表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

339/382

バックギャモンセット【青団と明前龍井】

朱雀門の鬼のイラストは佐倉ツバメさん(@sakura_tsubame)、金神は内藤さんに描いていただきました。

転載禁止。

「平安京バックギャモン、山法師と賀茂川以外のシステムも欲しいわね」


「うーん、他に平安っぽい要素を入れるとすれば『方違かたたがえ』か?」


「陰陽師ネタの定番ですね」

陰陽師おんみょーじ!」

 アリスがシュッシュッと手刀を切る。

 おそらく映画の真似だろう。


 中国では謎の人気があり、ゲームや映画も作られているらしい。


 文化が似ているから親しみやすいのだろうか?

「不吉な方角に移動するとき、別の方角に遠回りしないといけないんだっけ?」

「ああ」

 不吉な方角には大将軍、天一神てんいちじん太白たいはく金神こんじんなどの星の神(金星の化身)がいるらしい。


挿絵(By みてみん)

 金神


 それを避けて進むのが方違えだ。


 たとえば北が不吉な方角である場合、西や東などに移動してから目的地へ進むことになる。


 それも一日で移動するのではない。

 遠回りした先で一泊してから目的地へ向かうことも多かったという。

「平安京ボードなら縦にもマス目が区切られてるからな。これを利用しない手はない」

「つまり方違えになった場合、縦に移動してからでないと横へ移動できないんですね?」

「はい」



挿絵(By みてみん)

