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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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探偵ゲームセット【ミシシッピーマッドケーキとケニア】

参考ゲーム

雨格子の館


「この探偵、殺人防御率悪すぎ」


「殺人防御率ってなんだよ」

「探偵が事件に関与してから殺される平均人数」

「……嫌な指標だな」

 有名な探偵だと金田一かねだ・はじめあたりは防御率が悪いとよくネタにされるらしい。

 まあ、ドラマ化・映画化された主要作品の防御率(4.2人)が悪いだけで、シリーズ全体での防御率(1.5人)は決して悪くないのだが……。

 うっかりミスでよく『しまった!?』と叫んだり、犯人に自殺されてしまうのでどうしても印象が悪くなってしまうのだろう。


「そういえばミステリのシリーズものを読んでると、だいたい巻を重ねるごとに探偵の登場が遅くなっていくよな」


「名探偵が事件を阻止できないと防御率が悪いってネタにされるもの」

 だから昔に比べて『事件(厄介ごと)に関与したがらない』『事件に関与するのが遅い(何人か殺されてからやっと依頼が来る)』探偵が増えている印象だ。

 『早く事件を解決しないと大変なことになる』『この事件を解決できるのは自分しかいない』と、呼ばれてもいないのに首を突っ込むパターンもある。

「『殺人を防いだ事件は小説化されてない』っていう説もあるわね」

「なるほど、本になってない部分で事件を防いでるってことか」

 『連続殺人でないと話が盛り上がらない』のだから、殺人未遂が書籍化される可能性は低い。

 せいぜい短編だろう。


「ゲームだとたまにあるわよ、殺人を防げるゲーム」


「ゲームならではの展開だな」

「最初の一人だけは防げないけど」

「あー。現行犯か犯行予告でもないかぎり、最初の事件は防ぎようもないわな」

 やはりゲームとはいえ、すべての事件を防ぐというのは難しいらしい。


「推理系で殺人を防げるやつだと『釜井たちの夜』と『鉄格子の館』かしら」


「どっちもクローズドサークルだな」

 推理小説でお馴染みの『陸の孤島』、閉鎖された空間で繰り広げられる事件だ。

 とりあえず鉄格子の館をやってみることにする。

 嵐によって崖崩れが起こり、館に閉じ込められたところから事件が始まった。

 有名な探偵小説『北水涼介』シリーズに見立てた殺人が起こる。

 犯行予告はあったものの、いたずらだと思われていたので最初の殺人はどうしても防げない。

 そして第二の予告が起こる。

 そこからの展開が面白い。


『見立てに必要な道具や凶器を隠そう!』


「おお、だから見立て殺人なのか!」

「さすがに犯人もこうやって殺人を防いでくるとは思わなかったでしょうね」

 人を殺すだけなら道具や手段はなんでもいい。

 しかし見立て殺人となると話は変わる。

 たとえば江戸川乱歩なら『黄金仮面』や『二銭銅貨』『鏡地獄』『木馬は廻る』などの小説があるわけだが……。


 乱歩の小説に見立てて人を殺すのなら、犯人はどこかから仮面や銅貨、鏡、木馬などを用意しなければならない。


 主人公はそれらの道具を隠すことで、犯人が見立てをできなくするのである。

 わざわざ見立て殺人なんて面倒なことをするからには、見立てで人を殺さないといけない理由が犯人にはあるのだ。

 だから見立てに必要な道具を隠されてしまうと、たとえ完全犯罪のできるシチュエーションがあっても犯人は人を殺せなくなってしまう。


 問題は北水涼介シリーズはこのゲームの作中作なので、プレイヤーは絶対に小説の内容を知らないということだ。


 黄金仮面や二銭銅貨のようにタイトルでわかるものでもない。

 一から調べないといけないのだ。

 さいわい館の書斎にシリーズが全部そろっているので、調べることは簡単にできる。

 ただし、


「げ、行動ゲージ制か!?」


 一つの行動をするたびに行動ゲージが減っていき、0になると1日が終わってしまう。

 ゲージの管理が地味に大変だ。

 やることが多すぎる。


1犯行予告の場所へ行って見立ての内容を確認


2書斎へ行って本をチェックし、どの作品の見立てなのかを調べる


3作品の内容から誰が狙われるかを推理


4被害者候補の部屋に行って殺人鬼に狙われていることを警告する


5物置部屋を中心に館を探索し、見立てに必要な道具や凶器を処分する


 しかもタチが悪いことに、これらはあくまで『連続殺人を防ぐ』行動でしかない。

 犯人を突き止めるためにはアリバイや人間関係も調べる必要があり、初回プレイではどうやっても行動ゲージが足りないのだ。

 おまけに、


「ぐ、道具を隠しきれなかったか!」


 事件によっては隠さなければいけない道具がかなり多くなる。

 特に第三の事件は見立て用の道具が大量にあり(ダーツ、チェス、コルク抜き、ワイングラスなど)、どうしても隠しそびれてしまう。

 仮にすべてを隠せたと思っても、


「は? なんで斧を隠したのに斧で殺されてるんだ?」


「隠したのは『居間に飾られてた斧』でしょ。『予告現場に置かれた斧』はそのままだったじゃない」

