乙女ゲーセット【ホールグレインハニーコームバターウィズジンジャーチップスとホワイトチョコレートモカフラペチーノキャラメルソースヘーゼルナッツシロップチョコチップエキストラホイップエスプレッソショット】
乙女ゲーム回を分割して改稿した話です。
参考ゲーム
悠久のティアブレイド
耽美夢想マイネリーベ
幕末恋華新選組
「男もプレイできる乙女ゲーってあるのか?」
「アニメから入ればだいたい大丈夫じゃない? 『テニスのプリンセス様』なら乙女ゲー出てるし」
「……テニスしろよ」
「乙女ゲーの世界に転生するタイプのアニメもオススメね」
「あー、『ロボに乗って戦う乙女ゲー』のモブに転生するアニメは面白かったな。どう考えても乙女ゲーじゃありえない設定だったが」
「そんなあなたに『琉球のティアブレイド』」
「あるのかよ!」
「『世界観が本気すぎて恋してる場合じゃない』って大評判よ」
……もはやどこから突っ込んでいいものか。
「でも乙女ゲーに『悪役令嬢』出てこないんだろ?」
「かなり少ないわね。『マンネリーベ』は悪役令嬢が攻略キャラを横取りしてこようとするけど、主人公も結構腹黒くて悪役令嬢の家を潰しに行ったりするから」
「悪役令嬢VS悪役令嬢か」
「そんな感じ。そもそも男キャラを攻略するのが乙女ゲーなのに、お邪魔キャラを女キャラにするなんて『どんな判断だ』って話でしょ」
「悪役令嬢を出すぐらいなら、攻略対象の男を悪役令嬢ポジションにしたほうがいいってことだな」
『少女漫画によく出てくる意地悪なお嬢様キャラ』を概念化して生まれたテンプレなので、現実の乙女ゲーと食い違っても仕方ない。
「でも悪役令嬢ものが流行ってるから、ちょくちょく悪役令嬢の活躍するゲームとか、乙女ゲー世界に転生する作品も増えてきたわよ」
秘蔵の乙女ゲーを山のように積む。
「……最近の作品はムダにタイトル長いな。しかも『悪役令嬢』『乙女ゲー』『転生』『婚約破棄』『追放』とか、似たようなキーワードが多い」
「『作家になろう』系の作品はシアトル系カフェと同じなのよ」
「は?」
「バニラモカノンファットミルクエクストラホイップウィズアーモンドも『乙女ゲーの悪役令嬢に転生したらいきなり婚約破棄されて国からも追放された件』も、好きな属性を羅列してるだけでしょ?」
「……なるほど。自分で注文するか、メニューから注文するかの違いだな」
「そういうこと。自分の好きなキーワードで検索して、キーワードが一致する作品の中から面白そうなものを読むのよ。タイトルが長いのも、作家になろうみたいな小説投稿サイトのランキングではタイトルしか表示されないからだし」
「過酷な生存競争を勝ち抜くためにタイトルが長くなる方向性で進化した、と」
あらすじがないからタイトルで判断するしかない。
意味が分からないタイトルだとクリックされない。
ならタイトルをあらすじにしよう。
こう考えるのも無理はない。
そして検索されやすいように流行りのキーワードを入れまくった結果、似たようなタイトルが氾濫しているわけだ。
「じゃあ今日はトールノンファットノンバニラソイシロップバニラエクストラホイップノンカフェノンラテマイタンブラーね」
「……なんのいやがらせだ」
「あー、でもホワイトチョコレートモカフラペチーノキャラメルソースヘーゼルナッツシロップチョコレートチップエキストラホイップエスプレッソショットのグランデも捨てがたいわね。スイーツはフランボワーズ&ギリシャヨーグルトリコッタダッチベイビーケークとホールグレインハニーコームバターウィズジンジャーチップス、どっちがいいと思う?」
「知るか!」
呪文を聞いているようで頭が痛くなってくる。
どれもアニメネタなので、どういうものなのかわかっているのが救いか。
「……で、今はどんなのが人気なんだ?」
「最近話題になってるやつだと坂本龍馬ね」
「なんで悪役令嬢ものに龍馬が出てくるんだ」
「龍馬は千葉さな子と婚約してたけど、おりょうと結婚してるでしょ。さな子に転生すれば人気イベントの婚約破棄ができるじゃない!」
「ちょっと待て! さな子がキャラ的に魅力だからじゃなくて、婚約破棄できるからさな子なのか?」
「簡単にシチュエーションを作れるのって結構大事よ。歴史上の人物は著作権フリーみたいなものだし、いつどこでなにが起こるかも決まってる。知識さえあればかなり小説を書きやすい題材なんだから」
「……たしかに乙女ゲーにしやすい環境ではあるな」
千葉さな子は桶町千葉道場の道場主・千葉定吉の次女。
江戸三大道場『玄武館』の千葉周作の弟の道場であり、千葉周作は『大千葉』、千葉定吉は『小千葉』と呼ばれている。
龍馬は小千葉の門弟だ。