※方違え



「平安京の世界観にもあってるし、方違えとしても成立してるわね」

「我ながらいいシステムだな」

 うんうんと自画自賛したのも束の間、

迂回ランダバウト発生条件コンディションはなんデス?」

「う……」

 肝心なことを考えてなかった。


「順当に考えるのなら出目ですね。たとえば厄年にちなんで3・4を出したプレイヤーは方違えになるというのはどうでしょう」


「あー、男の後厄あとやくが43歳、女の後厄が34歳だから同じ目になるのか」

 厄年には前厄・本厄・後厄がある。

 男なら本厄は42歳なので、前厄が41、後厄が43。

 女は33歳だから32と34になる。

 一般的には本厄が一番危険とされているが、後厄が一番危ないとする説も多い。


 なぜなら本厄を乗り切って安心しているところに後厄が来るからである。


 もっとも油断している時に、本厄でボロボロになった体へ災いが降りかかるのだからダメージが大きい。

 本厄を崖っぷちで耐えたのに、後厄に押されて転落するイメージだ。

 方違えは厄除けだから厄年との相性(?)もいい。

 方違えの最中にまた3・4を出したら一回休みになることにした。

「安倍晴明と蘆屋道満あしや・どうまん以外に有名な陰陽師いないの?」

「さすがにその2人が有名すぎる。……そうだな、吉備真備きびのまきびはどうだ?」

「キビダンゴ?」


「吉備真備。陰陽師のルーツとも呼ばれている人ですね」


「遣唐使時代の逸話がたくさん残ってるぞ」

盤双六ばんすごろくに関するエピソードは、そのままゲームのシステムに導入できそうですね」

「どういう話?」

「中国に留学した吉備真備は優秀すぎて嫉妬されてな、役人に監禁されてしまう。そして役人たちは無理難題を吹っかけて真備を殺そうとするんだ」

「それを助けてくれるのが阿倍仲麻呂あべのなかまろの幽霊です」

「あ、知ってる。安倍晴明のご先祖様でしょ」

「そういう説もありますね」


「真備は仲麻呂から盤双六を受け取り、筒、ようするにサイコロを振るダイスカップだな。真備がダイスカップでサイコロを隠すと、空から太陽と月が消えた」


「は?」

消失バニッシュ?」

「バックギャモンではサイコロを2つ振りますから、2つのサイコロを月と日に見立てたんだと思います」

「1ゾロのサイコロを隠して、1月1日を消したみたいなこと?」

「……正直原理はよくわからん。とにかく月日を消されて焦った役人たちは真備を開放した。こうして真備は自由の身になり、太陽と月を元に戻して無事に日本へ戻ったとさ」

「めでたしめでたし」

 これが『江談抄』に載っている吉備真備伝説である。


「相手のサイコロをダイスカップで隠したら一回休みにできるというルールはどうでしょう」


「おー、エクリプス!」

「強すぎるから使えるのは1ゲーム1回だけにするか」

「どーせなら『カウンターマジック』も導入どーにゅーしまショー!」

「カンタマ?」

「『呪い返し』ね」

「イエス」

「人を呪わば穴2つ。人を呪うと倍になって自分に返ってくるシステムですね」


「6ゾロを封印されたプレイヤーがまた6ゾロを出したら、今度は逆に相手の目を封印できるのか?」


「いぐざくとりー」

「カンタマはノーリスクだから、封印した目を相手が出してもカウンターのカウンターは発生しないようにしよう」

 カンタマされたら次の手番は強制的に一回休みになる。

 そして自分がエクリプスで封印した目を封印される(呪い返しなので自分が封印した目がそのまま返ってくる)。

 呪い返しで封印された目を出したら、また一回休みだ。



 相手が6ゾロを出す

 蝕で封印する(一回休みにする)

 もう一度相手が6ゾロを出す

 カウンターマジックが発生し、次の手番で自分が一回休みになる さらに自分の6ゾロが封印される

 6ゾロを封印されているので、次回以降に6ゾロを出したらまた一回休みになる



 使いどころが重要になるだろう。

「4ゾロは4倍というのもありかもしれません」

「なんで?」


「4月4日から4月5日は『清明節』です。清明は夏至げし冬至とうじ、春分や秋分といった『二十四節気』の1つで、万物が清らかで明るいことを意味します」


「安倍晴明の晴明?」

「字は違いますが、芦屋道満との術比べをしたのが清明節だったので、清明あるいは晴明と名乗るようになったという説もあります」

「へー」

 盤双六には『ゾロ目2倍』のルールがないので、これは選択ルールだ。

 ゾロ目2倍のルールを採用する場合のみ4ゾロは4倍になる。

 6ゾロは24、4ゾロは32なので、蝕で相手の目を封印するなら4ゾロだ。


「吉備真備は平安時代の人間じゃないから、安倍晴明が平安京をボードにして盤双六をしてる設定のほうがいいな」


「対戦相手は朱雀門の鬼ですね」

「それも実在する伝説なの?」

「ああ。晴明じゃなくて『長谷雄草子はせおぞうし』のエピソードだけどな」

「ハセヲ?」


紀長谷雄きのはせおは朱雀門の鬼との双六対決で勝利し、美女をもらいましたが『100日間は手を出すな』という忠告を無視した結果、美女は水になってしまいました」


「じゃぱにーずほらー」

 日本の怪談には水がつきものなのだ。

「その美女はなんだったの?」

「死体を繋ぎ合わせて作った『フランケンシュタインの怪物』だ。100日経ったら人間に成れていたらしい」


「腐ってやがる、早すぎたんだ!」


 某風の谷の巨人兵が腐り落ちた時のセリフだが、日本の伝説にも似たようなエピソードがあるのが面白い。

「ちなみに長谷雄草子の絵巻だと朱雀門の鬼は赤鬼として描かれています。そしてこちらが吉備真備伝説を元にした『吉備大臣入唐絵巻』。この赤鬼が阿倍仲麻呂です」

「あれ、幽霊じゃなかったっけ?」

中国語チャイニーズの鬼は幽霊ゴーストデス」

 日本と中国では鬼の意味が違う。

 中国では『幽霊になった』と『鬼になった』はほぼ同じ意味なのだ。

 なので朱雀門の鬼が阿倍仲麻呂だっとしてもおかしくはない。


挿絵(By みてみん)

朱雀門の鬼(阿倍仲麻呂)