「しまった!?」

 盲点だった。

 一日が始まるたびに新たな犯行予告が置かれる。


 黒猫の置物、ベル、手袋、釘、斧。


 基本的に『予告現場に置かれた道具を拾うことはない(選択しても調べるだけで拾えない)』ので、犯行予告の斧を隠すという発想がなかった。

 見立ての道具を隠すには『予告現場を見て、書斎でその予告がどの小説の見立てなのか推理』してからでないとできない。

 斧は明らかに凶器ではあるものの『書斎で推理を行わない限り、主人公にとってそれはただの犯行予告であって凶器ではない』から拾うことができないのだ。

 ……まさか犯行予告そのものが凶器だったとは。

 完全にしてやられた。

 それでもいくつかの事件を防いで初回プレイを乗り切ることに成功する。

 無事に生き延びることはできたものの、結局最後まで犯人はわからずじまいだった。


「情報を整理してみるか」


 最後の事件前のデータをロードして、アリバイなどをもう一度詳しく調べてみる。

 部屋の名前が『ポー』や『ドイル』などの有名な推理作家の名前なので微妙にわかりにくく、実はプレイ中は細部がわかっていなかった。

 部屋名の隣に宿泊客の名前を書き、一目でわかりやすくする。

 ただ事件が多いのでアリバイのチェックも大変だ。

「なんか食いながらまとめよう」


「じゃあ紅茶とミシシッピマッドケーキ!」


「また珍しいものを……」

「釜井たちの夜に出てくるし、モデルになったペンションのメニューだったのよ」

「へぇ」

 調べてみたらたしかにペンションのメニューにもあった。


『手作りミシシッピーマッドケーキ 通称・泥んこケーキ チョコとナッツがたっぷり! 600円』


 マッドなチョコなら泥水コーヒーを合わせたいのだが、どうやら釜井たちの夜では紅茶を飲んでたらしいのでケニアとヌワラエリヤにする。

「ナッツでかっ!?」

「砕いてないからな」

 ケーキの中に大きなナッツがゴロゴロ。

 濃厚なチョコレートケーキにカリカリのナッツの組み合わせがたまらない。

 ちなみに『ミシシッピーマッドパイ』というのもある。

 ミシシッピー=泥というイメージがあるようだ。

 それをパイやケーキのネーミングに使うあたりがいかにもアメリカンである。


「順当に考えれば最後の犠牲者が犯人なんだが……」


 主人公は道に迷って偶然館にたどり着いた部外者なので殺人鬼に狙われていない(他の登場人物はすべて関係者)。

 だから必然的に最後の犠牲者が一番怪しくなる。

 最後の事件はわりと簡単に防げたのでなおさらだ。

 『わざと事件を防げるようにした』のではないかと推理できる。

 連続殺人を防ぐというシステムだからこそ、プレイヤーは絶対に最後の生き残りを守るからだ。

 つまり『プレイヤーが守った』のではなく『犯人ゲームシステムに守らされた』のである。


「最後の事件だけやり直してみるか」


 しかし、

「……ちゃんと死んだな」

 サスペンスドラマのように崖で何者かに撃たれて落ちてしまった。

 崖から落ちるだけなら別人(死体や人形)と入れ替わることもできなくはない。

 銃声さえ捏造できれば、実際に銃を撃つ必要はないからだ。

 だが事件そのものを疑う場合、これまでの被害者にも同じことがいえる。

 入れ替わるだけなら他の被害者も不可能ではない。


「死んだふりをしてるのは誰だ?」


 さすがに『探偵プレイヤーが犯人』や『主要キャラの中に犯人がいない(正体不明の殺人鬼が本当に存在していた)』という禁じ手は使ってこないだろう。

 入れ替わりに必要なのは『顔がそっくりな死体』、あるいは『顔の潰れた(もしくは首のない)死体』、そして崖から落ちた死体のように『調べられない死体』だ。

 被害者の中に双子がいるし、井戸に落とされて顔が潰れた死体もある。


 入れ替わりトリックだとしたら、この3人の中に犯人がいるだろう。


 ……普通なら。

「ぐ、毒殺が入れ替わりトリックだったのか!」

「まさかの『調べなかった死体』のパターンね」

 被害者は毒で即死したわけではないのがキモだ。

 主人公は医者ではないので毒の種類などわからないし、治療もできない。


 毒を盛られたときに体を調べてからほとんど間もなく、治療の甲斐なく亡くなってしまったと医者から報告されたので検死をしなかった。


 『調査した直後に死んだ人間をもう一度調べる』のはゲームプレイ的にも二度手間に感じる。

 自分のまったく関与していない場所で、いつ誰にどうやって殺されたのかわからない死体ならともかく、いつどこでどうやって殺されたのかわかっている状況だ。

 隅から隅まで死体を調べるなんてことはしない。

 脇にピンポン玉やゴルフボールを挟めば脈を止めることは可能だし、短時間で死んだふりを見抜くのは難しいだろう。


 なお医者は『また犯人に狙われるのが怖いから死んだことにしてくれ』と口止めされていたようだ。


 もちろん次に狙われたのは医者である。

 完全にダマされてしまったが、斬新で面白いゲームだった。

「ゲームも堪能したし、口直しにケーキでも食うか」

「え、まだケーキあったの!?」


「お前の犯行つまみぐいを防ぐために隠しておいた」


「ぐぬぬ!」


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