタの『ファイヤーエンブレム』だと竜王の娘っていう設定なのよね」
「エルフではなかったのデスか」
「『龍神族』っていう種族よ。ドラゴンに変身できるの」
「へえ」
このキャラを選んだのは単純にビジュアルの良さからなのだが、意外なところでトラ食えと繋がった。
「じゃあ竜王戦ルール作るか」
「『竜王戦の系譜』ね!」
ファイヤーエンブレムシリーズにはナンバリングがなく、『神竜と光の剣』のようにサブタイトルで区別するしかない。
竜王戦の系譜は『大戦の系譜』のパロディだ。
『不幸な主人公ランキング』で有名な問題作である。
「でもギャモンの特殊ルールは平安京バックギャモンでやってるからな。新しいのを考えるのはなかなかしんどいぞ」
「じゃあファイヤーエンブレムみたいに『モード』で分けるとか」
「モード?」
「最近のシリーズでは初心者向けの『カジュアル』とか、昔ながらの『クラシック』とか難易度別にモードが分かれてるのよ」
「そういえば格闘ゲームでも『モダン』と『クラシック』が導入されてたな」
モダンだとワンボタンで必殺技を出せたりするが、コマンド入力をするクラシックに比べて技の威力などに差がある。
プロはキャラによってモダンとクラシックを使い分けているらしい。
「するとクラシックが普通のギャモンになるのか」
「ファイヤーエンブレムといえば『死んだ仲間は二度と戻らない』でしょ! クラシックはヒットされた駒がゲームから除外される高難易度モードよ!」
「復帰禁止っ!? ……それはゲームとして成立するのか?」
「させるのよ」
「勝利条件をチェンジしまショー」
「15個の駒をすべてゴールさせるのは不可能でしょうから、先に8個ゴールさせたほうの勝ちにしますか?」
「それが妥当ですね」
ルールも定まったので、プレイ前にちょっと一服。
「ベルガモットティーとフィッシュサンドね」
「アールグレイでいいのか?」
「えーと、『柑橘類の精油で香りづけされた茶葉』らしいから、たぶんアールグレイね」
ゲーム内でお茶会というイベントがあるらしく、好みのお茶を淹れると好感度が上がるらしい。
種類もベルガモットを始め、ジンジャー、ハーブ、アップル、ローズ、ミントなどバリエーションが豊富。
「フィッシュサンドは『新鮮な魚を酢に漬け、キャベツなどと一緒にパンで挟んだお手軽料理』だって」
「酢漬けならサバとかニシンあたりか」
タマネギのスライスやタルタルソースはお好みで。
フィッシュフライにしてもいいだろう。
アールグレイのベースになる紅茶はだいたいキーマンだが、これは酸味のあるお茶だ。
「ぼーの」
甘味の後に酸味が来るので、酢漬けとの相性も悪くない。
「じゃあクラシックでテストプレイしてみましょ」
「3ポイントマッチにしよう」
「OK」
竜王の戦闘曲をかけながらプレイ開始。
「神竜の巫女さま、神竜の巫女さま」
「……なにしてるんだ」
「いい目が出るようにお祈り。ドラゴンへの変身は時間制限があって、幸運のパラメータが高いほど持続しやすくなるのよ。だから龍神族は幸運成長率が高いの」
龍神族はファイヤーエンブレム界の明石の尼君らしい。
「まあ、幸運のメインは必殺『回避』率なんだけど」
「回避? 必殺の一撃が出る確率じゃなくてか?」
「回避よ。運が悪いキャラほど必殺を食らうの。このシリーズ、必殺が本当に必殺になるから不運キャラは使いにくいのよね」
「そういえばトラ食えの竜王戦でも会心の一撃が出ないそうですね」
「適正レベルで竜王と戦った場合、薬草使い果たしてMPも0、あと一撃食らったら死ぬっていうギリギリのところで勝てるようにバランス調整してるんだって」
「へえ。会心の一撃が出ると計算が狂うから、出ないように設定してあるのか」
ファイヤーエンブレムでも実は『敵の龍神族には幸運が設定されていない』らしい。
ドラゴンがボスなのに、途中で人間に戻ってしまったら困るからだろう。
いかにドラゴンとの戦いでプレイヤーにスリルを味合わせるか、どの作品でもクリエイターは苦労しているようだ。
「神竜の巫女さま!」
ころころ
両手をスリスリして巫女さまに祈りながらサイコロを振った。
お祈りの甲斐もあってか出目に恵まれ、レース面では順調にリードを広げていく。
だがこれはゴールを目指すだけのゲームではない。
「ヒット」
「一個ぐらい平気平気」
「ヒット」
「……まだまだ」
「ヒット」
「さ、先にゴールすればいいのよ!」
「この1ゲームだけならな」
「は?」
「これは3ポイントマッチだぞ? 基本的に1ゲーム勝てば1ポイント。1ゲームだけじゃ勝負はつかない。そして今回のモードはクラシック。この意味がわかるか?」
「え、ちょっと待って!? 1ゲーム目でヒットされた駒は2ゲーム目でも死んだままってこと!?」
「死んだ仲間は二度と戻らない。これぞフレアーエムブレムだ」
「ぎゃー!?」
「必殺回避を祈るべきだったな」
3ポイントマッチを提案したのもこの仕様のためだ。
クラシックは8個先にゴールさせてポイントを勝ち取るゲームではない。
相手の駒を7個以下にして脱落させるデスゲームなのだ。




