乙女ゲームセット【おからクッキーとローズヒップティー】
参考ゲーム
ときめきメモリアル
乙女的恋革命★ラブレボ!!
『瑞穂さん、一緒に帰ろう』
「でも一緒に帰って友達に噂とかされると恥ずかしいし」
「……」
ニヤニヤしながら女性向け恋愛シミュレーション、いわゆる『乙女ゲーム』をプレイしているオタクが一人。
しかも本名プレイで、主人公のセリフに声を当てながらのプレイだ。
攻略対象の男キャラはフルボイスだけに、音だけ聞いているとまるでドラマのように感じる。
「やってて恥ずかしくないのか?」
「本名プレイは婦女子のたしなみ! ……さすがに家族に見つかったら死にたくなるけど」
「俺は?」
「むしろセリフ読んで?」
「絶対イヤだ」
「ケチ」
TRPGでロールプレイするのならともかく、2人で声を当てながらプレイするのは何の罰ゲームだ。
『おはよう、瑞穂さん』
「本名プレイでもちゃんと名前を呼んでもらえるのがすごいな」
「物凄い量の音声パターンを収録してるのよ。『ぱわメモ2』なんてCD4枚組なのに、中身ほぼ音声データだったぐらいだし」
「……なんだその容量の無駄遣い」
「特殊な音声システムで、収録されてない名前も呼ぶことができるんだから。……ただキラキラネームには対応できないんだけど」
まさかキラキラネーム問題がゲームにまで影響してくるとは……。
一応どんな名前でも呼んでもらうことは可能なのだが、馴染みのない名前だと『み↑ず↓ほ↑』のように発音がおかしくなる。
「『女性は耳で恋をする』っていうぐらいだから、女性向けで声は重要なのよ。『彼方なる時空の中で』なんて1から4まで声優同じなんだから」
「は?」
「シリーズ通して攻略対象キャラは『八部衆』っていう特殊な役職の人間で、性格は違っても声優は全部同じなのよ。5で声優一新されたけど、もちろん5から7までの声優も全員同じ」
「……すさまじいな」
男向けではありえない。
乙女ゲーマーたちの声に関するこだわりがうかがえる。
「腹減ったからなんかつまむか。なにがいい?」
「おからクッキーとローズヒップティー」
「普通のクッキーでいいだろ」
「糖質制限しないとクーデター起こせないのよ!」
「クーデター?」
「これよ」
『乙女的恋政変ラブクーデター!!』なるゲームを取り出した。
「なんだこれ、ダイエット恋愛シミュレーション?」
「体重100キロ超えてる主人公がダイエットしてモテモテになる乙女ゲー」
「そういう少女漫画のアニメあったよな」
「『あたモテ』ね」
アニメの推しキャラが死んだショックで激やせしたオタク主人公がモテる作品だ。
普通に男が見ても面白いアニメだった。
「……最初100キロで攻略期間は1年? 1年で50キロ近く痩せるって冷静に考えるとやばいな」
「1ヶ月4キロぐらいだからへーきへーき」
現実だと拒食症を疑うレベルかもしれない。
「コマンドは3日ずつ入力、日曜日だけはデートもあるから別か」
普通の恋愛シミュレーションだと勉強・部活・バイトなどが主なコマンドだが、このゲームではダイエット中心だ。
全身痩身、部分痩身、美顔、筋力アップ、補助食品、情報収集。
ストレスゲージが溜まるとダイエットが失敗しやすい
だからストレスを減らすため定期的におやつを食べる必要がある。
ストレスと体重のバランスコントロールが重要だ。
食べ物で困るのは、店頭のメニューではどれだけ効果があるのかわからないこと。
しかも腐る。
値段が安くて効果も高かったのでまとめ買いしたら、消費期限が短かくて大惨事ということもままあった。
だが攻略キャラによって、さまざまな形で体重を調整するのは面白い。
部活も柔道やフィギュアスケートのように体重が重要になる競技がある。
特に柔道は体重が軽いほど要求ステータスが高く、重くなるほど低くなる(軽量級になるほど相手が強くなる)。
柔道で結果を残したいのなら体重を増やしたほうがいいのだ。
しかしそうすると期限までに体重を落とすのが難しくなる。
フィギュアスケートも痩せればいいわけではない。
体重を落とすほど体調が悪くなる可能性があがり、リバウンドもしやすくなる。
体重を増やすか減らすか、ジレンマを感じるいいゲームバランスだ。
「ちょくちょくギャルゲーにはないシステムがあるな」
チア・園芸・手芸といった男向けにはない部活がいくつかあった。
各キャラの好感度を教えてくれる友人(もちろん女性)の攻略ルートや、『VSモード』という三角関係イベントもある。
育成の中心になるホーム画面、つまり自室の間取りを決めることもできた。
主人公は服の着せ替えも可能。
アンダー、トップ、ボトムと全身のコーディネイトが可能で、ちゃんとグラフィックにも反映されている。
「欠点もあるけどね」
「欠点?」
「攻略キャラごとに好きな属性があって、デートの時は好みの属性のコーディネイトしないと好感度上げにくいのよ」
「服そろえるのに金かかりそうだな」
「一番の問題はお金じゃないの」
「じゃあ何が問題なんだ?」
「全員私服がダサい!」
「……ああ、ダサい男の趣味に合わせてこっちもダサい服を着ないといけないのか」
「そういうこと」
謎の棒グラフ(服に棒グラフとしか思えないガラが描かれている)、ダメージと呼ぶにはやぶれすぎている服、謎の英語入りTシャツ。
……地獄のようなデート風景だ。
一応、相手からプレゼントされたものなら属性違いでも好感度は下がらないのだが……。
属性違いのコーディネイトをすると評価が下がる罠。
ちなみに『保温値』なるパラメータもあり、冬なのに寒そうな服を着ていても評価は下がる。
「制服デートしたい」
乙女ゲーマー魂の叫び。




