表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

345/382

ステルスゲームセット【手巻き寿司と煎茶】

参考ゲーム

スプリンターセル カオスセオリー

ヒットマン サイレントアサシン

 アリスが珍しくデジタルゲームをプレイしていた。


「『ランナーセル・コスモスセオリー』ね。こっちは『サイレントヒットマン』かしら」


「いえす」

「……海外のステルスゲームか」

「絶対ニンジャが出てきますね」

 潜入ゲームである以上、忍者の登場は避けられない。

 ただランナーセルのシナリオ原案は有名な作家『サム・クランシー』なのでストーリーはしっかりしている。

 ステルスゲームとしてもよくできていた。


 光と影のコントラストが強調されており、光源を潰すことが重要だ。


 照明のスイッチを切る、特殊な銃を撃って一時的に照明を消す、暗闇に紛れる。

 暗い場所に潜んでいれば、たとえ目の前を敵が通過してもバレない。

 ステルスゲーム特有の視界の狭い敵だ。

 しかし明るい場所だと意外に視野が広い。

 油断すると見つかる。


「すーぱーはかー!」


 ハッキングをする場面も多い。

 セキュリティを解除したり、監視カメラを無効化したり、情報を入手したりetc

 遠距離からパソコンをハッキングできるのもユニークだ。

 窓ガラス越しに、あるいは敵にバレないように静かにドアを開けてハッキングする。

 極秘情報を入手するのに、必ずしも部屋の中に入る必要はないというわけだ。


『フリーズ』


 敵を背後から拘束すれば情報を聞き出せる。

 これもまたバリエーションが豊富だ。


 おそらく拘束できるすべての敵キャラに、主人公との固有の会話が設定されている。


 しかも豪華声優陣によるフルボイス付き。

 会話はいかにもアメリカンなユーモアがあり、尋問しているだけでも面白い。

 『オタルギア』では味方に無線を送ると会話を楽しむことができたが、このゲームでは敵との会話を楽しむのだ。

 オタルギアのような派手なボス戦こそないものの、リアリティのあるスパイアクションがやりたいのならプレイして損はない。


 ……問題があるとしたら日本だ。


 なぜかヤクザが国家的陰謀に加担している。

 和室の間取りもおかしい。

 ダクトなどを利用して移動するのはステルスゲームやスパイアクションの定番だとしても、なぜ和室にこんなダクトがあるのか。

 日本家屋なら天井やら縁の下やら忍び込めるだろうに。

 意味不明なでかい仏像も室内に飾られているし、庭で行われている格闘技の訓練もあきらかに中国拳法だ。

 ヤクザの屋敷に盗聴器が仕掛けられているのだが、なぜかすべて掛け軸の裏である。

 それとフルボイスではあるが、


『KILL YOU!』


 敵に見つかるとボイスが英語になる。

 開発が間に合わなかったのか、それとも収録するのを忘れていたのか。

 敵がなんと言っているのかわかりにくい。

 状況を把握できずに死ぬので微妙に困る。

 ステージ設定もおかしい。

 ヤクザの屋敷はまだわかる。

 だがしかし、


「……なんで銭湯ステージがあるんだよ」


「セントーはハダカでコミュニケーションが取れる、素晴らしいスポットなのデスよ?」

「たしかに裸なら武器の持ち込みができませんね」

「やってることは完全に覗きだけどね」

 しかも会合場所は浴場ではないし、シナリオが進むと銭湯で戦闘するカオスな展開になる。

 意味が分からない。

 最終ステージの国防省は公的機関なのでまだマシだが、


『承認を受けていない掲示物は禁止となっております』


『トイレに眼鏡をお忘れです』


 ……任務に失敗したら全面戦争が勃発するという切迫した状況なのに、日本語で変な業務連絡や館内放送が流れるのが気になってしょうがない。

 おまけに黒幕は追い詰められたら腹を切って死のうとするし、明らかに切腹の作法が間違っていた(単に腹を刺しているだけ)。

 日本以外の描写はちゃんとしている(ように見える)だけにもったいない。

 特に銭湯ステージはフォロー不可能だ。

 どうしてこうなった。


「サイレント・ヒットマンもオススメですヨ―」


 嫌な予感しかしない。


『ヤクザの本拠地はタカマツ城です』


「……もうどうにでもしてくれ」

 なんでヤクザが城に住んでいるのか。

 なんで日本なのに銃で武装しているのか。

 なんで絶滅したはずの狼が遠吠えをしているのか。

 なんでヤクザが最新鋭のミサイル防衛システムを売買しているのか。

 なんで警備員が忍者なのか。

 なんで城の庭にヘリがあるのか。

 なんでフグ毒を寿司に仕込んでヤクザを毒殺できるのか。


『ヤメー! ヤメー!』


『ナンデコンナコトシタンダヨー!』


 ……洋ゲー特有の片言の日本語には苦笑するしかない。

 和風ファンタジーだと思えばどんなシチュエーションでも楽しめる。

