誘導ゲームセット【サンドイッチといちごミルク】
誘導ゲーム回を分割して加筆した話です。
参考ゲーム
無限回廊
Superliminal
「……なんだこのグラフィック」
背景も建物も白一色。
顔のないマネキン人形のようなキャラが、宙に浮いている白い廊下を歩いていた。
『永遠回廊』という聞いたこともないタイトルだ。
「何をするゲームなのかさっぱりわからん」
「前に歩き続けるキャラを誘導するゲームよ」
「どうやって?」
「それがこのゲームの面白いところなの。たとえばここ、道が途切れてるでしょ? で、ここに柱ね」
━ ━
柱
「こうやって視点変更でカメラを動かして、途切れてる道の前に柱が来るようにするの」
━柱━
「すると……」
「は?」
マネキンが途切れているはずの通路を横切った。
「なんだこれ?」
「目の錯覚を利用するゲームなのよ。こういう風に途切れてる道も、前に柱が来ることで『後ろで繋がってるように感じる』でしょ? プレイヤーがそう感じたのなら、その道は本当に繋がってるの!」
━ ━
↓
━柱━
↓
━━━ 途切れている場所を柱で隠すと、人間は後ろで繋がっているように感じる
「錯視を利用したアトラクションみたいだな。それをゲームシステムに取り込んでるのは初めて見た」
「でしょ?」
「でもこれだけじゃ合流できないだろ」
「他にも錯視できるのよ。たとえばこの通路」
□□□
□□□
「同じ床の色でしょ? だからこうやってカメラを傾けると……」
□□□
□□□
「あ!? 繋がってるように見える!」
「ここにキャラクターを誘導すれば、歩いて移動できるわけ」
「面白いな。この黒い穴はなんだ?」
「それは落とし穴。普通に歩いたら下に落ちてやり直しになるだけなんだけど……。たとえばカメラを操作して、この床が落とし穴の真下にくるようにすると……」
□□□●←落とし穴
□
□
□←ここが落とし穴の真下にくるようにカメラを操作する
瑞穂がカメラを操作し、通路が『く』の字になる。
すると、
スタッ
「おお!? 下の通路に着地した! ……もしかして落とし穴のある通路も、柱とか周りの通路で落とし穴を隠せば通れるようになるのか?」
「もちろん。プレイヤーの目から落とし穴が見えなくなれば、そこに落とし穴は存在しなくなるの!」
今までのパズルゲームにはない斬新さだ。
「この落とし穴と、白いジャンプ台の使い方が重要なの。ジャンプ台を使えば高い位置に移動できるし、キャラが空中にいる間にこうやってカメラをぐるっと回転させると……」
ぐるぐる
「おおう!? めちゃくちゃ飛んだぞ」
「カメラを派手に動かすことでキャラが飛んでるように見えるわけ」
「プレイヤーがそう感じることができたら、キャラは本当に飛べるわけか」
「まあ、独特なシステムだから、プレイヤーの目にはそう見えてても、ゲームにはそれが反映されないことがよくあるんだけど」
錯視という主観的なものをシステムに組み込んでいるので、その辺は仕方ないだろう。
「カメラを90度や180度回転させることはできないのか」
「やっぱり一度はそれをやってみたくなるわよね」
やはりカメラを90度回転させると壁を歩き、上下を逆さまにすると床から天井に着地する。
想像力を問われるいいゲームだ。
「他にもこういうゲームあるのか?」
「『ハイパーリミナル』は永遠回廊の主観バージョンよ。このゲームは……」
「待て、自分でやる」
ネタバレを食らう前にコントローラーを奪い取る。
主観視点で、どうやら『つかむ(離す)』と『ジャンプ』しかできないようだ。
「ちなみにつかむのに射程距離はないわよ」
「……なんだこいつ、ゴム人間か?」
つかめるオブジェクトは、どれだけ距離が離れていてもつかめる。
そして、
「おお、でかくなった!?」
「遠近法の応用ね」
つかんだオブジェクトを上下左右前後に動かすと、遠近法でオブジェクトが大きくなったり小さくなったりする。
『手のひらの上に人が乗っている』トリック写真と同じ要領だ。
