レースゲームセット【マリトッツォとカプチーノ】
レースゲーム回を分割して再構成した話です。
参考ゲーム
R4
リッジレーサー5
ジョグコン
「このコントローラーは何用なんだ?」
「それはダイコン。レースゲーム用のコントローラーよ」
「これもレース用なのか」
ダイコンはコントローラーの真ん中に金庫のダイヤルのようなものがついていた。
なぜこれがレース用なのかさっぱりわからない。
「実際に試してみるしかないか」
「せっかくだからプレイしたことのないゲームにしてみたら?」
「そうだな」
『リッチレーサー4』をセットする。
最初は普通のコントローラーだ。
「このゲームも基本はアクセル踏みっぱなしでノーブレーキね。コーナーを曲がる時はアクセルを離す」
「こうか?」
ききー
「おおう!?」
豪快に横滑りしてドリフトする。
アクセルのON・OFFだけで簡単にドリフトできるらしい。
車体をコントロールするのに苦労するものの、慣れると軽快に走ることができた。
壁やガードレールがあるのでコースアウト(ショートカット)しながらインを突くことはできない。
それにインを狙うと相手のラインと重なってぶつかるので、追い抜く時はアウトから。
基本的に自分の愛車のほうが速いので、できれば直線で抜く。
「快適だな」
簡単すぎず難しすぎず。
テンポがよく、慣れれば俺でもすぐにクリアできる。
BGMもファンが『リッチサウンド』と呼ぶだけあって個性的で、ストーリーもシンプルだが盛り上げ方がうまい。
しかも所属するチームによってストーリーが変わる。
レースの成績によってキャラのセリフが細かく変わるのもいい。
ギリギリで予選通過した場合や、3・2・1と尻上がりに成績が上がっていった場合、逆に右肩下がりの成績だった場合、すべてリアクションが違う。
レースゲームとしてはかなり変わった仕様だ。
文章量も登場キャラも少ないのに(基本的に1エピソードに登場するキャラは1人だけ)、こういう細かい仕掛けが凝っていて飽きさせない。
難をいうならコースが見にくいことか。
気づいたらコーナーに差し掛かっており、操作が間に合わず衝突することが多い。
初めてのコースは先行車を参考にしながら走らないと確実にぶつかる。
「ん、ドリフトしてないな」
ここはドリフトせずに曲がったほうが速いのかと思ってそのままコーナーへ飛び込むと、
どかーん
「げっ!?」
曲がりきれずにクラッシュした。
「くそ、なんであいつは曲がれるんだ!」
「マネしないほうがいいわよ。それ、プレイヤーでは再現できないインチキ走法だから」
「はあ!?」
「特殊な改造でもしてる設定なんでしょうね」
ひどい罠だ。
ただクラッシュしても減速するだけで走行不能になることはなく、ミスをしても取り返せるところにゲームバランスの妙を感じる。
「そろそろダイコン使うか」
「リッチ5もオススメよ。ダイコンに対応してるソフト3つだけだし」
「残りの1つはなんだ?」
「パクパクマンワールド」
……レースゲームですらない。
よほど売れなかったのだろう。
まともにプレイできるのか不安になる。
「レースゲームといえばカプチーノ!」
「何のことかと思ったら車名か」
由来もコーヒーのカプチーノである。
カプチーノならクロワッサンかブリオッシュが定番だ。
「生クリーム使っていい?」
「好きにしろ」
「やった!」
ブリオッシュに溢れんばかりの生クリームを挟む。
メディアが無理やり流行らせようとしたことでお馴染みのマリトッツォだ。
「……美味しいけど、そこまで大騒ぎするような味じゃないわね」
「そりゃブリオッシュに生クリーム挟んだだけだからな」
喫茶店としては一手間加えるだけで流行りものに変身するのだからボロい。
ただ想像通りの味にしかならないので、フルーツを挟むなりなんなりして工夫しないとすぐ飽きられる。
「イタリア人はパンを飲み物にひたして食べるのよね?」
「パンだけじゃなくケーキやビスケットもひたすぞ。歯ごたえのあるものもお構いなしだ」
「その習慣を流行らせればいいのに」
「やめろ」
そんな習慣が流行ったら、米も麺も飲み物にぶち込むバカが絶対出てくる。
後始末を考えるだけで頭が痛い。
「さて……」
ダイコンとリッチ5のディスクをセットし、難易度ノーマルでプレイしてみる。
