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本編

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ホラーゲームセット【まんじゅうと煎茶】

『目の前にあるロウソクは寿命だ。そのロウソクの火が消えた時、お前は死ぬ』


 落語の『死神』だ。

「ホラーゲームなのに落語から始まるのか」

「死神の設定がゲームシステムに組み込まれてるんだって」

「へえ」

 ロウソクの火は今にも消えそうで、助かりたければ別のロウソクに火を継ぐしかない。

 落語では結末にいくつかのパターンがある。

 しかしそのほとんどは火継ぎに失敗するデッドエンドだ。

 このホラーRPG『青蛙せいあ堂奇談倶楽部』だと火継ぎには成功するものの、


『ふぅっ……』


 と安心して息を吐いてしまい、自分で火を消してしまうパターンだった。

 怪談にも笑い話にもできる名作だ。

 一席終えた落語家がパンパンと手を叩くと、屋敷中の明かりが消えた。


『目の前にあるロウソクは寿命だ。そのロウソクの火が消えた時、お前たちは死ぬ』


 主人公たちの目の前には一本のロウソクが立っていた。

 一人一人長さが違う。

 共通しているのは『その場にいる人間の寿命は間もなく尽きる』ということだ。


『火を継げ』


 主人公は『青蛙せいあ堂奇談クラブ』なる怪談クラブに所属しているらしい。

 元ネタは『青蛙堂鬼談』と『奇談クラブ』という奇談・怪談会の連作短編小説である(二作とも著作権が切れているのでネットで読める)。

 明治・大正時代には文豪の泉鏡花などが怪談会を開いて『百物語』をしていたらしいので、それがモチーフだろう。

 プロローグでやっていた落語の死神を作ったのは『三遊亭圓朝さんゆうてい・えんちょう』。


 幽霊画のコレクターとしても有名で、新たに発見された圓朝コレクションを披露するために108人の会員が集められたらしい。


 ちなみに現実でも圓朝の命日のある8月に『圓朝まつり(圓朝忌)』という落語会や幽霊画の公開が行われている。

 果たして主人公は寿命が尽きる前に館から脱出できるのか。

 ようするに『108人の会員たちがロウソクを奪い合うデスゲーム』だ。


「えーと、寿命はLPライフポイントで……。HPとは別にSAN値もあるのね」


「システムが独特すぎるだろ」

 HPが0になっても蘇生できるが、LPが0になったら死ぬ。

 LPは時間ターン経過で徐々に減っていく。

 LPはMPでもあり、LPを消費して魔法を使うらしい。

 SAN値は正気度。

 正気を失ったら戦闘不能(行動不能)になるものの、これも状態異常の一種なので回復できる。

「これ提灯ちょうちん?」


燈籠とうろうだな」


 主人公たちの命のロウソクは『牡丹燈籠ぼたんとうろう』に収納されており、持ち歩いて周囲を照らすことも可能だ。

 LPを消費すると、この燈籠で敵に『走馬灯』を見せることができる。

 走馬灯は『回り燈籠とうろう』のことだ。


「走馬灯ってこういう仕組みだったんだ」


 回り燈籠には影絵が設置されており、ロウソクに火を着けると『煙突効果』で内部の風車が回って影絵が動く。

 たぶん馬の影絵が走っているように見えるので走馬灯なのだろう。

 命の火で幽霊画を燃やすと影絵が浮かび上がって走馬灯になる。

 敵に怪談を追体験させる精神攻撃だ。

 これで敵のSAN値を削ると戦闘不能になり、プレイヤーは選択を迫られる。


1敵の火を吹き消してロウソクを丸ごと奪う。

2敵のロウソクを切り取って、自分のロウソクを伸ばす。

3自分のロウソクを切って、相手の寿命を延ばす。

4何もしない。


「敵の寿命を延ばせるってことは、ノーキルでもクリアできるってことだよな?」


「でしょうね」

 システム的には『ロウソクを奪う(殺す)』ことが前提に作られている。

 だがシステムを熟知すれば、一人も殺さずにクリアすることも可能なのだ。


「まんじゅうこわい」


「お約束だな」

 落語といえばまんじゅうと渋いお茶。

 日本茶で一番渋いのは粉茶か芽茶だが、一般的なのはやはり煎茶だろう。

 落語家によっては最後のオチが『渋いお茶が怖い』ではなく『濃いお茶が怖い』になる。

 濃い目に淹れた煎茶がベストだろう。


「今度は大福が怖い」


