ボクシングゲームセット【ビスケットとレモンティー】
オリジナルゲーム紹介漫画に4話追加してます。
参考ゲーム
はじめの一歩2
ボクサーズロード
「打つべし打つべし打つべし!」
ボタンを連打しまくり、果敢に応戦するものの、
『KO』
「ええっ!?」
あっけなく打ち負けた。
「なんで最初の敵がこんなに強いのよ!」
「腐っても新人王トーナメントだからな」
しかも対戦相手は黒人ボクサー。
日本人では分が悪い。
……なぜボクシングゲームなのにデビュー戦からではなく、新人王トーナメントの一回戦から始まるのかわからないが。
他の格闘ゲームともシステムがかなり違うようなので、慣れないと厳しそうだ。
ちなみにプレイしているのは『おわりの一歩2ファイターズロード』。
主人公がライバルと戦わないまま単行本は130巻を超え、とうとう世界挑戦することもないまま引退してしまった名作ボクシング漫画のゲームだ。
まだ連載中なのでカムバックするだろうが、復帰してライバルと決着をつけて世界タイトルマッチに挑むまでにあと何巻かかるのだろう。
不安しかない。
「操作がわかりにくすぎ」
「まあ、とっさに対応できるシステムではないな」
従来の格闘ゲームのようなコマンド入力はない。
説明書を読む限りでは簡単な操作で誰でも技を出せる。
……出すだけなら簡単だ。
状況に応じて最適な動きをするのがとにかく難しい。
たとえばパンチ。
4つのボタンに左右のストレートとフックが割り振られている。
たとえば□ボタンなら左ストレート、△ボタンなら右ストレートだ。
△
□ 〇
×
※基本ボタン配置
右利きなら左ストレートがジャブになる。
〇と×は左右のフック。
L2もしくはR2ボタンを押しながらパンチを打つとアッパー。
L1もしくはR1ボタンを押しながら特定のボタンを押すと必殺技。
左スティックで移動、スティックを前に一瞬だけ倒すとダッキング。
ダッキングしながらパンチを打つとボディブロー。
ダッキングは屈んでジャブやフックなどを避わす動作だ。
攻撃を避わしながらボディを打てるのはありがたいものの、
「なんでダッキングしないとボディ打てないのよ!」
逆にいうと無駄な動作を入れないとボディが打てない。
あまりに他の格闘ゲームとシステムが違いすぎるので、とっさに操作できないのだ。
「まずは基本に忠実にジャブとストレートだけにしたらどうだ」
「それでも打ち負けるのよ」
主人公は豪打のインファイターなのに、なぜか近接戦で打ち負ける。
理由は簡単。
敵のほうが手数が多いからだ。
ボタンを連打していても、相手のほうが回転がいい。
「ボタンの押し方が悪いのかしら」
「他に押し方なんてあるのか」
「親指だけだとジャブを押した後にストレートを押そうとしても、親指を別のボタンに移動させないといけないから一瞬間ができるでしょ。だから人差し指と中指をボタンの上に置いて、交互に叩くのよ」
「なるほど。アケコン風にボタンを押すのか」
「そういうこと」
ゲーセンやアーケードコントローラーでプレイする場合、だいたい複数のボタンの上に指を置いている。
親指だけでボタンを押すパッドより効率的で速い。
「32連射!」
ダダダッと凄まじいスピードで人差し指と中指を連打。
やはり親指でボタンを押していたのが悪かったようで、パンチの回転が上がり打ち勝てるようになる。
『KO!』
「やった!」
最初の関門さえ突破してしまえば、そこからは順調。
ひたすらワン・ツーを叩き込むだけで相手を圧倒できた。
だがさすがにタイトルマッチにもなるとそれだけでは厳しい。
そこでボディブローだ。
ある程度ダメージを与えるとボディが響く。
ボディで後ろに下がる(反撃してこない)ので、ロープやコーナーに追いつめたらボディを打ち続けるだけでほぼ勝てる。
「アーケードモードはこれでパターン入ったわね」
「他にもモードあるのか」
