戦車ゲームセット【エクレアとマンデリン】
参考ゲーム
パンツァーフロント
ワールドオブタンクス
「戦車前進!」
「前に出すぎるなよ」
トーナメント形式の戦車ゲームなので、いつもとは違う立ち回りが求められる。
戦車戦は瑞穂ら中戦車に任せ、俺は軽戦車の榴弾で歩兵や対戦車砲を叩く。
「敵よりも一発多く撃て」
「らじゃー」
なによりも敵に撃たせないことが重要になる。
そこで重要になるのが装填手だ。
このゲームは古い戦車がメインなので、砲弾は装填手によって人力で装填されている。
だから悪路を走行して車体が揺れたり、攻撃されると装填手が動揺して装填速度が落ちてしまう。
敵の進路を撃って道をデコボコにしたり、榴弾を撃てば広範囲の戦車に衝撃を与えて装填速度を遅らせることができるわけだ。
煙幕を発生させられるスモーク弾も役に立つだろう。
「ちっ、突破された」
「任せて」
このステージは日本。
石造りのヨーロッパと違って木造が多い。
「貫け!」
徹甲弾で日本家屋をぶち抜いて軽戦車を叩いた。
「こっちは俺に任せろ」
厄介な中戦車は木の橋に誘導し、自重で橋を落す。
やりたい放題だ。
だが勝ちたいのなら、これぐらいできないと話にならない。
一息吐いたので、戦車から出て周囲を歩き回る。
「なにしてんの?」
「敵の地雷を探してる」
「踏んだら死ぬわよ」
「対戦車地雷は150キロ以上じゃないと爆発しない」
「へー」
トーナメントではチームに参戦している人数によって使える戦車や物資が変わる。
人数が少ないほど強い戦車を選べ、航空支援による補給も可能になったり、対戦車地雷などのストックが増えるのだ。
人数で勝るこちらは物資が少ないので、対戦車地雷は1つでも多く確保しておきたい。
「お、あったぞ」
地雷を掘り出してストックする。
こうして懐を温めて安心したのも束の間。
ゴー
「……ん?」
何かが飛んで来た。
砲弾ではない。
「げ、爆撃機!?」
「ひゃあ!?」
大量の爆弾が投下され、コントローラーが激しく振動する。
戦車の弱点である真上から爆弾を落とされてはたまらない。
混乱して味方の戦車同士でぶつかりあったりしたものの、なんとかチームは爆撃から逃れた。
ゴー
「ま、また来た!?」
「いや、今度は爆撃機じゃない。輸送機?」
「パラシュートでなにか落してるわね」
「補給物資か?」
双眼鏡を使って拡大する。
「な、シェリダン!?」
「なにそれ?」
「輸送機で運べる戦車だよ!」
「ええ!?」
「やばい、降下されるぞ! 着地点に撃ちまくれ!」
「ラジャー!」
着地点を予測し、空から舞い降りる空挺戦車を叩く。
軽量化のためにアルミ製だ。
当てさえすれば簡単に料理できる。
『敵増援を確認!』
「増援!?」
「しまった、シェリダンは囮か!」
慌てて陣地に急行。
今にも包囲されそうだ。
「させるか!」
迫りくる敵の足を止めるために1発撃ったら、3発立て続けに返ってきた。
「うおお!?」
「相手の装填速度おかしくない?」
「……攻撃してるのに装填速度が変わらんな。たぶん人力じゃなくて機械、自動装填装置だ」
戦車の火力や装甲、機動力に差はないものの、どうしても手数で負けてしまう。
正面から戦うのは危険だ。
スモーク弾がなくなったので敵戦車の前を砲撃し、土煙を上げて視界を塞ぐ。
煙幕ほどの効果はないが敵の命中率は下がり、隊列は乱れ、時間稼ぎになるだろう。
「どうするの?」
「歩兵と対戦車砲で迎え撃つ」
「榴弾撃たれるでしょ」
「榴弾は撃ってこない」
「なんで?」
「自動装填装置はあらかじめセットしていた砲弾を装填する。あいつらはさっきから徹甲弾しか撃ってこない。榴弾はセットしてないんだよ。そして弾を入れ替えるのは時間がかかる。今がチャンスだ!」
歩兵と対戦車砲を展開。
対戦車砲で援護しながら歩兵を突っ込ませる。
むろん機関銃で薙ぎ払われてしまったが、何人かは戦車に肉薄して手榴弾や携帯式対戦車擲弾発射器、ついでにさっき拾った対戦車地雷もお見舞いする。
撃破はできなくても、ダメージさえ与えれば重戦車も故障させられるのだ。
動けなくなれば儲けもの。
主砲を撃てなくなればなおよし。
MISSION COMPLETE
「よし!」
「やった!」
連携もうまくいき、見事に敵チームを撃破する。
その後も順調に勝ち進み、気づけば決勝に進出していた。
我ながら出来すぎだ。
「次の相手はドイツ軍がモチーフか。ハッピーホースとは味な真似を」
「幸福の馬?」
「これだ」
鏡文字の『馬』がプリントされたティーガー戦車だ。
「あ、かわいい」
