タロットチェスセット【シャケとキーマン】
「タロットでチェス作れるな」
「は?」
タロットとトランプを並べる。
「トランプのルーツになった『小アルカナ』は1から10までの数字と、小姓、騎士、女王、王の絵札、そして剣、杖、聖杯、硬貨の絵柄がある」
「へー」
トランプは52枚(ジョーカーを含めると54)、小アルカナは小姓がいるので56枚だ。
トランプに当てはめると剣がスペード、杖がクラブ、聖杯がハート、硬貨がダイヤになる(ただしタロットによって微妙に違うらしい)。
「駒は小姓、騎士、女王、王の4種類、それがスートの数だけあるから全部で16枚。駒の数はチェスと同じだな」
「でもキングが4人いるじゃない」
「だから先にキングを4人倒したほうの勝ちだ」
「ええ!?」
「それとタロットだから、正位置と逆位置で性能が変わる」
「成ったら上下が引っ繰り返るってこと?」
「そういうことだ」
タロットカードは上下をバラバラにしてシャッフルし、出たカードと上下で運勢を占う。
たとえば『大アルカナ』の死神は死の象徴だが、
死神
逆位置、つまり上下が逆の状態なら占い結果も引っ繰り返って『再生』などの意味になる。
持ち駒制度のないチェスルールでプレイする場合、ボードの端に到達した駒は位置が逆に成る。
「これ、『駒を裏返す』が『駒の上下を引っ繰り返す』に変わっただけじゃないの」
「そのままプレイするならそうなるな。でもこれはタロットカードだ。まずゲームをプレイする前にシャッフルして小アルカナで占いを行い、タロットの占い結果と駒の上下をそろえて並べる」
「あー、逆位置から始まるわけじゃないのね」
1最初に小アルカナ22枚で占いを行う。
2両プレイヤーとも、占いで出たタロットと駒の上下をそろえて配置する。
たとえばナイトの逆位置が出たら、両プレイヤーともナイトを逆位置で配置しないといけない。
なお駒の上下が重要なので、普通の将棋やチェスと違いボードは横向きに使用する。
「小姓はポーンだな」
「ナイトとクイーンが4枚ずついるのがやばいわね」
「正位置ならな」
どの駒も逆位置だとかなり弱体化する。
たとえばナイトは八方向にジャンプできる八方桂だが、逆位置だと将棋の桂馬と同じく前にしか跳ねられない。
クイーンも剣と棒はルック、聖杯と硬貨はビショップだ。
場合によってはチェスよりも火力が低くなるし、あるいは極端に火力が高くもなる。
「なんか物足りないわね」
「うーん……。じゃあゲーム中にもタロットを引けることにしよう。各プレイヤーにはタロットが1セット渡され、好きなタイミングで任意のタロットを引ける」
「任意って?」
「たとえばクイーンが逆位置だとする。そのときはタロットの中からクイーンのカードを抜き出し、裏返してクルクル回転してからめくる。正位置ならクイーンの上下を引っくり返せる」
「強くなるかどうかは半々なわけね」
「ああ。各駒につきタロットは1回しか引けない。運が悪ければ無駄にタロットを消費するだけだ」
「敵も占えるの?」
「もちろん占えるぞ。一度に占える数に制限もない」
なお同じキングであっても、スートが違うのなら占うことはできない。
これで適度に運要素のからむゲームになったはずだ。
「でもタロットっていったら普通『大アルカナ』でしょ。大アルカナバージョンは作らないの?」
「大アルカナは22枚で、将棋の駒は20枚。誤差の範囲だから作れないことはないんだが……。駒の動きを22種類も考える必要があるぞ」
「う……」
正位置と逆位置を合わせれば44だ。
しかもこれを覚えないといけない。
考えるのも覚えるのもイラストを描くのも一手間だろう。
まあ、タロットの擬人化なのでデザインに悩むことはないだろうが……。
「……駒をどういう風に並べればいいのかもわからん」
