戦車ゲームセット【スモークソーセージとクリームメロンソーダ】
参考ゲーム
戦場のヴァルキュリア
「ぐ、老兵以外に戦えるやつがいない」
「経験値稼ぎしないから」
「……シミュレーション特有の不毛なレベル上げはどうにかならんのか」
「それがだいご味でしょ」
だいたいシミュレーションRPGでは敵を攻撃したユニット(あるいは味方に回復・補助魔法を使ったユニット)、もしくは敵を撃破したユニットにのみ経験値が入る。
そしてSRPGには『お助けキャラ』と呼ばれる初心者救済ユニットがおり、強いからといってお助けキャラばかり使っていると味方に経験値が入らず中盤は地獄の難易度になってしまう。
おまけにお助けキャラは老兵であることがほとんどなので成長率が低い(レベルが上がってもほとんど強くならない)。
頼りになるのは序盤だけで、中盤~終盤は戦力外になってしまうのだ。
もちろんお助けキャラに入った経験値もムダになる。
こういう悲劇を防ぐためにお助けキャラで敵のHPを削り、弱いユニットでトドメを刺して均等にレベルを上げるのがセオリーだ。
拠点にいるとHPやMPが回復するシステムの場合、永遠に回復魔法をかけ続けてレベル上げをするという方法もある。
工夫して味方を均等に育てることは悪くないものの、それをしなければレベルの偏りが出て苦戦する(レベル上げを強要させられる)のはうんざりだ。
「古典的なSRPGが嫌なら『戦場のワルキューレ』あたりがいいんじゃない。これは戦闘後にまとめて経験値もらえるし、兵科ごとにレベルが管理されてるわよ」
「兵科ごと?」
「たとえば偵察兵のレベルを上げれば、偵察兵のキャラのレベルが全員上がるの」
「ありそうでなかったシステムだな」
SRPGとしては理想的だ。
「あれ、どこにしまったっけ?」
「知るか」
肝心のゲームが見つからない。
そもそもなんでうちの店に個人のゲームがこんなに積んであるのか。
探すのにしばらく時間がかかりそうなので、適当に何かつまんでおいたほうがいいだろう。
「なにがいい?」
「スモークソーセージとハバネロクラブ」
「ハバネロクラブ?」
「激辛ノンアルコールラム酒」
「却下」
「えー」
「ハバネロだぞ。死ぬ気か?」
「う……。じゃあクリームメロンソーダ」
「あいよ」
「くんたまとスモークサーモンも追加ね」
注文が多い上に組み合わせもおかしい。
「なんで燻製にクリームメロンソーダなんだよ」
「ハバネロクラブの口直しに飲んでたのよ」
どうやら某戦車アニメのネタらしい。
それならこの妙な組み合わせも納得がいく。
……スモーキーな燻製に、甘ったるいクリームメロンソーダの組み合わせはさすがに初めてだ。
しょっぱいものの後に甘いものを食べるわけで、そういう意味では相性も悪くない。
あまり人にはオススメしないが。
「あった!」
ようやく目当てのゲームを発掘する。
「戦車がメインなのは珍しいな」
すべてのキャラに名前と声がついている(フルボイスではないが)。
一見、キャラ重視のゲームに思えるのだが、メインは戦車だ。
それを補佐するように随伴歩兵がいる。
歩兵は偵察兵、突撃兵、対戦車兵、狙撃兵、支援兵の5種類。
偵察兵は移動範囲や視野が広い(発見しないと遠くにいる敵は見えない)が攻撃力や防御力は低い。
突撃兵は接近戦での撃ち合いに強い。
対戦車兵は戦車を一撃で倒せるし、戦車の榴弾にも耐えられるが、機銃や突撃兵・狙撃兵などの攻撃には弱い。
狙撃兵は遠距離狙撃で歩兵を一撃で倒せるが、接近戦には弱い。
支援兵は最弱の歩兵だが戦車の修理(HP回復)や弾薬補充(接触すると自動的に味方ユニットの弾薬を補充する)、地雷の撤去、土嚢の構築ができる。
戦車戦でいかに歩兵が大事なのかよくわかる構成だ。
「げ、即死した!?」
「油断するとあっという間にやられるわよ」
「戦車の警戒はしてたんだよ!」
