クソゲーセット【今川焼きとトマトジュース】
修学旅行前の設定です。
北海道の聖地巡礼を分割して再構成しました。
参考ゲーム
四八(仮)
センチメンタルグラフティ
「なんどめだ京都」
「3回目ね」
「……これだから修学旅行は嫌なんだ」
まさか小中高で修学旅行がすべて京都・奈良になるとは思わなかった。
これほどむなしい積立金はない。
「でも今回は大阪もあるでしょ」
「それがせめてもの救いだな」
大阪にはまだ行ったことがないだけにうれしい。
「修学旅行のしおり作らなきゃ」
「聖地巡礼のための下調べか」
ガイドブックでも地図でもなく攻略本を取り出すのがいかにもゲーマーで末期的だ。
いずれも日本が舞台になったゲームである。
「ふふふ、これぞゲーム業界を震撼させた伝説のノベルゲーム!」
俺のまったく知らないゲームを取り出した。
『四七(仮)』
「(仮)ってなんだ」
「プレイしてのお楽しみ」
「とりあえずやってみるか」
さっそくプレイしてみる。
『おめでとうございます! あなたは新作ゲーム四七のサンプルモニターとして選ばれました!』
「あー、四七っていうゲームのサンプルだから(仮)なのか」
「そういうこと」
もったいぶった割には大したことのない由来だった。
『後日サンプルを送らせていただきますのでいくつかご質問にお答えください』
誕生日、性別、血液型、家族構成、住所を入力する。
「……どう考えてもサギだろ」
「細かいことは気にしないで」
こうしてサンプルが届き、本格的にゲームが始まった。
タイトルの四七は都道府県。
日本地図をクリックすると、その土地に関するシナリオが展開されるそうだ。
さっそく京都を選択する。
『深泥ヶ池でタクシーの運転手さんが女の人を乗せたんだって』
髪の長い女で顔はよく見えない。
ボソボソした声でしゃべり、運転中は会話もなく不気味な沈黙が車内に満ちていた。
気まずくなりながらも、目的地に到着したので運転手が『着きましたよ』と後ろを振り返ってみると、女がどこにもいない。
もう降りたのかと思ったが、まだ料金を払ってもいなければドアを開けてもいない。
不信に思って座席を確認してみると、座席がびっしょり濡れていた。
『完』
「は?」
「うん、いかにも四七らしい話だわ」
「どこがだ!?」
「山なしオチなし意味なしの投げっぱなしジャーマン、もしくはただの観光案内、ひどいものになると地元と何の関係もない小話の集まり。これぞクソゲーの歴史を変えた伝説のクソゲーよ!」
「業界を震撼させたってそういう意味かよ!」
「なんと奈良のシナリオはミニゲーム付き」
「……何も期待できねえ」
舞台は一言主神社。
一言主に退治された土蜘蛛が怨念となり、このあたりには蜘蛛が大量発生して困っているらしい。
『人面蜘蛛を見たら三日三晩苦しんだ末におかしくなる』
『人面蜘蛛を殺したものは人面蜘蛛になってしまう』
という伝説があるので、圏外の業者に頼んで処理してもらう。
その業者が今回の主人公だ。
そして待望(?)のミニゲームである。
30秒以内に一定数のクモを退治すればクリア。
カーソルを動かしてボタンを押すだけの簡単なお仕事。
『あ、もしかして今殺したのは……』
『指先がチリチリする。口の中はカラカラだ。目の奥が熱いんだ』
『まさか、俺は本当に蜘蛛に……』
『完』
「……思ってたより悪くないな。いや、ハードルが低くなったから相対的にマシに思えるだけか?」
「大阪のシナリオを読んで判断しなさい」
大阪をクリックする。
『大阪は有名なトンネルが多いんだよ!』
怪談とは思えない女子高生の軽快なトーク。
『犬鳴トンネルはカーブしてて地味にやな感じ』
『旧石切トンネルは何十年も前に火災事故で40人ぐらい死んじゃったんだって。今は立ち入り禁止の門があって入れないの。うち、そこに行ったことあるんだけど無人駅でちょー怖かった』
『大阪はタコ焼きだけじゃなくてトンネル探索もオススメだよ!』
『完』
これはひどい。
「……ひどすぎてどう表現すればいいのかわからん」
「こういうときは『KUSOGEEEE!』って叫べばいいのよ」
「なんだその妙な発音は」
「世界で最も権威のある格ゲー世界大会で実況が叫んだのよ。つまりクソゲーは世界共通語!」
「変な概念を海外に広めるな」
だが叫びたくなる気持ちもわかる。
「よくもまあ、こんなネットで適当に拾ってきたような話でゲームを作ろうと思ったな」
「これでも『現代はネットで何でも調べることができるからこそ、フィールドワークを徹底して土着の話にこだわった』らしいわよ」
「ウソつけ!」
「パッケージ裏にも『現地へ取材を敢行!』って書いてあるじゃない」
「じゃあキャッチコピーの『四十七都道府県の至高の恐怖が集結!』はどこにあるんだよ!」
「クソ過ぎて怖いってことじゃないの」
「これを発売したことが恐怖だよ」
「ちなみにこのゲームのデザイナー、『魔人降臨伝ONI』『ラストアルマゲドン』『学校で出会った怖い話』の人よ」
「なん……だと……?」
プレイしたことのある作品ばっかりだ。
ある意味その事実が一番怖い。
それなりの実績を残した人を起用していながら、どうしてこうなった。
「お前は本当にこのゲームの聖地へ行きたいのか?」
「あんたは近くにガッカリ名所があっても見に行かないの?」
「……行く」
「つまりそういうことよ」
「ぐっ……!」
反論できないだけに悔しい。
しょぼいと分かっていても、人は札幌の時計台へ行ってしまうのだ。
ある種の怖いもの見たさだろうか?
