夢の国セット【プラムケーキとラプサンスーチョン】
全面改稿中です。
何話か投稿しますが、基本的に長い話を2~3話に分割して再構成したものなので、真新しいネタは特にありません。
参考ゲーム
魔界村
ミッキーのマジカルアドベンチャー
「あ、これ『魔族村』じゃなくて『舞浜村』じゃない」
「ちゃんと確認して買えよ」
「開発会社は魔族村と同じカプセルコーポレーションだからたいして変わんないわよ」
「……カプコン製。つまり難易度が高いってことだな」
「無限コンティニューじゃなかったら大変なことになってたでしょうね」
ちなみに舞浜とはネズミーランドのある場所のことであり、ネズミーと魔族村がコラボしたゲームらしい。
ストーリーはさらわれたキャラを助けに行くという王道の展開で始まった。
……問題はさらわれたのが犬のハーデスだということだ。
マッキーにはマニーという永遠の恋人がいるのに、なぜペットのハーデスにしたのか。
さすがカプコン、一筋縄ではいかない。
ゲームは横スクロールアクション。
体力制でハートは3つ。
つまり3回当たったら死ぬ。
本家の魔族村は2回当たったら死ぬので、それに比べれば難易度は低い。
最初のステージは飛んだり跳ねたり、敵を踏んだりブロックをつかんで投げつけていれば攻略できた。
ボス戦で地味に何度かコンティニューしてしまったが、慣れれば大したことのない相手だ。
先に進むと味方から魔法使いのコスチュームをもらう。
魔法使いの能力は光の球を飛ばすこと。
チャージができ、溜めれば溜めるほど威力が増す。
MPがなくなると使えないが、MPは多く、回復アイテムもあるのでまずMP切れになることはなさそうだ。
MPを惜しんで死ぬより、MP切れで死ぬ方がいい。
積極的に魔法を使いまくると、自分でも驚くほどサクサク進んでいった。
ちなみにコスチュームは全部で3種類ある。
状況によって着替えながら難所を突破していくらしい。
敵が強いのでコンティニューを繰り返す。
攻略法があるとすれば『死んで覚える』『勝つまで戦う』こと。
そのための無限コンティニューだ。
戦い続けていればいつかは勝てる。
しかしどのボスもきつい。
「……絶望的に体力が足りんな。それと火力」
「消防士で戦ってるからでしょ」
「でもこのステージは消防士推奨だろ? 消防士のMPを回復する消火栓が多いし、氷の足場も作れる」
「それが罠なのよ。実は消防士の水って攻撃力が低いの。ラスボスも火の攻撃を使ってくるから消防士で戦いがちだけど、ほとんどのプレイヤーが火力不足で死んじゃうんだから」
「……メルヘンなゲームにそんな罠仕込むなよ」
消防士はやめて魔法使いにチェンジ。
火力が上がると、わりとあっけなく勝てた。
戦い方はほとんど変わっていないだけにタチが悪い。
そして待望のラストステージ。
コンティニューすればMPは回復するので、惜しげもなく魔法を使いまくり、上へ上へと進んでいく。
しかし最後の面だけあって難易度が高く、上にいるザコが厄介で先へ進めない。
どうしても攻撃をくらってしまう。
━━━━━ ━
敵 敵
━━ ━━━━
○←マッキー
━━━━━ ━
ジャンプして右上に登ろうとしても敵に攻撃されて叩き落される
「どうすればいいんだ?」
「進みたい方向とは逆を向いて攻撃を食らえばいいのよ」
「は?」
「このゲームでは攻撃を食らうと斜め後ろに吹き飛ぶでしょ? しかも吹き飛んでいる最中は無敵状態。だから進行方向とは逆を向いて攻撃を食らうと、進行方向にいる敵を飛び越えたり、上の段に飛び乗ることができるの」
「そんな裏技があったのか」
「重要なのはジャンプ中に攻撃を食らうこと。この技を利用すると二段ジャンプみたいになって、本来のジャンプでは越えられない高さの壁も飛び越えてショートカットできるんだから」
○
\
○敵
攻撃を食らうと斜め後ろに吹き飛ぶ
━━━━━ ━
○
敵 /敵
━━ /━━━━
\
○
━━━━━ ━
進みたい方向とは逆を向き、空中でわざと攻撃を食らって二段ジャンプする
「ここだ!」
タイミングを見計らってジャンプし、わざと攻撃を食らって敵を飛び越える。
「よし!」
喜んだのもつかの間。
その上にも敵がいた。
ライフはもうない。
次に攻撃を食らったら死ぬ。
同じ裏技は使えないわけだ。
「……万策尽きたか」
「ここでもわざと攻撃を食らったほうがいいわよ」
「いや、死ぬだろ」
「だからわざと死ぬの」
「は?」
「アクションゲームにはチェックポイントがあるでしょ」
「ステージの真ん中とか、ボスの手前みたいに、死んだらその場所からやりなおしっていう場所のことか?」
「そうそれ。このステージだとお城の一番上がチェックポイントになってるの」
「でも上に昇る前に死んだらチェックされないだろ」
「上に昇る必要はないのよ。チェックポイントはゴールラインみたいなもんで、そのラインはこの床だから。ジャンプでこの床を飛び越えたところで死ねば、少し先にあるチェックポイントから再開できるのよ」
「マジか」
「いわゆる『デスワープ』の一種ね」
ジャンプしてチェックのラインを越えた状態で死ねば、少し先にあるチェックポイントから再開できる
↓
敵 ○敵
━━━━━ |━←ここがチェックポイントのライン
|
○
━━ ━━━━
「ちゃんとラインを越えてから死ぬのよ。ラインを越える前に死んだらアウトだからね」