「舞台が道場だから学園ものに近いシチュエーションを作れるのも高ポイント。玄武館の清川八郎、山南敬助、藤堂平助とも交流できるし、三大道場繋がりで練兵館の桂小五郎と高杉晋作、士学館の武市半平太と岡田以蔵も攻略対象なのよ!」
「……狭い範囲にキャラが集まってて交流しやすく、幕末は人気ジャンルだからキャラの性格も固まってて書きやすい。至れり尽くせりだな」
「問題は史実カップリングぐらいね。龍馬、武市半平太、原田左之助は妻がいるから、作品によっては別れさせる展開になるし」
「if展開はあるのか?」
「攻略ルート以外は史実通りの展開になりがちね。逆に個別ルートだと歴史改変が起こるわよ。そもそも主人公が乙女ゲーの世界に転生したイレギュラーな存在だから、キャラに関わることでどうしても歴史が変わっちゃうわけ。攻略キャラを見ればわかると思うけど、天寿を全うしたキャラほとんどいないでしょ」
「あ……、切腹、斬首、暗殺、戦死、病死。まともな死に方をしたやつがいねえ!」
「そこでさな子の出番よ。攻略対象に破滅フラグが立つからそれを回避するの。原田左之助なんて上野戦争を生き延びたら中国に渡って馬賊になるんだから」
「は?」
「しかも日露戦争で世界最強の『コサック騎兵』と戦うオマケ付き」
「……ネタがマニアックすぎる」
原田左之助は中国で馬賊になったという伝説があるのだ。
日本軍は日露戦争で現地の馬賊を使い、ロシアを攪乱したといわれている。
ここに原田左之助をねじ込むのが面白い。
このゲームでは左之助が龍馬を暗殺した設定なので、龍馬が暗殺されないと左之助ルートには入れない。
元婚約者を殺した男と中国へ渡るトンデモ展開で一番人気のシナリオらしい。
なお攻略手順を間違えると戦死や暗殺を防げないだけでなく、死期も早まるそうだ。
たとえば龍馬が暗殺されるのは近江屋だが、主人公が龍馬に関わることで歴史が変わり寺田屋事件で暗殺されてしまう(龍馬の妻であるおりょうの活躍で難を逃れた事件なので、さな子では事件を回避できない)。
桂小五郎や藤堂平助も池田屋事件で死ぬ(史実だと桂は屋根から逃げ、藤堂は重傷を負っている)。
新選組が浪士組だった頃に行われた『会津候上覧試合』で藤堂は土方(鬼の副長)に、山南は沖田(新選組の撃剣師範にして一番隊組長)に勝たないと破滅フラグを回避できない(会津候上覧試合は誰と誰が戦ったのかは記録に残っているが、肝心の勝敗が不明なので、誰を勝たせても歴史警察から怒られることのない作者に優しいイベントだ)。
桂小五郎と龍馬の士学館での『撃剣会』も有名で、龍馬が勝てば寺田屋の破滅フラグを回避でき、桂が龍馬の右片手上段をさばいて歴史を変えれば池田屋を生き延びられる。
もちろん彼らに稽古をつけるのはさな子だ。
歴史ものだからこそできるシナリオ構成である。
よく『さな子が強すぎる(剣豪に勝てるのはおかしい)』という批判が来るので、さな子に転生したプレイヤーは剣道を習っていた、あるいは左利きだったという設定が多い。
昔は礼儀作法にうるさかったので右に矯正される。
右利きは左利きと戦う機会がないのに対し、左利きは右との対戦に慣れているのは大きなアドバンテージだ。
古代ローマの剣闘士も左利きが強かったという。
「宮本武蔵も人気があるわね」
「そういえばヒロインのお通は本位田又八の許嫁だから、婚約破棄できるな」
宮本武蔵の小説は著作権が切れているし、武蔵と戦う宍戸梅軒、吉川清十郎、佐々木小次郎も攻略対象にできる。
お通は武蔵を追いかけて東奔西走するアクティブなヒロインだから話も作りやすそうだ。
『婚約破棄ぜよ!』
「よ、伝統芸!」
「……歌舞伎みたいなリアクションするな」
婚約破棄で道場から追放されたら、早めに身の置き所を探したほうがいい。
史実だとさな子が死んだときに遺体を引き取ってくれる人がおらず、危うく無縁仏になりかけたからだ。
バッドエンドだと野たれ死んで無縁仏になってしまう。
「……男装して新撰組に潜り込む? さすがに無理あるだろ」
「男装女子かわいいじゃない」
「問題はそこじゃない」
女装して女子高に潜り込む展開と同じノリのようだ。
「また芹沢殿が死んでおられるぞ」
「親の顔より見た展開」
「もっと親の顔見ろ」
芹沢は新撰組の初代局長だ。
大酒飲みのろくでなしだったので、漫画でもアニメでもゲームでも小説でも時代劇でも序盤の見せ場として派手に暗殺される。
「登場から退場するまでの期間が短いせいで、最初から芹沢狙いじゃないと攻略できんな」
シナリオはほぼ史実通りに展開していくので、ガンガン攻略対象が死んでいく。
普通の恋愛ゲームと同じ感覚では攻略できない。
「最後まで戦い続ける土方と、戊辰戦争後も生き延びる永倉・斎藤あたりはのんびり好感度を上げても間に合うな」
「つまり『史実で死んだ順に攻略すればいい』ってことね」
……こんなにひどい攻略法は聞いたことがない。




