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四神将棋セット【焼き鳥とほうじ茶】

ドラゴンはましろさん、その他のモンスターはササッティーノ伯爵さんに描いていただきました。

転載禁止。

「スタミナ制度を導入しましょう」


「スタミナ?」

「イメージは航空機ですね。こういう風に駒の下に駒を積みます」

 将棋の駒の下に、3枚のオセロの駒を積んだ。


「これは燃料です。手番が来るごとに1枚減らしていき、なくなったら墜落。空母に戻れば燃料補給できます」


「空母がやられたら、いずれ墜落するのね」

「そうなりますね」

 空母こと『航空母艦』は航空機の離着陸ができる軍艦だ。

 『泳ぐ飛行場』といえばわかりやすい。

 航空機は燃料を消費するので、長時間のフライトができない。

 だから海上を移動して、多数の航空機が離着陸できる空母が作られた。

 飛行場そのものを移動させてしまえば、新しく飛行場を作る手間もなくなり、敵地への移動距離も短くなって、帰投して燃料補給することもできる。

 今では当たり前だが、船を飛行場にしようという発想がすごい。


「航空機の駒は軍艦で取れるんですか?」


「そうですね……。戦闘機と爆撃機に分けて、航空機を撃墜できるのは戦闘機の駒だけにしたほうがいいかもしれません」

 時速500キロ以上で飛ぶ航空機を船の対空装備だけで撃墜するのは難しい。

 戦闘機は必須である。

 相手と同じスピードで飛び、背後を取って撃つ。

 いわゆる『ドッグファイト』。


 尻尾を追いかけ合う犬のように相手の背後を取るのが王道だ。


 基本的に爆撃機は爆弾、攻撃機は魚雷を搭載している。

 戦闘機は空中戦専用の機体なので船を攻撃するような武器は搭載されていない。

 爆撃機や攻撃機の護衛をしたり、艦隊の頭上を敵の航空機から守るのが仕事だ。


「戦闘機は航空機の撃破が可能です。ただし船を攻撃することはできません。爆撃機は航空機を撃破することはできませんが、船への爆撃が可能です」


「メリットとデメリットのバランスは取れてる気がするな。問題はイラストだ」

「でも船ってデザインしにくいのよね?」

「船はボードゲーム用の駒としてイラストを縮小すると判別がしにくくなります」

「じゃあ船と航空機を別のものに置き換えよう」

「航空機は空飛ぶモンスターにすればいいだけだから簡単だけど、ファンタジー世界に空母みたいな生物いる?」


玄武げんぶはどうでしょう。島のように大きい亀という設定にして、甲羅の上に空飛ぶモンスターが離着陸します」


挿絵(By みてみん)

玄武


「架空戦記でたまに出てくるやつだな。『地上空母』だ」


「ファンタジーだと『移動都市』とか『機動要塞』かしら」


「そうですね。玄武の大きさを考えると、甲羅の上も中も都市を作れるぐらいの空間はあります」

 巨大な生物の上に存在する都市はファンタジーのロマンだ。

 和風(あるいは中国風)なのも珍しい。

 とりあえず空母は玄武、戦闘機はペガサスで、爆撃機はドラゴンに設定した。


挿絵(By みてみん)

ペガサス


ペガサス

 ペガサス・ドラゴンへの攻撃が可能

 地上への攻撃は不可能

 地上から攻撃は受けないが、スタミナがなくなると墜落する


挿絵(By みてみん)