「なんだこれ!? ダイヤルが勝手に動くぞ!?」
左右の親指でダイコンの真ん中にあるダイヤルを操作するのだが、ダイヤルがあらぶってまともに操作できない。
「ふふふ。それがキックバックよ!」
「キックバック?」
「フォースフィードバックともいうわね。路面の状態がコントローラーにフィードバックされるの」
「それでダイヤルが勝手に動くのか」
車が少しでも動くとダイヤルがその動きに反応し、勝手に変な方向へ走り出そうとする。
とうぜんダイヤルを操作して車を立て直そうとするわけだが、別の方向へ走り出そうとしているということは、ダイヤルにそっち方向へ負荷がかかっているということ。
ようするにハンドルが重いのだ。
慣れていないとキックバックに力負けする。
長時間プレイしていると確実に指が痛くなるだろう。
そして一度でもコントロールを失ってしまうと容易には立て直せない。
どうダイヤルを操作すれば元に戻れるのかわからないのだ。
標準コントローラーならただのミスで終わるものの、ダイコンでは致命的なミスになる。
おまけにリッチ5そのものの難易度が高かった。
4と違って一度ミスをすると簡単には取り戻せない。
道がそんなに広いわけではないのにレーサーが多いため、前作より接触する可能性が高くなっている。
しかも4と違ってライバル車の挙動がおかしい。
こちらの進路をふさぐような動きをしてくる。
タイミングによってはブレーキを踏まされたり、相手のカマを掘らされたり、横からぶつけられてしまう。
相手の後ろにいるのも厄介だが、相手が後ろにいるのも厄介だ。
こちらが少しでもミス(あるいは減速)すると即座に抜いてくる。
それもかなり乱暴な運転で、吹っ飛ばされることが多々あった。
俺の当たり方の問題かもしれないが、接触した場合だいたいプレイヤーが吹っ飛ばされるような気もする。
コースも長めで、走り方によっては長時間一人で走ることになり(前作より数が多いのに一人きりの時間が多い)、負けると再プレイするのがしんどい。
前作よりリアル志向になった弊害だろう。
中途半端に4に慣れてしまったのでつらい。
「どうすればいんだ、これ」
「進行方向とは逆にハンドルを切れば、ちゃんと走れるようになるわよ」
「カウンターステアってやつか」
普段はあまり意識していなかったが、車体をコントロールするために無意識にカウンターを入れていた。
それを意識的にやるのが難しい。
カウンターを入れるとダイヤルが軽くなるため、ダイコンでは小まめにカウンターを入れないといけない。
キックバックで車体の状況を把握し、カウンターを入れて巧みにコントロールする。
標準コントローラーでは味わえないプレイ感覚だ。
コツを掴めばもっと面白くなるだろう。
1ミスが痛い難易度も別のテクニックに目を向ける機会になる。
具体例を挙げるならスリップストリームだろう。
先行車の後ろについて空気抵抗を減らし、加速して一気に追い抜くテクニックだが、名前は知っていても有効に活用する機会はなかった。
というか4ではスリップストリームをせずとも、加速力はこちらのほうが上なので直線で普通に抜ける。
5ではスリップストリームを使わないと勝つのは困難だ。
距離があっても視界内に先行車がいればスリップストリームが発動するので、いかに相手を視界内にとらえるかが重要になる。
リードしている時はいかに突き放すか、あるいは車線を変えてスリップストリームされないようにするかが重要だ。
4ではあまりなかった駆け引きである。
ききー!
「ぐ!」
だがやはり一度コントロールを失うと、ダイコンではどうにもならなくなる。
もっと根本部分を見直したほうがいいのかもしれない。
「これでどうだ!」
思い切ってコントローラーの持ち方を変えた。
左手でコントローラーを持ち、アクセルをLボタンに変更。
つまり左手はアクセルのON/OFFだけ。
ダイヤル操作は右手だけでやる。
これまでは右手と左手の親指でダイヤルを操作していたのでキックバックの負荷に力負けしていたが、右手でがっつりダイヤルを握っているので力負けすることもない。
「これで勝てる!」
「それ右手しか使えないヒネコンじゃない」
「あ」
……なぜヒネコンが開発されたのかわかった気がする。