「一番怖いのはお前の体重だよ」

「う……」

 いま俺が適当に考えたオチではあるが、すでにやっている落語家はいそうだ。

 落語は難しい。


『百物語をすると青行灯あおあんどんが現れる』


 屋敷の探索を進めると、百物語に関する情報がいくつか手に入った。

 行灯あんどんは江戸時代の照明器具。

 燈籠とうろうは外灯、行灯あんどんは室内灯、提灯ちょうちんは携帯用という認識でだいたい間違いはない。


 このゲームでは牡丹燈籠ぼたんとうろうで命の火を携帯しているが、牡丹燈籠は中国の怪談を日本に翻案したものだ。


 足のある幽霊が燈籠片手にカランコロンと足音を立てながら迫ってくるのも風情があっていい。

「死神の目的は青行灯の召喚か?」

「え、じゃあ100人の命の火を消したら青行灯が出てきてゲームオーバーってこと?」

「たぶんな」

 百物語は参加者が怪談を披露し、一話語るごとに灯りを一つ消していく。

 おそらくこのゲームでは命の火が消えることで一話とカウントされるはずだ。

 LPは時間経過で減る。


 つまりプレイヤーが殺さなくても、自然に人が死んでいくのだ。


 事実上の時間制限である。

 ロウソクをやりくりして、100人死なないように調整しなければならない。

 9人助ければいいだけなので、これはそれほど難しくはないはずだ。

 問題は新たに手に入った百物語のエピソードである。


『平太郎が岩の前で百物語をした晩から、怪異が始まった』


 妖怪マニアの間で有名な『稲生物怪録いのうもののけろく』だ。

 怪異の正体は『山本さんもと五郎左衛門』という妖怪である。

 五郎左衛門は『神野しんの悪五郎』と魔王の座を賭けて争っていた。


 『先に100人の勇士を恐怖させた者が魔王になる』という勝負である。


 その86人目が平太郎だった。

 平太郎を恐怖させるのに失敗した五郎左衛門は『悪五郎に襲われたらこれを鳴らせ』と木槌を渡す。

 木槌を鳴らせば五郎左衛門が助けに来てくれるらしい。


「死神の正体って悪五郎じゃない?」


「すると木槌を探し出して五郎左衛門を呼び出せばいいのか。……でも気になるのは『100人の勇士を恐怖させる』ってところだな」

「あ、『人を恐怖させるのに殺す必要はない』んだ!」

「そう。100人のSAN値を削って戦闘不能にすれば、一人も殺さなくても悪五郎が出てくる」

「どっちにしろ木槌ないと勝てないでしょ」

「……問題はそれなんだよな」

 木槌はおそらく屋敷のかなり深い場所に隠されているだろう。


 それにSAN値を削るにはLPを消費して走馬灯を見せなければならない。


 100人とエンカウントして、30~40人分のLPを消費する必要がある(走馬灯は範囲攻撃なのでLP消費は減らせる)。

 LPは時間経過でも減るので行動を最小限にしなければLP不足で詰む。

 数値管理がかなり大変だ。


「SAN値直葬!」


「……容赦ないな、お前」

 エンカウントした会員たちに片っ端から走馬灯を見せてSAN値を削り、ロウソクを奪いまくる。

 そして隅から隅まで屋敷を探索するものの、

「木槌どこにもないんだけど……」


「木槌の情報持ってるやつを殺してしまったんじゃないのか」


「あ」

 こうなっては仕方ない。

走馬灯フラッシュバック!」

 LPを綿密に管理して、100人のSAN値を削る。

 すると、やはり神野悪五郎が姿を現した。


『人の身でありながら100人の勇士を恐怖させたか。これではどちらが魔王かわからぬな』


「ん、死神じゃない」

「悪五郎の手下だったのかしら?」

 最初に出てきた死神の正体はわからなかったものの、やることに変わりはない。

 木槌なしではどうやっても倒せないので、命乞いをして助けてもらうことにした。


『夜が開ければ扉は開く』


 これでもう安心だと、主人公たちは部屋にカギをかけて眠りにつく。

 そして夜が明けた。

 主人公が部屋のドアを開けると、

「え」


 大広間には死神が立っていた。


 死神が手を叩くと、大広間に並べられた大量の行灯が一斉に青く輝く。

「……夜明けまでの時間経過で100人死んだな」

「ぎゃー!?」


 そして青行灯が姿を現し、館の扉は開かれた。


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