「サブタイトルにファイターズロードってあるでしょ。これ、育成型ボクシングゲームの名作なのよ」
「育成系の格ゲー? 珍しいな」
名前、利き腕、身長、体重、国籍、ジム、そしてシナリオを始める年代(何年に始めるかによって出てくるボクサーが変わる)。
それらを自由に選択して自分だけのファイターを作っていくモードだ。
最初はシンプルにおわりの一歩の設定に準じてフェザー級、日本、賀茂川ジム、1990年で始める。
「……パラメータ多すぎ」
「しかも英語かよ」
lifeやstaminaはまだわかる。
しかしendurance(打たれ強さ)、bad health(不健康度)、fatigue(疲労度)ともなると厳しい。
さらに、
「glucose、mineral、amino acid……。え、なにこれ。栄養素?」
「接種した栄養素によって成長するパラメータや減量の仕方が違うみたいだな」
「えぇ……」
他にも筋肉のパラメータが9種類あり、どことどこの筋肉を鍛えるかによってパンチ力やスピードが変わるようだ。
意味が分からない。
ただしこれだけはたしかだ。
「ああっ、減量が間に合わない!?」
試合で勝つよりも減量やコンディション調整のほうが難しい。
ある意味、何も考えずにフェザー級で始めてしまったのが最大の失敗だろう。
仮に減量に成功して順調にランキングを上げても、
「……なんで日本ランカーなのに世界ランカーより強いの?」
「原作キャラだからだよ」
原作に登場するボクサーは異常に強い。
賀茂川ジムなので主人公と対決することはないものの、1990年代の日本のフェザー級には化物しかいないのだ。
激戦区を嫌って階級を変えても、
「なんでこいつがジュニアライトにいるのよ!」
「考えることはみんな同じってことだ」
原作でも減量苦や強敵を避けて階級を変えている。
化物ぞろいなのはフェザーだけではないのだ。
フェザーの前後は地獄のような激戦区なのである。
「ポチッとな」
とうとうフェザー級をあきらめて最初からやりなおした。
賢明な判断だ。
ある意味、競馬ゲームにも似ている。
あれも突き詰めるといかに名馬を買い、名馬を産ませ、名馬の少ない年代で走るゲームだ。
どの馬が名馬になり、誰が名馬を産むかわかっているからこそできる戦略である。
実在の選手が登場する野球ゲームなどでも似たような感覚は味わえるだろう。
「あ、ヘヴィ級なら体重制限ないから減量も気にしなくていいんじゃない?」
「メリットは大きいな。でもその分デメリットもある」
「どんな?」
「アジア圏にはヘヴィ級がいない。つまり絶対数が少ないから強豪と当たる可能性が高くなる」
「う……」
「あと体重が重い分、パンチ力があって相手を倒しやすいが……。逆にいうと一発逆転を食らいやすい」
「その辺はプレイヤースキルでなんとでもなるわね」
「それとヘヴィより上はないから、強いボクサーを避けて違う階級のボクサーと戦いたい場合はジュニアヘヴィまで落とすしかないし、結局減量しないといけなくなる。ヘヴィ級で勝てるような恵まれた体格に設定した場合、ジュニアヘヴィまで落とすのはかなり難しいぞ」
「ぐぬぬ」
「ボクシングではWBC、WBA、IBFみたいにボクシング団体ごとに独自の世界チャンピオンがいるが、ヘヴィ級は統一戦が多いのもネックだ」
「なんで?」
「ヘヴィ級のチャンピオン=世界最強の男だからだよ。統一戦こそ最大の目玉なんだ。つまり弱いチャンピオンを倒して世界チャンプになっても必ず統一戦をやらされるから、遅かれ早かれ最強のチャンピオンと戦わないといけない」
「『ベルトは獲るよりも守るほうが難しい』ってやつね」
「そういうことだ」
減量しないですべてをパワーでなぎ倒すか、体重を管理して弱い敵を倒し続けてベルトを守り続けるか。
その二択だ。
「グッバイ、満腹ボクサー!」
「……ネタがマニアックすぎる」
「おやつはもちろんビスケットとレモンティーね」
「あいよ」