ドラゴン


ドラゴン

 ドラゴン・ペガサスへの攻撃は不可能

 地上への攻撃は可能

 地上から攻撃は受けないが、スタミナがなくなると墜落する


玄武

 ドラゴン・ペガサスへの攻撃は不可能

 玄武はドラゴン・ペガサスを離着陸させ、スタミナを回復させることができる

 ドラゴン・ペガサスを搭載したまま移動することも可能

 ドラゴンに攻撃されると、搭載しているペガサスやドラゴンもまとめて死ぬ


 騎兵ですら一度突撃したらスタミナ切れでボロボロだ。

 ペガサスやドラゴンは体が重い上に武装した人間を乗せているので、離陸時に一番スタミナを消費する。

 ペガサスやドラゴンを玄武の上に運び、高所から飛び降りて滑空するようにすればスタミナの消費はグッと少なくなるだろう。


「選択ルールで不時着があってもいいかもしれません」

「スタミナが切れたら海や陸地に不時着ですか?」

「はい。味方に拾ってもらえれば、回復魔法でスタミナを補給してまた飛ぶことができます。敵に拾われたら敵の駒として使われることになります」


「『トンボ釣り』だな」


「なにそれ」

「空母への着艦に失敗して海へ落ちた航空機を駆逐艦が救助することだ。航空機がトンボっぽいからトンボ釣りって呼ぶんだよ」

「へー」

 空母は救助作業に向かないので、駆逐艦がトンボ釣りをしている。

 着陸失敗や燃料切れなど、海に不時着して救助を待つのは珍しいことではないのだ。

 特に着陸は難しい。

 フライトシミュレーションゲームだと、だいたい減速しきれずに空母から落ちてしまうか、甲板に激突して死ぬ。

 ある意味、空中戦より着陸のほうが難しい。


「『燃料切れのときに墜落か不時着か選択できる』ようにしたほうがよくない?」


「敵に拾われそうなら墜落、味方に拾われそうなら不時着ということですか?」

「そうそう」

「戦略性が増すな」

 さすがに倫理的な問題があるので、敵へ神風を仕掛けるのは禁止にした。

 騎乗するモンスターがメインなので、地上の駒にはベヒーモスやケンタウロスを採用する。


挿絵(By みてみん)

ベヒーモス


挿絵(By みてみん)

ケンタウロス


「今日は焼き鳥を賭けるか」


「なんで焼き鳥?」

「日本の空母・加賀は排熱に問題があったから『焼き鳥製造機』って呼ばれてたらしい」

 喫茶店でもチキンライスを作ったり、鶏ガラを取ったりするから鶏は常備している。

 魚を焼くための七輪や備長炭びんちょうタンもある。

 焼き鳥を作るのに不足はない。


 メニューはネギま・軟骨・皮・砂肝・手羽先・レバー・つくねの七種類、全部塩。


 人気漫画『ロンリーなグルメ』のドラマ版、記念すべき第1話で出てきたものだ。

 それを意識して備長炭でじっくり焼いていく。

 焼き鳥の基本はネギま。

 ネギと鶏肉では火の通る時間が違う。

 実は鶏の方がネギより早い。


 だから鶏に合わせるとネギが固く、ネギにじっくり火を通していると鶏が焦げる。


 同時に火を通すコツは素材の切り方だ。

 ネギの太さに応じて鶏の大小が決まる。

 火加減も重要だ。

 そのまま炭火で焼くと焦げてしまう。

 団扇で網と炭火の間を扇ぎ、適温を保たねばならない。

 七輪ではどうしても調整に手こずってしまう。

 鶏から極上の脂が滴り落ち、炭が煙を上げた。

「んー、おいしさ横綱級!」

「横綱?」


横綱スモーキング


「……使い古されたネタだな」

 うちは禁煙だが、こういう煙なら大歓迎だ。

「カモネギの意味がよくわかりますね」

 じっくり中まで火の通った甘くてトロトロのネギ。

 カモではないものの、鶏肉とネギの相性は犯罪的だ。

 つくねを生ピーマンではさんでもうまい。

 つくねにピーマンのほろ苦さと一味(七味でもいい)のピリッとした刺激が加われば最高だ。

「さて……」

 腹も満ちたところで対局開始。

 積極的にドラゴンを飛ばした。

 瑞穂は攻撃されてなるものかとペガサスを出す。


 かかった。


 すかさずペガサスを撃ち落とす。

「あ!?」

「これで制空権は俺のものだな」

 ペガサスはお互いに2機ずつしか持ってない。

 そして空を飛べるモンスターを撃墜できるのはペガサスだけ。

 敵機の襲来に焦ってペガサスを出してしまうと、そのペガサスを相手に取られる。


 先にペガサスを取られてしまうと空中戦で2対1になってしまい、数を活かして攻められるとお手上げだ。


 瑞穂にはもう俺のペガサスを阻止する方法がない。

「だったらやられる前にやるまでよ!」

「やれたらな」

「え」


 突っ込んできたベヒーモスの前に、こちらのドラゴンが立ちふさがる。


「……あれ、ペガサスとドラゴンは進行方向に駒がいても飛び越えられるけど。ベヒーモスで空飛ぶ駒の下くぐれるんだっけ?」


「駒を飛び越えられるのはあくまで空を飛んでいるドラゴンとペガサスの能力ですから、そういう設定がないベヒーモスはくぐれないと解釈するのが妥当ですね」

「う……」

「つまりペガサスのいないお前には絶対に破壊することのできない壁ってことだ!」


「ああ、逃げ道ふさがれた!?」


 『前門の虎、後門の狼』ならぬ『前門のベヒーモス、後門のドラゴン』だ。


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