「お寿司食べたい」

「……刺身はともかく、フグはないな」

「そもそもフグはスシにスルのデスか?」


「数年前に回転寿司で『業界初のフグ寿司』と話題になっていたぐらいですから、あまり一般的ではありませんね」


「じーざす」

 フグはさばくのに資格がいるので、専門店でもなければ寿司にはしないだろう。

 まあ、一番人気はフグ刺しなわけだから、フグ刺しの延長で寿司にすることもあるのかもしれないが。

「握れないから手巻き寿司だな」

 うちにあったのはタイとマグロの刺身ぐらいだった。

 あとはツナ缶、カニカマ、納豆、きゅうり、タマゴ。

 ……軽くつまむだけのつもりが、具材を探している内にちょっとした手巻き寿司パーティーになっていた。


「寿司に粉茶だと芸がなさすぎるから、今日は煎茶にしてみるか」


「なんで?」

「煎茶に塩を一つまみすれば、お吸い物代わりになる」

「へー」

 時代小説の大家にして食通の池波正太郎が、タイの刺身を食べるときにやっていたものだ。

 腹のあたりの、すこし脂がのっているタイを刺身にして醤油だけで食べるらしい。

 粋な食べ方だ。

 こうして手巻き寿司をしながら、ちょくちょくゲームのほうも進めていく。

 サイレントヒットマンは他のステルスゲームとは一味違った。


「コスプレゲームですね」


「たしかに」

 このゲーム、潜入ゲームなのに忍ばない。

 メインは変装である。

 配達員や警備員、軍人、ボディーガード、神父、忍者、ヤクザ、さまざまな職業の人間を殺して服を奪い、正面から堂々と潜入する。

 バレたら同じ変装が通じなくなるので、違う職業の服を奪わねばならない。

 目的を達成するまでいくつもの変装をすることになる。


 もちろん忍ばないことがメインシステムである以上、いかに敵を欺くかが重要だ。


 たとえば所持している銃。

 ロシアンマフィアならトカレフやカラシニコフなどのロシア系の銃を携帯していないと、周囲に怪しまれてしまう。

 標的を狙撃するミッションならスナイパーライフルを持っていかなければならないわけだが、もちろん警備員がそんなものを持ち歩いていたら一目でバレる。


 なので警備員が近づいてきたらすばやくライフルをその場に捨て、違う武器に持ち替えて何事もなかったかのようにふるまい、相手が背を向けた瞬間に拾う。


 狙撃ポイントに到着するまでそれを繰り返す。

 シュールだ。

 移動ルートもちゃんと考えないといけない。


BANG!


「げ、撃たれた!?」

「コソコソしてるから」

「メインストリートを歩きまショー」

 潜入ゲームなのでつい歩道から外れ、人目につかない場所を歩きたくなるのがゲーマーのサガ。

 しかし警備員や配達員がそんな場所を歩くわけがないので、これもアウトだ。

 どれだけ人目があっても正規ルートを歩かねばならない。


 人に見られている状態だと主人公の心拍数が上がり、コントローラーが震える。


 場所によってはスナイパーが配置されており、頭に照準レーザーが当たっている状態で歩道を歩かねばならない。

 当然、少しでも怪しいそぶりをしたら頭をぶち抜かれる。

 かなりの緊張感だ。

 中には変装があだになるミッションもある。

 たとえばパーティー会場。


 実は会場の中では、私服のほうが怪しまれない。


 招待客だと思われるからだ。

 逆に変装をしてしまうと、本物の警備員かたしかめるためにIDをチェックされるのでバレる。

 状況に応じて変装を使い分けるのが楽しい。

 コスプレゲームというのは言いえて妙だ。


「どうせ日本を舞台にするんなら、もっとアニメや特撮、時代劇な衣装があればよかったのにな」


「ジカイサクにゴキタイくだサイ」

「前作のラストステージは北海道の病院だったんだから、たぶん次に日本ステージが登場するときはもっとひどくなってるわよ」

 ……それはそれで見てみたい気もする。

「あー、もうこんな時間ですか。そろそろ帰らないといけませんね」

「車乗せてって」

「みーとぅー!」

「残念ながら今日は徒歩です」

「えー」

「もうすぐお祭りがありますので」

 田舎では軽トラに乗っている人が多い。

 なにかと便利なので用事があるとすぐに駆り出される。


 お祭りや農作業、運動会、廃品回収、引っ越しetc


 便利なのも困りものだ(困るからこそ軽トラなのだが)。

 全身凶器のアリスはともかく、他の2人は戦闘力5ぐらいしかないので家まで送っていく。

「部活帰りの生徒が多いですね」

「そうですね」

 似たようなスポーツバッグを持った学生が一塊になって行動していることが多いので、一目で同じ部活をしている学生だとわかる。

 ふと先生が吹奏楽部らしき女子高生の集団を見ながらつぶやいた。


「私も制服を着て楽器を持てばもしかしたら……」


「警備員に止められるわよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