トリック写真の場合だと小さくしたい場合は被写体を後ろに下げ、大きくしたい被写体は手前に来るようにする。
このゲームでも基本は同じだ。
たとえば『壁の上のほうに出入り口がある』場合、その出入口から距離を取り、オブジェクトをつかんで壁を登れるだけの大きさに調整してから置く。
慣れないうちは大きさの調整が難しい。
「ん、ボタンが二つあるのにオブジェクトが一つしかない」
おそらくオブジェクトを巨大化させてボタンを同時に二つ押すのだろう。
理屈はわかるのだが……
「デカ過ぎんだろ……」
「部屋の大きさに比例してどこまでも大きくなるわよ」
ここまで大きくなるのかというレベルで巨大化する。
ただ質量は変わらないようなので、巨大化したオブジェクトに潰されることはない。
「出口の位置が高すぎる。オブジェクトを巨大化させても、そのオブジェクトに登る方法がない。……まさかこのオモチャの家を巨大化するのか?」
「そのまさかよ」
ドールハウスも巨大化すれば立派な家になる。
ドールハウスの中に入って二階に上がり、窓から高い位置にある出入口へ渡るのだ。
「オブジェクトがどこにもないぞ」
「下にはね」
「上……?」
だが上には天井と窓しかなかった。
いや、厳密にはもう一つある。
月だ。
開いている窓から月にカーソルを合わせる。
「……マジかよ」
つかめそうなものなら月さえつかめる。
もうなんでもありだ。
すべては錯覚、言い方を変えればプレイヤーの認識次第。
できると思えば何でもできるのだ。
「……白黒のマス? 黒は落とし穴か?」
チェスボードのように白黒で色分けされた床。
おそらく黒は落とし穴だから、白いマスを歩く。
「落ちた!?」
たしかに白い床も見方を変えれば落とし穴に見える。
それなら黒い床だ。
「……黒でも落ちた?」
白黒が交互に続いているのだから、オブジェクトを巨大化させても落ちてしまう。
だがオブジェクトを使わなければ突破できないのは確実だ。
とりあえずオブジェクトを白の床に置いてみる。
「……そういうことか」
オブジェクトは落下しなかった。
その白い床の上にキャラが乗っても落ちない。
だが次の黒いマスに進むと落ちた。
なので黒いマスにもオブジェクトを乗せる。
落ちない。
すべては認識のなせる技だ。
「プレイヤーは白、あるいは黒のマスを穴だと感じてしまうから落ちる。だがオブジェクトにはそんな認識がないから落ちない。そしてオブジェクトが乗っている床は穴に見えなくなる。だからオブジェクトを置いたマスにはプレイヤーも乗れるってことか」
「そういうこと」
永遠回廊とは違う方式で錯視を突き詰めた良作だ。
繰り返し遊べるジャンルではないが、一度は絶対にプレイしてみてほしいゲームである。
「うちの店でも錯覚を利用したものを出してみたら?」
「錯覚メニューってどんなんだよ」
「たとえばこういうの」
サンドイッチを渡された。
「ただのサンドイッチだろ」
「食べてみて」
「……? ん、具が全然入ってない!?」
「最近コンビニで話題の錯覚パッケージよ!」
「ただのサギだろうが!」
コンビニの棚に並んでいるのを見ると具がたくさん入っているように見えるが、実は具を手前に集中させているだけで中身はスカスカなのだ。
古典的な詐欺である。
他にも謎の空洞がある塩むすび(具がないのに具を入れるスペースがある)や、上げ底弁当(上から見ると普通の弁当だが、弁当の底を狭くして容量を少なくしている。二重底にしている場合もある)などもあるらしい。
「いちごミルクを混ぜるためにストローでかき回しても、なぜか全然混ざらないっていうのもあったわね」
「あー、容器にいちごの果肉を印刷してるやつだな」
「最近はおにぎりのノリすら印刷してるんだって」
おにぎりのノリを巻こうとしたら、パッケージにノリが印刷されてるだけで、そもそもノリがついていないらしい。
「……これもう訴えたら勝てるだろ」
「果肉たっぷりって書いてあるわけでもなければ、広告・メニュー・商品のパッケージにノリを巻いたおにぎりの写真が載ってるわけでもないからセーフ」
「アウトだよ!」