「タロットカードの番号順に並べれば?」
「それが妥当だな」
左上から順番に駒をボードへ並べれば様になるだろう。
0愚者
1魔術師
2女教皇
3女帝
4皇帝
5教皇
6恋人
7戦車
8正義
9隠者
10運命の輪
11力
12吊された男
13死神
14節制
15悪魔
16塔
17星
18月
19太陽
20審判
21世界
012345678
9 0 1 2
345678901
※将棋盤に大アルカナを配置した場合
「玉の位置に星が来るな」
「『徐々に奇妙な冒険』の第三部でも主人公は星をモチーフにしたキャラだったし、星がキングでいいんじゃないの」
「そうだな」
星は正位置だと『希望』、逆位置だと『絶望』を意味する。
主人公ポジションの似合うキャラだ。
「対等の条件でゲームをするために初期配置では両プレイヤーともタロットの上下を統一してたが、これもプレイヤーが最初に自分のデッキを占う方式にしたほうがいいのかもしれん」
「占い結果で初期戦力がぜんぜん違うわけね」
「ああ」
1最初に両プレイヤーはタロットで自分の駒を占う。
2占いで出たタロットと駒の上下をそろえて配置する(両プレイヤーは別々にタロット占いをするので、駒の向きは全然違うものになる)。
「持ち駒制度ありでプレイする場合、持ち駒の上下も占いで決めてもいい」
このあたりは選択ルールだ。
実力勝負ならなし、運要素を強めたいのならありだろう。
運が悪いと初期配置でほぼ負けが確定してしまうかもしれない。
今回は占い多めで行くことにする。
イラストもそろえなければならないので、プレイするのに時間がかかりそうだ。
「何か食いながら作業しよう。なにがいい?」
「紅茶とライスとソースとシャケ」
「……お前は何を言ってるんだ」
「徐々6部に出てきたでしょ。『自分を変えるために、今までとは逆のことをする』ってやつ」
「あー、『ブタの反対はシャケだぜ』か」
「そうそう、それそれ」
ブタはゴロゴロしているが、シャケは流れに逆らって川をのぼるかららしい。
ちなみにコーヒーの反対が紅茶、パンはライス、塩はソースだ。
『ブタの反対はシャケだぜ』は刑務所の配膳係のセリフである。
「シャケにソースかけるのか?」
「う……。じゃあ目玉焼きでシャケ定食にするわ」
「それが無難だな」
紅茶はキーマンにしよう。
シャケと相性がよく、
「これ、お茶漬けにしても美味しいわね」
「渋みが出ないように淹れたからな」
三つ葉とゴマはお好みで。
『徐々定食』として売り出すのも悪くないかもしれない。
「……やっぱり駒が多いな」
「戦況を把握するのも一苦労ね」
駒の数が多い上に、敵味方で駒の上下が違うので動きを把握しづらい。
さらにここにタロットによる占いや、持ち駒も加わると厄介極まりない。
もっとシンプルなルールでやるべきだった。
「太陽を敵味方同時に占う」
「は? 敵も味方も同じ位置になるんでしょ。それ意味ある?」
「おおありだ。太陽は火鬼みたいに周りの駒を敵味方関係なく殺す駒。正位置にした時点で周りの駒は死ぬからな。こちらの太陽を孤立させておけば被害はない」
「ああ!?」
かなり特殊なシチュエーションではあるが、同時に占うことで自分を強化しつつ敵を崩すこともできるのだ。
「それならこっちは恋人を占うまでよ!」
叫びながらドローする。
「やった、逆位置。これをあんたのラヴァーズに適用!」
「なに、引いた後にどっちに使うか決めたのか」
「『タロットをどちらに使うか宣言してから引く』なんてルールは設定してないでしょ」
「ちっ」
前に俺が違うゲームでやった技の応用だ。
余計なことばかり学習する。
しぶしぶラヴァーズを逆位置にした。
それはつまり、
「恋愛運が下がったぞ」
「ええ!?」