そもそも四七(仮)がひどいだけで場所自体は普通の観光地だからトラウマにはならないだろう。
たぶん。
だが聖地巡礼とは認めない。
地獄巡りだ。
「……もっとマシなゲームはないのか?」
「『センチメートルグラフティ』は日本全国を旅するギャルゲーよ」
「それで頼む」
「ポチっとな」
セングラとやらを起動すると、オープニングが流れ始めた。
「あはははは!」
「……なんだこのアニメ。まるで意味がわからんぞ」
「伝説の暗黒太極拳よ」
古いゲームなので若干デザインは古いが、作画はそこまで悪くないし、ヒロインがオープニングで踊るアニメも珍しくはない。
なのに狂気を感じる。
原因の1つは黒背景だろう。
黒一色でヒロインが淡く発光している感じなので雰囲気が暗い。
シチュエーションも謎だ。
トランポリンのようにぴょんぴょん跳ねたかと思えば、謎の黒い空間をヒロインたちが泳ぎだし、雨でずぶ濡れになってアンニュイな表情をする。
そして最後に暗黒太極拳。
そうとしか説明のしようのないダンスをヒロインたちがシュールに踊る。
しかもなぜか風が強い。
かなりの横風が吹いており、髪と制服がなびいている。
でかい扇風機でも置いてあるのか?
突っ込みどころが多すぎて笑うしかない。
「さすがに一世を風靡した作品は格が違うわね」
「このゲーム、そんなに面白いのか?」
「え? 面白さではオープニングがピークだけど?」
「四七(仮)と同じじゃねえか!」
「四七(仮)とは次元が違うわよ。キャラデザと広報で発売前はすごい盛り上がったんだから。このゲームがコケたせいでギャルゲーバブルが完全に弾けちゃったんだけど」
「ちなみにゲームの売り上げ本数は?」
「20万本」
「……やばすぎる」
「発売前の関連グッズ売り上げだけでも億単位のはずよ」
国内市場だけ、それもギャルゲーというニッチなジャンルは10万本で大ヒットだ。
20万は歴史に残るレベルだといっていいだろう。
キャラデザだけでそこまで売れたのなら広報部も大したものだ。
なお原画家のキャラデザは素晴らしくても、ゲーム内ではほとんど再現できていない。
当時はゲーム機やパソコンの性能も低かったので、いかに原画を再現するか、もしくは限られた性能でいかにかわいく見せるか工夫されていたらしい。
かわいさが命のギャルゲー業界では肌の質感1つで売り上げが左右されるため、会社によって色の塗り方にも特徴があったという。
同じイラストレーターでも会社が変わると別人の絵のように感じるあたり、プロの仕事はあなどれない。
オタクになると『塗りでメーカーが分かる』という。
現代ではなんの役にも立たない能力だが。
「……ちょっとやってみるか」
好奇心には勝てない。
だが超ド級のクソゲーに触れたせいで体力を消耗しているので、先に何か食べることにする。
「今川焼きとトマトジュースね」
「……その組み合わせの由来は?」
「四七(仮)の北海道シナリオ」
気になったので、クソだとわかっているが読んでみる。
『昔、道路を作ろうとした人がこの木を切ろうとして死んじゃったらしいよ』
『御神木の切り傷を触ってみたら赤い液体が流れてきたんだ』
『きっと誰かがトマトジュースを入れたのね。もったいない』
「……」
頭痛がする。
だが残念なことに、北海道シナリオはこれで終わりではない。
『百段階段を昇ってると子供の声がして「今何段目?」って聞かれるらしいんだけど、ちゃんと答えられないと降りる時に突き落とされるんだって』
『試しに行ってみたら二段目で本当に「いま何段目?」って聞かれて、パニックになった友達が今川焼きって答えちゃったの』
『あの時はなにも起こらなかったけど、あの子、東京に戻ったあと大丈夫だったかなぁ。まあ、あれから連絡ないから大丈夫だよね』