まさか偵察兵にあっさりやられるとは思わなかった。
戦車は(対戦車兵以外の)歩兵に強く、歩兵は対戦車兵に強く、対戦車兵は戦車に強い。
三すくみだ。
しかもこのゲーム、SRPGなのにヘッドショットの概念があり、頭部に被弾すると簡単にやられる。
SRPGとTPSを足したようなシステムなのだ。
ユニットを選択するとアクションモードというTPSのようなモードになり、APが続く限り行動し続けることができる。
ただし攻撃は1アクションにつき1回しかできない。
アクションモードでこちらが攻撃するときは時間が止まり、どこを攻撃するかカーソルで照準を合わせ、ボタンを押すと攻撃を開始する。
兵科ごとに攻撃回数は決まっており、偵察兵ならライフルで5発、突撃兵ならサブマシンガンで20発、対戦車兵なら携帯式対戦車砲で1発、狙撃兵ならスナイパーライフルで1発撃つ。
敵を一回の攻撃で倒したいのなら、2~3発はヘッドショットを当てないといけない。
当然、発射数が少なく距離が遠いほどヘッドショットが決まりにくくなる。
APは主に移動で消費するもので(攻撃してもAPは減らない)、物陰から敵に接近して攻撃、敵を倒したら元の位置に戻るか近場の壁や味方の戦車の後ろに隠れるのがセオリーだ。
攻撃するときは正面から近づいてはいけない。
偵察兵や突撃兵は視界内に敵が現れたら自動的に銃を撃ってくるからだ(対戦車兵や狙撃兵は特殊な装備を使っているので撃ってこない)。
『銃を撃ちながら走る』ことはできないので、正面から敵に近づくと確実に先手を取られる。
おまけにこちらが攻撃した後も反撃で撃ってくるので、最悪2倍の攻撃を食らう。
ただ弾切れになったら装填する必要があるので、『わざと敵の前に飛び出して攻撃を誘い、すぐに物陰に隠れ、敵が弾切れになったらまた飛び出して攻撃』という戦法もできる(まあ、倒せなかったらリロードした敵に反撃されてしまうのだが)。
敵は視界に入ってきた人間のほうを向くので、わざと敵に見つかってこっちを向かせ、別のキャラで逆方向から近づけば安全に敵を倒せる。
もちろんこちらのユニットの視界内に敵が入っても自動的に攻撃するので、『敵が通過する場所に待ち伏せ』ておけば、敵が視界に入った瞬間、自動的に乱射して歩兵を倒してくれる。
近くに味方がいる場合でも迎撃するため、誤射させて敵を倒すこともできる(少しでもこちらの姿が見えたら撃ってくるので、敵を盾にし、ちらっと姿をさらせば味方に当たるのも構わず撃ってくる)。
奥が深い。
「SRPGなのに敵を一発で倒せるのがいいな」
「戦車も後ろから攻撃すれば一撃で倒せるわよ」
「マジか」
普通は全キャラ動かしたら1ターンが経過するものだが、このゲームはCP制で、CPを消費すれば好きなキャラを何度でも動かせる(使わなかったCPは次のターンに持ち越せる)。
1ターンに同じキャラを何度も動かすとAPが減っていく(移動できる距離が短くなる)し、戦車だけは例外的に2CP消費するものの、強いキャラを何度も動かして敵をガンガン倒す爽快感は他のSRPGにはない。
ステージクリア条件も『ボスを倒す』か『敵の本拠地の占領』が多いので、かなり短時間でクリアできる。
ボスですら一撃で倒せて、周りの敵をスルーして移動力の高いキャラで迂回して奇襲をかければ本拠地も占領できてしまう。
しかも短時間でクリアするほど評価が高くなり、Sランクになれば通常の数倍の経験値と金が手に入る。
いかにプレイヤーへストレスを与えず、適度な戦略性を与え、爽快感を与えるか計算されつくしたシステムだ。
これまでプレイしてきたSRPGの中でもトップクラスの完成度である。
……まあ、敵を一撃で倒せて本拠地も簡単に占領できるから、ゲームバランスはかなりガバガバなのだが。
プレイヤーが不利益を受けるわけではないので許容範囲だろう。
「……さすがに一撃じゃ倒せない敵が増えてきたな」
