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AP将棋セット【ワッフルとニルギリ】

「手数将棋でもっと色々やりたい」


「……ふわっとしすぎててわからん」

 手数将棋といえばプレイヤーに碁石を配り、一手指すごとに石を1つ捨て、石がなくなったら指せなくなるというやつだが……。

 ルールが特殊なだけにあまりこの手のシステムをメインにすることはなかった。


「じゃあ成るのに5手、古将棋の能力を発動するのにも5手使うことにしよう」


「手数を増やす方法はないの?」

「そうだな……。なら『盤上の駒か持ち駒をゲームから除外すれば一手増える』ことにするか」

「ゲームから除外ってTCGトレーディングカードゲームみたいなルールね」

 手数=金と解釈すると、雇っている駒が少なくなれば金が浮く。

 手数を重視するなら持ち駒を使わず、極力成り駒は作らず、いらない駒を捨てる。

 火力を重視するならガンガン手数を消費し、成り駒をたくさん作りつつ能力を発動して短期決戦。

 プレイスタイルが問われる。


「手数をコストにして複数回行動できても面白いんじゃない?」


「仮に手数が50手として……。2回目の行動は1回目と合わせて20手、3回目の行動は合計で40手とかそれぐらいのコストが必須だぞ」

「そんなに!?」

「強い駒が二回行動できたらすぐ詰むだろ」

 ホワイトボードにまとめる。



一手で1回行動

一手消費



一手で2回行動

20手(1回目の行動と合わせて20手)



一手で3回行動

40手(1・2回目の行動と合わせて40手)



 1ゲームで2回しか使えない、かなりタイミングの難しい戦法だ。

 無駄に複数回行動をすると、あっという間に手数が尽きて死ぬ。

 獅子のようにもともと『一手で2回動ける』能力のある駒は6回動けることになる。

 これぐらいのコストでないとバランスが取れないだろう。


中国将棋シャンチーのルールを採用するのもいいな」


 川を渡れない駒で無理やり渡る場合は+5手、持ち駒を川の向こうに打つ場合も+5手という感じだ。

「それと玉は九宮から出られないルールだが、手数を消費すれば出れることにしよう。玉が外で活動する場合は常に+1手になる」

「王様が外に出ないのは何となくわかるけど、ファンタジーだと勇者と魔王よね。出れないのおかしくない?」


「なら勇者は未成年、魔王は完全に復活していない設定にしよう。確実に相手を倒せるように成長するのを待ってるんだよ。外に出る場合は強い護衛を雇っているイメージだな。だから一手消費する」


「『トラ食え4』みたいに『勇者が覚醒する前に村を襲撃して倒そうとしてる』わけね」

「そうなるな」

 魔王は勇者が成長する前に、勇者は魔王が完全復活する前に倒そうとしている。

 勇者が直接魔王を倒しに行くのは最後の手段だ。


 勇者(魔王)は自在天王に成れるので、一瞬で相手を倒せるようになる。


 まあ、+一手消費しつつ、川を越えて成るのは簡単ではないが。

「ちゃんとルールまとめてからでないと指せないわね」

「そうだな。石を消費する数を簡単に確認できるようにしとこう」

 手数を消費する条件など、他の将棋に比べてとっつきにくい。

 とりあえず何かつまみながら、ホワイトボードにルールをまとめることにする。

「なにがいい?」


「ワッフルワッフル!」


「あいよ」

 ワッフルの語源はハチの巣。

 ハチミツが合うからハチの巣なのか、ハチの巣だからハチミツなのかはわからないが。


「はちみーはちみーはっちみー!」


 やはりハチミツをかけるのが定番だ。

 格子こうしの中に溜まるバターやハチミツがなんとも食欲を誘う。

「やっぱりゲーマーならハチミツ練乳ワッフルよね」

「……甘すぎるだろ」

 まあ、普通のワッフルからしてチョコやバナナ、ベリー系のフルーツ、生クリームをのせるのも珍しくないので、これぐらいは許容範囲だが……。

 個人的には焼きたて熱々のワッフルにアイスをのせるのが最高だ。


 お茶はアッサムのセカンドフラッシュや、アイスミルクティーならニルギリがいいだろう。


 どちらもバターの効いたスイーツに合う。

「さて……」

 ワッフルを食べながらルールをホワイトボードにまとめる。



手数を消費する行動

 盤上の駒を動かす 1手

 成る +5手

 古将棋の能力の発動 +5手

 持ち駒を打つ +1手

 川を越えて持ち駒を打つ +5手

 川を渡れない駒で無理やり渡る +5手

 玉が九宮から出る(九宮の外で活動する場合はすべて+1手)

 複数回行動 2回行動で20手 3回行動で40手



自分の駒をゲームから除外 一手増える



 箇条書きにするとわかりやすい。

「じゃあ指してみよう」

 タイルゲーム要素のある手数将棋なので、ほとんど未知のゲームだ。

 それでも共通する要素はある。


「飛車先の歩を捨てて一手確保する」


「ええ!?」

 飛車の前にいる歩は邪魔な駒。

 これさえなければ飛車は一手で敵陣へ突っ込めるからだ。

 この歩を捨てることで飛車の道を開け、なおかつ一手確保する。


 いわゆる『太閤たいこう将棋』の応用だ。


「それなら私も同じことをするだけよ!」

 初手から普通の将棋ではありえない展開。

 これでまともにゲームが成立するはずもなく、

「詰んだぞ」

「え」


「3回行動で玉を取る」


「ぎゃー!?」

 機動力の高い駒を特定の位置に進めると、3回行動であっという間に詰む。

「……ダメでしょ、これ」

「なら『騎総』のようなルールにするしかないな」

「『複数回行動する場合は同じ方向にしか動けない』んだっけ?」

「ああ。前に動いたら次の行動も前、横なら横、斜めなら斜めにしか動けない」




※飛車で二回行動

目の前にいる歩を取り、さらにコストを消費して後ろにいる玉を取る



歩→玉


※複数回行動では同じ方向にしか進めないため、1回目で前に動いたのなら、2回目の行動で横に動くことはできない



 これでぐっと詰みにくくなる。

「王手!」

「甘い」

「え、外に出るの!?」

「そのためのルールだからな」

 玉を九宮の外に出して王手から逃げつつ、


「川を渡って自在天王に成る」


「ぎゃー!?」

 これでほぼ詰みだ。

 ただ盤上のどこにでも移動できる自在天王といっても、ヒモのついてる駒は取れない。

 玉の守りを剥がす必要がある。

 それも時間の問題だろう。

「じゃあ後ろの駒を取るか」

「うぅ……」

 一枚一枚確実に邪魔な駒を取る。

 これが普通の将棋なら何の問題もなかったのだが……。


「あれ? これ『王不見王ワンプージエンワン』じゃない」


「はっ!?」

 指摘されて愕然とする。

 シャンチーでは『間に何の駒もいない状態で玉同士が向かいあってはいけない』。



将 将

│ │

│ │

兵 │

│ │

│ │

師 師

○ ×


素で向かい合ってはいけない



 その手を指したプレイヤーの反則負けだ。

 このゲームでは玉が九宮の外に出ることができる上に、自在天王に成ればボードのどこにでも移動できる。

 なので『勇者が魔王の後ろに移動して、素で向かい合ってしまう』という意味不明なシチュエーションになってしまったのだ。



│←間に川がある


※通常の王不見王ワンプージエンワンのシチュエーション

九宮の中から川越しに向かい合う




※今回の王不見王ワンプージエンワン

相手の九宮の中で背中越しに向き合っている



 ……シャンチーでは絶対にありえない形での反則負けである。


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