最終的に軽量級で落ち着いた。
ちなみに『グッバイ、満腹ボクサー』は『昨日のジョー』に出てきた東洋太平洋チャンピオン『ゴールデンワイバーン』のセリフである。
戦争で満足に食べることができなかったため、胃袋が小さく減量とは無縁のボクサーだ。
ビスケット、半熟卵、フルーツ、レモンティーだけで胃がいっぱいになり、もうその日はなにも食べられなくなる彼からしてみれば、子供のころにたらふく食べて胃袋を大きくした『満腹ボクサー』など恐れるに足らず。
昨日のジョーに登場するボクサーの中でもかなり好きなキャラなのだが、知名度が低いのが悲しい。
「えーと、スピード系のメニューはどうすればいいのかしら」
「糖質は控えめ。メインはチキン重視だな。あとは適度に水を飲め」
「はーい」
食事のメニューを考えるのも大変だ。
何よりも大事なのは水分。
これが不足すると体を壊し、どうにもならなくなる。
それだけに水分を抜く減量はつらい。
「ひゃっはー、ランカー狩りだー!」
体重を緻密に管理し、約5階級を渡り歩いて手ごろなランカーをボコボコにしてランキングを上げていく。
姑息にもほどがある。
タイやフィリピンは強いので、ターゲットは韓国だ。
強いボクサーがいないわけではないものの、危険な相手とは同じジムになればいい。
新人王のようなトーナメント戦でもない限り、同門対決は基本的にしないからだ(同じジムだと忖度や八百長の可能性が高くなるからだろう)。
年代をずらすのも有効である。
どのボクサーにもピークがあり、ピーク前とピーク後なら勝てるからだ。
ピークを過ぎていてもランキングは高いままだったりするので、手っ取り早くランキングを上げるならピークを過ぎた名ボクサーを狩るのも有効だろう。
「正規王者、暫定王者、スーパー王者、休養王者、ゴールド王者……。選り取り見取りね」
「……ここまでくると意味が分からんな」
ボクシング団体も多いが、チャンピオンの種類も乱立しているので選び放題だ。
慎重に一番弱そうなチャンピオンを選択する。
「水抜き減量も完璧! しかも前日計量だから、計量後にたくさん食べてリバウンドするわよ。目指せ+12キロ!」
「リバウンドしすぎだろ」
「体重こそパワー!」
前日計量の場合、リバウンドで当日には数キロ増量するのも当たり前なのだ。
団体によっては前日計量による体重の増減は〇キロまでと厳格に定められていたりするものの、規定がゆるい団体になると+10キロのように大変なことになる。
ちなみになぜ当日計量にしないかというと、ギリギリの減量をして弱った人間が当日に試合をすると死ぬからだ。
1日開けてコンディションを整えないとそれだけ危険なのである。
むろん1日開けても危険なものは危険だ。
特に水抜きで大幅に増量はできても、
『ボディ、決まったー!』
「ああっ!?」
体への負担もでかい。
足が出にくくなり、ボディへの攻撃にも弱くなる。
「日本での試合だから採点は有利だけど、フルラウンドは戦えないわね。こうなったら!」
判定はあきらめ、正面から打ち合いにいく。
体重の差だけパワーでは有利。
ボディを叩かれる前に相手を押し込み、滅多打ちにしていく。
そしてセコンドからタオルが投入された。
「やった!」
普通ならこれで勝ちだ。
しかし、
「え」
安心して棒立ちになったところを滅多打ちにされる。
試合はまだ終わっていなかったのだ。
「ちょっと待って、なんで試合止まらないの!?」
「レフェリーが後ろを向いてるときにタオル投げたんだろ。レフェリーが止めない限り試合は止まらないぞ」
「ええ!?」
ちなみにタオルは観客も投げられるし、レフェリーが見逃してしまう可能性もあるため、タオル投入は廃れてきている。
レフェリーに見える位置で手をクロスするなど、明確なジェスチャーをするのが主流だ。
なのでセコンドがタオルを投げたのに、
『KO!』
「ぎゃー!?」
逆に相手をKOしてしまった事例もある。