「……物騒なアドバイスだな」
死んでもラインを越えていたらセーフというあたり、まるでなにかのスポーツのようだ。
ともかくわざと攻撃を食らうことで難所を突破。
無事にチェックポイントから再開し、そのままラスボスの部屋へ突入する。
しかし、
『マッキーよ、よくぞここまでたどり着いた。じゃが今のお主ではホワイト・ピートには勝てぬ』
「は?」
ラスボスを倒すにはあるアイテムが必要だといわれ、呆然としている内に最初のステージへ戻された。
「ちょっと待て!?」
「ふふふ。これが魔族村名物『2周しないとラスボスと戦えないシステム』よ! しかもアイテムを取り逃したらもう1周しないといけないおまけ付き!」
「ふざけんな!」
ようやくラスボス直前までたどり着いたのにこの仕打ち。
なんという鬼畜仕様だ。
もう1周してラスボスと戦う気力はない。
「しょうがないから私がクリアしてあげる」
「……くそ」
やむなくバトンタッチして、おやつを用意する。
「ネズミー系の飯というとアリス関連だな」
「じゃあプラムケーキ!」
「『鏡の国のアリス』か?」
「うん!」
マザーグースの唄『ライオンとユニコーン』を元にしたエピソードに登場するものだ。
ライオンはイングランドの王家、ユニコーンはスコットランドの王家の紋章を意味している。
スコットランドのジェームズ6世がイングランドの王家を継承したことによる両国の対立を寓話化した唄であり、その一節に
Some gave them white bread,
And some gave them brown,
Some gave them plum cake,
And sent them out of town.
とある。
王冠を求めて争っているライオンとユニコーンに白パンと黒パン、そしてプラムケーキを与え、2匹とも町から追い出したという唄だ。
なぜか鏡の国のアリスでは『And drummed them out of town(太鼓を鳴らして街から追い出した)』になっているが。
唄のとおり暴れているライオンとユニコーンを追いだすため、アリスはプラムケーキを配ろうとするのだが、ケーキは切っても切ってもくっついて元に戻ってしまう。
そこでユニコーンが言うのだ。
『先に配って、後で切ればいい』
もちろん切り分けずに配れるわけがない。
だが鏡の国では常識など通じず、アリスがケーキを持っていくと、ケーキが自然に三つにスライスされるのだ。
『さあ、切るといい』
すでに皿からなくなったものを切ることなどできるわけがなく、アリスは途方に暮れる。
ルイス・キャロルの軽快な語り口があってこその展開であり、あらすじだけで面白さを説明するのは非常に難しい。
ともかくこういう思考実験や言葉遊びなどから生まれる理不尽で不条理な世界観がアリスの魅力だ。
瑞穂がナイフでプラムケーキをスライスし、スライスされてないプラムケーキを俺に回す。
鏡の国のアリスとはちょっと違うものの、配ってから切るのには違いない。
「お茶はラプサンスーチョンにしよう」
「らすぷーちん?」
「誰がロシアの怪僧の話をした。アールグレイみたいに香り付けされた中国の紅茶だよ。作業中に偶然香り付けされたんだが、このフレーバーが欧米人に受けると気づいた中国人は、安い茶葉に香りづけして売ってたらしい」
「へー」
スモーキーなお茶だけにスパイシーなプラムケーキとの相性は抜群だ。
ただし、
「……なんかラッパのマークの胃腸薬みたいな匂いがするんだけど」
「だがそれがいい」
クセが強いだけに好き嫌いは分かれる。
初めて飲むのなら、ミルクや砂糖などを混ぜて香りをマイルドにした方がいいかもしれない。
「ここでショートカット!」
わざと攻撃を食らって二段ジャンプし、普通のジャンプでは飛び越せない障害物を飛び越えて時間短縮。
『ぬわー!?』
さらにわざと攻撃を食らってチェックラインを通過。
「お前の腕ならわざと死ななくても突破できるんじゃないのか?」
「これはタイムアタック用の『デスヒール』よ」
「なんだそれ」
「体力少ないとすぐに死んだり、ボスに負ける可能性があるから、つい貴重な回復アイテムも使っちゃうでしょ。タイムアタックで一番ダメなのは死んで途中からやり直すことだから、チェックポイントに近い場所でわざと死んで回復するわけ。一回死んだら体力MAXの状態でリスタートするのが普通だし」
「……死んで回復するからデスヒールか」
こうしてさまざまなテクニックを駆使しながら無駄なく正確に進み、あっという間にボス戦。
ダダダダダッ
『ぬわーっ!?』
「なっ!?」
瞬殺。
何が起こったのかわからない。
「今なにをしたんだ?」
「実はこのゲーム、マッキーは攻撃を食らった時に無敵時間があるけどボスにはないのよ。だから出てきた瞬間に魔法連打すれば勝てるわけ」
「……素朴な疑問があるんだが」
「なに?」
「いや、やっぱり辞めとこう」
「?」
どうせすぐにわかる。
そして待つこと10分ばかし。
あっという間にラスボスに到達した。
ダダダダダッ
『ぬわーっ!?』
「……」
やはりラスボスにも無敵時間はなかった。
何ともいえないむなしい気分でエンディングを迎える。
しかも、
『という夢を見たのさ』
「夢落ちかよ!」
「だって夢の国だもの」
夢の国はそういう意味じゃない。