『完』
「大丈夫じゃねえよ!」
「たまに怪談より語り部のほうがやばいのよね」
「そもそも二段目で聞いてくるのも早すぎるし、なぜここで今川焼きが出てくるのかもわからん」
「いま何段目と今川焼きって似てるじゃない。ほら、いまなんだんめいまなんだんめいまなんだんめいまなんだんめ……いまがわやき」
「ぜんぜん似てねえ!」
「ちなみにこのシナリオ、ランダムで『突き落としルート』に分岐するんだけど。ゲーム機本体の内部時計でフラグ管理されてるから、時計を設定してないと分岐が発生せずにずっと同じシナリオを見続けることになるのよ」
「……くそ、どこまでプレイヤーを翻弄すれば気が済むんだ」
「今川焼きでも食べて落ち着きなさい」
仕方ないので今川焼きとトマトジュースをいただく。
クソゲーらしい組み合わせだ。
一つ一つはうまいのに、お世辞にも相性がいいとはいえない。
「さて……」
気を取り直してセングラを始める。
転校を繰り返していた主人公のもとに届く差出人不明のラブレター。
主人公は旅をしてラブレターの差出人を探す。
候補は12人。
「……多いな」
しかもヒロインを攻略するためには旅する必要がある。
遠距離にいるヒロインが相手だと交通費もシャレにならない。
繰り返しデートするとなると、まとまった金が必要になる。
高校生なので定期的にバイトしないといけない。
だがなぜか東京のバイト代が不当に安かった。
夏休みのような長期休暇になると、バイト代の高いところまで移動し、野宿しながら金を稼ぐことになる。
困るのはキャンプ地から電話をかけられないこと。
この時代にはまだ携帯電話が普及していなかったにしても、いちいち東京まで戻らないとデートの約束をできないのが面倒だ。
特に今回は大阪に住むキャラを攻略するので移動距離と交通費がかさむ。
厄介なことにデートの日付はヒロインが指定する。
長期休暇ではない時期に土曜日を指定してくるときつい。
平日はデート代を稼ぐためにバイトをしているので、土曜日にはスタミナが尽きている。
大阪まで飛ぶ体力がない。
体力があっても最短最速で大阪に向かうと金がかかる(交通手段によって時間と値段が違う)。
ヒッチハイクなら無料だが、交通ルートや時間がランダムなので予定には組み込めない。
『……』
「この毎日のようにかかってくる無言電話はなんだ」
「『切なさ度』っていうパラメータがあって、交流しないとヒロインがドンドン切なくなっていくのよ。MAXになると切なさが炸裂して無言電話をかけてくるの。無言電話が来ると体力が減るから注意ね」
……愛が重い。
おまけに好感度が高いほど切なさがさく裂しやすくなるという地獄。
「ラブレターの差出人を探すのが目的なわけだから、ヒロイン全員と会ってないとベストエンディングは見れないわよ」
「マジか」
「しかもヒロイン数人の好感度を一定まで上げてイベントを発生させないといけないし」
目当てのキャラを攻略するには日本中を効率よく旅しつつ、バイトで金を稼ぎ、切なさを調整しないといけないらしい。
切なさ管理のため12股必須というシステムもひどいが、お目当てではないヒロインは振らないといけないのも精神衛生上よくない。
色々な意味でシビアすぎる。
「ちなみに2もあるわよ」
「この惨状でよく2を出したな」
さすがに1からいろいろ改善されているだろう。
……そう思ったのが甘かった。
「は? 1のヒロインたち12人がそのまま続投で、2の追加キャラはなし!? しかもオープニングで1の主人公死んでんじゃねえか!」
「おまけに主人公が12股してた設定も引継ぎよ。1では全国各地に散らばってたヒロインも、東京に集まってるから旅行感もなくなったし」
「KUSOGEEEE!」