 赤鬼なので赤い髪に赤い目、顔は安倍晴明のように中性的な感じにした。

 安倍晴明と同じ顔という設定にしてもいいかもしれない。


「そういえば中国だと清明節はお墓詣りの日ですよね?」


「イエス。青団チントワンがオススメですネ」

「ち、ちんとわん?」

「チャイニーズ・草餅」

明前龍井ミンチェンロンジンも有名だぞ。清明節の前に摘んだ茶葉が最高級だ」

「なら今日はチントワンとロンジンね」

「あいよ」

 さっそくおやつを用意する。


 チントワンはヨモギ餅のような風味があり、


「あ、ラード」

「中国人はよくラード使うからな」

「らーど・いず・じゃすてぃす」

 アンコにはラードが混ぜてある。

 たまに食べるだけならラードがアクセントになっていい感じだ。

「お茶ちょうだい」

「どーぞ」

 たくさん食べるとくどくなるラードも、ロンジンがやわらげてくれる。

 清明節の前に摘まれたものは特に香りや甘みが強く、味わい深い。

 口内の脂っこさも洗い流され、さっぱりすること請け合いだ。

「さて……」

 ルールも設定も完成したので、駒を並べなおしてプレイしてみる。


ころころ


「ああっ、方違え!?」

 さっそく新システムの毒牙にかかる。


「あれ、方違えのときに自分の駒のいるマスに止まってもブロックポイントになるの?」


「……それは考えてなかったな」

 実際にプレイしてみるまで気づかない点は多い。

 そのためのテストプレイだ。

「うーん、方違えはペナルティなんだからブロックポイントにならないのが自然だろうな。敵が来たら味方の駒は取られる。方違えの駒をヒットできるのは方違えの駒だけだ」

「ブロックポイントにストップすることはできマスか?」

「……う」


 方違えの駒が味方のいるマスに行ってもブロックポイントにならないということは、通常の駒と方違えをしている駒との間には距離があるということ。


 ならば方違えの駒と相手のブロックポイントの間にも距離があることになり、止まるれる気がする。

「よし、止まれることにしよう。いっそのことプレイヤーが自発的に方違えできることにしてもいい」

「え、3・4出してないのに遠回りするの?」

「相手のブロックポイントにぶつかって先に進めないシチュエーションはよくあるだろ。方違えなら遠回りしつつも先に進める」

「ナルホド」

「エンターの時に便利ですね」

 ブロックポイントが一番怖いのは敵にヒットされた時だ。

 敵にヒットされ、バーに飛ばされた駒を盤上に戻さないと他の駒を動かせない。

 ブロックポイントをたくさん作られると盤上に戻ることができず一回休みになる。


 だがこのゲームには方違えがあるので、駒を動かせずに一回休みになるということはない。



※方違えルールまとめ

 3・4を出したら強制的に方違え(自分の意思で迂回することも可能)

 自分の駒がいるマスに止まってもブロックポイントにはならない

 敵のブロックポイントに止まれる

 方違えの駒は方違えの駒でしか取れない

 方違えをしている間は方違えの駒しか動かせない

 方違え中にまた3・4を出したら一回休み



 これでルールは完成したはずだ。

 気を取り直してゲームに戻る。


ころころ


「お、4ゾロだ」

「エクリプス!」

 すかさず俺の出目を封印してきた。

「いいのか?」

「え」


「序盤に目を封印するとカンタマされる可能性が高くなるぞ」


「さ、36分の1でしょ。へーきへーき」

 あははと余裕を見せたのも束の間、


ころころ


「倍返しだ!」


「ぎゃー!?」

 お約束のごとくカンタマ発動。

「そしてもう1つおまけにエクリプス!」

「いやー!?」

 カンタマはあくまで相手のエクリプスに対するカウンター。

 つまり1ゲーム1回しか使えないエクリプスの数には入っておらず、二重に相手の目を封印できるのである。

 改めてやばいゲームだと実感した。

「さあ、これからどう料理してやろうか」


 チントワンでも食べながらゆっくり考えようと思っていると、


「ん?」

 チントワンがない。

 たしかまだ2個ぐらい残っていたはずなのだが……。

 そして気づく。

 テーブルに伏せられた不自然なカップがあることに。

「……誰だ、俺のチントワンを封印したのは」


「6ゾロを出さないとカンタマできまセンよ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