競馬ゲームセット【まんまるドロップとはちみつドリンク】
本格的に改稿・エピソード入れ替えをしたいので不定期連載になります。
競馬ゲームセット【タイ焼きとコーラ】を分割して加筆した回です。
参考ゲーム
ダービースタリオン
「牧場に一頭しかいないのね。種付けして子供産めってことかしら」
「まあ、そうだろうな」
『バービースタリオン』、いわゆるバビスタ。
おそらく日本で最も有名な競馬ゲームだろう。
競馬知識が皆無に近いので手探りでプレイするしかなく、
「じゃあ一番高いのにしよっと」
何も考えずに高額馬と交配させてしまい、
「あ、子供が産まれるまで何もできないじゃない!」
種付けに成功しても出産するのに時間かかる上に、馬は一頭しかいないのでその間なにもできない罠。
しかも、
「ああ!? 産まれたてだから走れない!?」
仔馬がレースに出走できるようになるまでさらに数年かかる。
その間にも牧場や馬の維持費がかかるため、特に何もすることがないまま、無駄に月日と所持金だけが減っていく。
すると、
『お金が足りません』
早くも借金生活。
一応、牧場を担保に銀行から5億ほど融通してもらったものの……。
1年で5000万ずつ返さないといけない。
利子がつくので最終的には10億払うことになる。
最悪だ。
「この5億で強い馬と種付けすれば!」
「金と時間を無駄にするな」
破産する未来しか見えない。
「まずはレースに出ないことには始まらないわね」
適当に調教してデビュー戦。
自分の馬のこともよくわからないので、騎手に具体的な指示することもできない。
わからないことだらけでレースが始まったものの、
「……自分で操作したい」
「あくまでシミュレーションだからな。レースゲームじゃない」
できるのは見守ることだけ。
そして順当にレースで負けた。
結局どのレースでもろくな成績を収めることができず、
『なんか様子が変です』
「あああ!?」
怪我であっさり引退した。
種馬にするしかない。
「配合の仕方もわかんない。インブリードとかアウトブリードってなに?」
「……お前がなぜこのゲームをプレイしてるのか俺にはわからん」
「だって名作なんだもん。楽しめなきゃ損じゃない」
「だったら説明書ぐらい読め」
「えー」
『説明書を読んだら負けた気がする』という謎のゲーマー心理だけは未だによくわからない。
手探りで進めていくのが面白いといっても限度がある。
「じゃあ、はちみつドリンクと月の香りがするアメ」
「……月の香りってなんだよ」
「さあ?」
おそらくアニメかゲームのネタだろうが、適当にもほどがある。
月の香りのする商品というのは珍しくない。
ただ商品によってベースはバラバラである。
「ラズベリーのアメでいいか?」
「月ってラズベリーの香りがするの?」
「月というか宇宙だな。宇宙飛行士によると宇宙はラズベリーの匂いがするらしい」
「へー」
ラズベリーやパイナップルを混ぜたような、スモーキーな匂いがするらしい。
スペースシャトルの匂いが混ざっているような気もするが、宇宙でそういう匂いがするのは間違いない。
とりあえず『はちみー』ドリンクやラベンダーのドロップを舐めつつ、分厚い説明書を読む。
「……説明書呼んでもよくわからないんだけど」
「だったら根本的にアプローチを変えるしかないな」
どうやらサラブレッドは年間6000頭産まれるらしい。
デビュー戦で勝つことすら狭き門であり、G3やG2で勝てばエリートなのだ。
G1で1勝したら英雄、2勝したら世代を代表する馬であり、3勝以上すれば伝説。
かなり極端な分類ではあるものの、それぐらいのレベルだと認識したほうがいい。
ちなみに日本のG1最多勝は8勝である(分類によってはさらに上もいるが、中央の芝コースで国際レーティングを満たしているレースならこれが最多勝)。
「そこそこうまく育成できても、史実馬には勝てないのよね」
「だったら史実馬を買うしかないだろ」
「高くて買えないでしょ」