「元ネタは『ハッピータイガー』だろうな。中国には『福』の文字を逆さまにする『倒福』って風習があって、ドイツの『ダス・ライヒ師団』になぜか倒福のティーガーがいたらしい。どういう経緯でマークが刻まれたのか全く分からないから、色んな都市伝説を生んだ謎の戦車だ」
「へー」
ちなみにこの鏡文字の馬は『左馬』といい、将棋の駒の置物でよくある縁起物である。
「まずいぞ、『電撃戦』が得意らしい」
「電撃戦ってよく聞くけど、具体的にはどういう作戦なの?」
「現代戦は密集してると範囲攻撃を食らって壊滅するから、部隊をかなり広範囲に展開してて連携を取るのが難しい。だから電撃戦でガンガン進行されると指令が間に合わないし、司令部をやられたらもうまともな連携すら取れなくなって終わりだ」
「三国志の時代からあんまり変わってないわね。ようするに『兵は拙速を尊ぶ』ってやつでしょ」
「まあ、そんな感じだな」
拙速、すなわち拙い速さ。
時間をかけて準備を整えるよりも、拙くてもいいから速く攻めたほうが効果的な場面は多い。
先手必勝。
打たれる前に打つ。
時は金なり。
その真理は古代から変わらない。
とはいえ、近代戦は古代よりも洗練されている。
具体的にいうと最初に急降下爆撃などで敵陣を叩き、戦車が突っ込み敵陣を突破する。
そして戦車隊の後に歩兵部隊が来て敵陣を占領。
歩兵といってもトラックや輸送車に乗っている。
戦車は突破力があっても、数が少なく小回りも融通も利かないので拠点を占領することはできない。
だから数が多くて器用な歩兵を展開し、塹壕を掘ったり対戦車砲を設置して防御陣地を構築。
電撃戦の画期的なところは全てが機械化されていること。
昔は戦車の数が少なく、歩兵が中心だった。
ゆえに戦車も歩兵を守るために存在し、歩兵に足並みをそろえていた。
だがドイツは戦車を中心に据え、戦車の機動力を活かすために歩兵をトラックや輸送車に乗せた。
こうすることで進撃速度が飛躍的に向上し、相手は体勢を立て直す暇なく陣地を蹂躙される。
正しく電撃だ。
なお敵陣を占領するのは必須ではない。
占領するのに時間をかけては意味がないので、占領よりも突破・司令部の壊滅が最優先だ。
「手ごわそうね」
「迎撃されたからドイツは負けたんだぞ」
次の試合が始まるまでまだ時間がある。
ここらで一服しておくのもいいかもしれない。
「何か腹に入れておくか。なにがいい?」
「エクレア!」
「電撃戦だから稲妻か」
ちなみにフランス語である。
焼いたときの音が落雷のようだからとか、割れ目が稲妻に見えるとか、稲妻のように早く食べ終わるなど色んな説があるので、正確な由来はわからない。
ただケーキより早いのはたしかだ。
クリームやチョコと相性のいいマンデリンを淹れ、稲妻のごとく早くエクレアを食べる。
「さて、キルゾーンに誘い込んでクロスファイアでもするか」
トーナメントなので勝ち進むたびに戦車が壊れてしまう。
だがそれで不利になるわけではない。
チーム戦力が落ちた分だけ物資が補給され、航空支援なども受けられるようになるからだ。
対戦車砲を設置し、塹壕を掘って歩兵にパンツァーファウストや対戦車ライフル、吸着爆弾を装備させ、対戦車地雷を敷設。
満を持してハッピーホースを迎え入れる。
ドカーン
「……無理だな」
「諦めるの早すぎ!」
爆撃機による急降下爆撃に、雨のような砲撃。
そして突進してくる戦車隊。
逃げるので精いっぱいだ。
あっけなく前線を突破されてしまう。
「ぐ、もう歩兵部隊も来たのか」
「せめてこっちは止めたいわね」
歩兵さえ潰せば拠点を構築できず、前線にいる戦車は孤立する。
輸送車は武装されているとはいえ装甲は薄い。
なんとかなるはずだ。
「え、なにあれ」
「タンクデサント!?」
しかし輸送車は来なかった。
歩兵を運ぶ輸送車が調達できなかったソ連の得意技、戦車の上に歩兵を乗せる『タンクデサント』。
むろんただ戦車に乗っているだけなので歩兵は無防備だ。
タンクデサントをする歩兵の平均寿命は2週間だという。
「撃ちまくれ!」
即座に榴弾でハチの巣にするものの、次々と襲いくるタンクデサント。
膨大な人口を誇り、歩兵を消耗品として酷使できるソ連特有の戦術。
……相手国のモデルがドイツとは思えない。
ドカーン
GAME OVER
あえなく物量に押しつぶされる。
「……相手の物量おかしいだろ。どうなってるんだ、これ」
「ちょっと調べてみる」
ネットでカタカタと相手の情報を調べてみる。
「フィンランド方式だって」
「はあ?」
「『敵の戦車を破壊せずに鹵獲し続ければ、トーナメントで勝ち続けるたびに戦車が増え、最後まで敵の戦力を上回ることができるだろう』」
「できるか!」




