トライアルセット【揚げパンとミルクティー】
参考ゲーム
トバルNO1
PT
ブレイブリーセカンド
ダンガンロンパ
君が望む永遠
「あー、ここまでしかプレイできないんだ」
「体験版だからな」
「これで5800円は高すぎでしょ」
「体験版はおまけだろ。『バトルNO1』をプレイしろよ」
「え、体験版が本体でしょ?」
「ゲームが本体だよ!」
しかし『ウルティマファンタジー』の体験版をプレイするためだけにバトルNO1や『小次郎伝』を買ったプレイヤーが多いというのも事実。
いつの時代でも抱き合わせ商法は強いのだ。
「最近の体験版は無料でプレイできるから嬉しいけど、体験版に収録されてる部分が一番つまらないパターンも多いのよね」
「最初からすべてのシステムを使えると複雑になりすぎるからな。それに体験版を面白くしすぎてしまうと本編買う必要もなくなる」
面白い部分だけを切り取って体験版を作る作業は地味に金と時間がかかるらしい。
失敗したら予約のキャンセルが多発して逆に売り上げが下がるパターンさえある。
リスクやコストが高いわりにリターンが少ないのだ。
だからかたくなに体験版を配信しないメーカーもある。
「体験版で話題になってたのだと『ライングエアリーセカンド』『ダンカンロンパ』『俺が望む永遠』『PT』かしら」
ネットで体験版を探し、まとめてダウンロードしていく。
「あれ、PT配信停止されてるじゃない!」
「オタルギアの監督だから仕方ないだろ」
「ぐぬぬ」
もともとPTは名作ホラーゲーム『静かな丘』シリーズ最新作の『プレイアブルトレーラー』、すなわち『プレイできるトレーラー広告』略してPTとして製作されたものらしい。
監督が会社と揉め、退社してしまったので静かな丘の開発は中止。
PTの配信も停止されて幻のゲームとなってしまった結果、『PTをダウンロードしたゲーム機本体』がプレミア価格で売られていた。
「買うなよ」
「買えないわよ!」
さすがにPTのためだけにプレミア本体を買う金はないので、有料でいいから配信再開してほしい。
「時間かかるな」
まとめてダウンロードしているので容量が大きく時間がかかる。
なにかつまみながら待つことにしよう。
「なにがいい?」
「イチャクウエとミルクティー」
「……またマニアックなものを」
イチャクウエはベトナムの揚げパンだ。
日本の揚げパンとは違って小ぶりであり、
「ダンク!」
このようにミルクティーにひたして食べることが多い。
ミルクティーは甘いものがいいだろう。
理想はチャイだ。
外はカリカリ、中はミルクティーがしみ込んだふわふわ食感。
「おかわり!」
「あいよ」
パンがこぶりなのですぐになくなってしまう。
病み付きになる味だ。
「『ライングエアリーセカンド』は本編の前日譚だからお得な感じね」
揚げパンをつまみながら体験版をプレイする。
前作から正統進化したRPGで、体験版にしてはボリュームも結構あった。
ただし、
「もう少し体験版のメンバーで遊べたらよかったのに」
前日譚であるがゆえの問題点も発生してしまった。
一応本編にも登場するものの、かなり早い段階で退場するのがもったいない。
これも体験版をプレイした者だけの贅沢な悩みだ。
「ダンカンロンパ面白いわね。本編も買おっと」
推理系デスゲームのダンカンロンパは第一話の途中まで遊べるタイプだった。
気になるところで終わったので、本編で続きをプレイしようとしたものの。
「あれ、体験版と被害者が違う!?」
「好感度で被害者変わるんじゃないのか?」
「聞いてないわよ、そんなの!」
慌てて最初からやり直した。
「好感度調整しても何も変わらないじゃない!」
……純粋に体験版と違う展開にすることでプレイヤーを驚かせる仕掛けだったようだ。
まさかあのキャラが死ぬことになるとは思わなかっただけにショックが大きい。
ただ体験版で違うキャラが殺されたからこそのショックであって、本編から始めたプレイヤーにとってはわかりやすい死亡フラグが立っていた気もする。
製作者のしたり顔が見える仕掛けだ。
「あとは俺が望む永遠だけね」
恋愛系のゲームなので、さすがにダンカンロンパのような罠はないだろう。
安心してプレイを開始する。
『好きです。付き合ってください』
『はい、よろこんで』
「展開早いな」
「攻略するのがメインじゃなくて、ヒロインとイチャイチャするのがメインなんじゃない?」
「そういうゲームっぽいな」
胸焼けしそうになるぐらい甘い。
あまりのバカップルぶりに、見ているほうが恥ずかしくなるタイプだ。
しかしあまりにもイチャつきすぎている気がする。
それが目的のゲームにしても、体験版でここまでやってしまうと本編でやることがなくなってしまうのではなかろうか。
プレイヤーの不安を尻目にバカップルは再びデートの約束。
スキップしながら待ち合わせの駅前へ向かうも、ヒロインはまだ来ていなかった。
約束の30分前には来ているようなタイプなのに珍しいなと思って周囲をキョロキョロしていると、近くで事故があったらしく人だかりができていた。
「まさか……」
「え、ちょっと待って……」
やがて警官が現れ、被害者の身元を確認する。
『事故発生。14時15分ごろ。遺留品の身分証明証の写真にて本人と確認。被害者氏名……涼宮彼方』
「かなたー!?」
「マジでやりやがった!」
超展開で呆然としているところにOPが流れ始める。
これほどひどいタイミングでOPの流れる作品が今まであっただろうか?
いや、ない。
しかも体験版はこれで終わりなのだ。
続きが気になるどころではない。
まんまとメーカーの策略にハマっている。
やり方は汚いが考えうる限り最高の体験版だ。
「ああ!? ダンカンロンパ買っちゃったからお金がない!?」
「これを使え」
スッと茶封筒を差し出す。
「え、いいの?」
「どうせ今日渡すものだしな」
「私のバイト代じゃない!」
おそらく今まで一番正しい金の使い方だろう。