「いや、『ティーエムオペラオー』とか『モウショウドトウ』なんかは1000万以下だったらしいぞ。『アグリキャップ』みたいな地方から中央へ進出した馬もいるしな」
「でも確実に競り落とせるとは限らないのよね。マネーゲームになったら確実に負けるし」
「なら親を買おう」
名馬を産むことが確定している無名な血統の牝馬と牡馬をセットで買う。
多少高くつくが、これで確実に史実馬が手に入るうえに、自分のものにすることでライバルが1頭減る。
いいことづくめだ。
「出場レースや馬体重もできるかぎり史実と同じにする必要があるな」
「あ、史実に出たレースなら史実と同じ結果になるんだ」
「条件が同じならな」
枠順も馬場状態もメンバーも違うが、だいたい同じようなタイムに収束する。
史実で負けたレースは回避するのが無難だろう。
ただこれで勝ったレースへのローテーションが崩れると困る。
似たような条件の違うレースに出場して調整したほうがいい。
もちろん史実で走っていないレースなので結果は安定していないが、G2・G3ならだいたい勝てる。
無理なローテさえ組まなければ、力の衰える晩年まで安定した成績を残すことはできた。
「ある意味、ここからが本番よね」
「ああ。史実馬をベースにオリジナルの馬を育てて勝つ」
史実馬だけで運営するのは面白みがない。
やはり自分オリジナルの馬で史実馬を倒すのがこのゲームのだいご味だろう。
……だがオリジナル血統だとG2はおろかG3ですらまともに勝てない。
「中央は厳しいな。地方競馬で確実に勝ち続けたほうがいいのかもしれん」
「地方で活躍して中央コースね」
しかしそれも見通しが甘かった。
地方は砂が多い。
親がG1で勝ったとはいえ、それも芝のレースでの話。
ダート適性があまりない。
おまけに地方はレースが多い。
賞金が少ないので、質より量でカバーしなければ食っていけないのだ。
「出場するだけで一定の手当てはもらえるのね」
「とにかく出ることが重要なんだな。そして怪我をしないこと。……突き詰めていくとレースで手を抜くことだ」
「……それ八百長じゃない?」
「怪我をしないために本気で走らせないだけだから八百長じゃない。それとも勝つために馬を潰すのが正しいのか?」
「いや、それなら馬に負担がかかるローテでレースに出るなって話になるじゃない」
「レースに出ないと食っていけないだろ」
「……これが地方競馬の闇なのね」
高額賞金などのうまみがあるレースでは勝ちに行く。
リターンの少ないレースでは無理に勝ちにいかない(もちろん結果的に勝ってしまうことはあるが)。
地方競馬では調教すらままならないので、それを逆用し適当なレースを調整に使いつつ金を稼ぐのもアリだろう。
ただ『勝てるレースをあえて勝たない』ということもある。
健康の問題ではない。
グレードの問題だ。
勝ちすぎると出走するレースのグレードが上がってしまい、賞金の額は上がっても勝てないので総合的な収入は下がってしまう。
だからわざとムチを入れなかったり、流してレースを終わらせる。
ひどいときには落馬する。
このように全力で走らないことを『ヤラズ』と呼ぶらしく、中央に比べて人気のある馬があっさり負けるので地方競馬の予想は難しいらしい(必要なデータがすべてそろっていれば当てやすくなる気はする)。
「でも騎手にヤラズの指示をするのが難しいのよね」
「そりゃ競馬業界にとっていい話じゃないからな」
協会や馬主が監修しており、人によってはヤラズを八百長と思っているため、ヤラズを前提としたシステムになっていない。
では『やらさせない』ためにはどうすればいいのか?
レベルの低いジョッキーを乗せればいい。
それも前のめりな騎乗をするジョッキーではだめだ。
慎重すぎて仕掛けるタイミングを逃し、スタミナを余したまま負けるタイプのジョッキーだ。
脚質に関係なく、馬群の最後方にポジショニングする『追い込み』をさせるのもいいかもしれない。
準備は整った。
「よし、これで安心して負けられるな!」
「……これなんのゲームだっけ?」