距離が離れていたり、死角に立っていたり、草むらに伏せている敵兵は見えない。
なので移動範囲と視野の広い偵察兵で敵兵を見つけることが重要になる。
しかし草むらに伏せている兵士などは、かなり近づかないと見つからない。
おまけに見つけられたとしても、草むらに伏せている兵士や土嚢(袋に土を詰めて積んだもの。素早く低コストで作れる壁)を盾にしてしゃがんでいる兵士は防御力が上がっており、ヘッドショットを何発当てても死なない。
たとえ至近距離から数十発ヘッドショットを叩き込んでも、土嚢を回り込んで撃っても、防御態勢の兵士にはダメージがほとんど通らないのだ。
システム的に仕方ないにせよ、不自然さは否めない。
このゲームの数少ない欠点だろう。
「くそ、どうすればいいんだ」
「ふふふ、私の出番のようね」
「クリアできるのか?」
「楽勝楽勝」
自信満々でコントローラーを手に取った。
そして、
「爆発は芸術だ!」
「げ!?」
強引に突っ込んで手榴弾を投げつけた。
「敵が屈んでダメージを与えられないなら、手榴弾で吹っ飛ばせばいいじゃない」
「……力技だな」
「しんぷるいずべすと」
たしかに手榴弾で吹っ飛ばせば、伏せている兵士もしゃがんでいる兵士も強引に立たせることができる。
ついでに土嚢も壊せるので一石二鳥だ(土嚢が壊れるとしゃがんで防御態勢を取れなくなる)。
敵がいなくても、次のターンになったら手榴弾は自動的に補充される(手榴弾、パンツァーファウスト、スナイパーライフルの弾などは、1ターンに一発だけ自動的に補充される。支援兵から弾を補充すれば、1ターンに数発撃つことも可能)。
なので手榴弾を温存する必要はない。
あるいは、
「ぱんつぁーふぉー!」
草むらに戦車で突っ込んだ。
「なにやってんだ?」
「敵が隠れてたら轢き逃げできるでしょ。轢き逃げすれば強引にスタンディング状態にできるから」
……どっちが悪役なのかわからない。
なぜか轢き逃げしてもダメージは与えられないが(どう見ても轢かれているのだが、ゲーム的には回避している扱いなのかもしれない)、敵を強制的にスタンディング状態にすることができる。
草むらに隠れている兵士を見つけつつ、防御態勢を解くには最適な方法だ。
もちろん土嚢や薄い壁なども戦車で突撃すれば破壊することができる。
「範囲内に攻撃する敵がいない場合は、とりあえず草むらとか敵の隠れてそうな場所を爆撃ね」
「……完全にテロリストだな」
草むらを見つけたらとりあえず手榴弾。
戦車なら突撃。
これで不意打ちを受ける可能性は激減する。
「ふんふんふーん、ふふふふーんふーん♪」
『ワルキューレの紀行』の鼻歌を歌いながら、主人公の偵察兵一人で敵陣へ突っ込んでいく。
「死ぬ気か?」
「Sランク取るならこれが最善手なのよ。戦車と違って何でもできるんだから」
戦車がいくら強くても狭い場所には入れず、歩兵と違ってCPを2消費し、拠点の占領もできず(占領できるのは歩兵だけ)、装甲の薄い背後を取られたら即死する。
欠点だらけだ。
だからこそ歩兵でその欠点を補うわけだが……。
「はい、手榴弾。ヘッドショット。拠点占領」
偵察兵一人で電撃戦をするという意味不明な戦術。
CPがある限り同じキャラを1ターンで何度でも動かせるし、偵察兵はAPが多いので複数回行動をしても移動範囲がそこそこ広い。
圧倒的な機動力を活かして敵の死角を迂回すればどんな場所からでも奇襲できる。
主人公補正で突撃兵並みの火力と耐久力があるので攻撃されてもなかなか死なず、火力の高い武器を装備して後ろを取れば戦車を撃破することも不可能ではない。
「敵は拠点を取り戻そうとするからそれを囮にして、敵が拠点を取り戻すころには本拠地に潜入してるってわけ」
「……もうこいつ一人でいいんじゃないか」
「実際に一人で全ステージ攻略できるわよ」
なぜタイトルが戦車ではなく戦乙女なのか理解できた気がする。