バックギャモン将棋セット【クロカンブッシュとミルクティー】
「オールドチェスとバックギャモンをフュージョンしまショー!」
「古将棋とギャモンの融合?」
「飛将で進行方向にいる駒を全部取れるとか、火鬼で周囲にいる駒を燃やせるってこと?」
「いえす」
「……その発想はなかった」
「将棋とは機動力が違いますね。将棋では機動力のない駒も、バックギャモンならサイコロの目の数だけ移動できますし」
「つまり機動力より能力が重要ってことね」
「ブロックポイントはどういう扱いなんだ?」
「基本的にブロックポイントの駒は取れまセン」
バックギャモンでは1つのマスに2枚以上の駒がいる場所を『ブロックポイント』と呼び、相手の駒を取ることができない。
バックギャモン
駒を取ることができるのは1マスに1枚の駒しかいない『ブロット』だけだ。
取られた駒は振出しに戻るので、持ち駒にすることはできない。
これに古将棋のルールを適用することになる。
たとえば飛将は進行方向にいるブロットの駒を敵味方関係なく皆殺しにする駒。
だが自分と同格の駒を取るとそこで動きが止まるし、自分より格上の駒は取れない。
「飛将だとブロックポイントの駒は取れないのよね?」
「そーデスね」
「火鬼も自分の周囲8マスにいる駒を敵味方関係なく皆殺しにする駒だが、さすがにブロックポイントは燃やせないだろ」
強くなっている駒もあれば、弱くなっている駒もある。
ギャモン将棋ならではの強い駒もありそうだ。
「二歩はありデスか?」
「禁止にするのが妥当だと思います。歩だけではブロックポイントを作れません」
他の駒の能力も設定していく。
獅子はゾロ目でなくても2倍動ける。
天狗も獅子のようにゾロ目でなくても2倍動けるものの、一手目で相手の駒を取るとそこで動きが止まってしまう。
ゾロ目の場合は獅子と天狗は4倍動ける。
砲は自分の前後5マス以内にいるブロットの駒を殺せる。
「鼓の扱いが難しいな。鼓を取られると歩は前に進めなくなる。ただギャモンではそもそも、駒が振り出しにいるときは他の駒を動かせない」
振り出しはいわば0マス。
振り出し(0マス)に戻された駒は1~6マスに戻らないと、他の駒を動かすことはできない。
鼓の能力は歩限定だが、バックギャモンのルールでは鼓の駒がなくても、相手の駒を振り出しに戻せばすべての駒が行動不能になる。
振り出しの駒をボードに戻すことを『エンター』、ボードへ戻せずに一回休みになることを『ダンス』と呼ぶ。
「将棋っぽいルールにしたほうがいいかもしれませんね。鼓を振り出しに戻されたら、エンターしないと歩の駒は動けない。玉を振り出しに戻されたら、エンターしないとすべての駒が動けない」
「ないすあいであ」
「鼓と玉をいかにヒットするかが重要になるわけか」
鼓と玉をヒットし続けることができれば、大幅に進行を遅らせることができるだろう。
「あとは駒の配置だ。ゲーム性が違うから、ギャモンと同じにするわけにはいかない」
「プレイヤーが自由でセットできるようにしまショー」
「じゃあ白側は黒のインナーボードとアウターボードに、黒側は白のインナーとアウターな」
「いえっさー」
「バックギャモンより派手に駒が死ぬから、勝利条件も変えたほうがいいんじゃないの?」
「たとえば?」
「先に既定の枚数をゴールさせたプレイヤーの勝ちとか」
「では7枚にしましょう」
古将棋の能力があるのでギャモンより駒を取られやすいから、15枚全部ゴールするのは難しい。
7枚は妥当な勝利条件だろう。
『必ず玉をゴールさせないといけない』ルールにしてもいい。
7枚先にゴールさせても、玉がゴールしていなければゴールとは認められないわけだ。
「バックギャモンはポイントマッチですから、ポイントの代わりに碁石の奪い合いにしてもいいかもしれませんね。たとえばお互いに碁石を5つ持ち、相手の碁石をすべて奪えば勝ちです」
「碁石にする必要ある?」
「昔は囲碁・将棋・盤双六を三盤と呼んでいました。江戸時代では嫁入り道具だったんですよ?」
「嫁入り!?」
「なるほど、ギャモン・将棋・囲碁をセットにしてゲーマー嫁入り道具として売り出すと」
「そういうことです」
「ないすあいであ」
「なにそれほしい!」
結婚式の引き出物カタログにも、最近はボードゲームが載っている。
だから三盤を嫁入り道具にするのも、決して時代錯誤というわけではないのだ。
「うちの店で結婚式を開けば完璧だな。ケーキはクロカンブッシュだ」
「くろかん?」
「プチシュークリームを高く積むフランスのウェディングケーキだ」
「なんでそれを結婚式で作るの?」
「フレンチでシューはキャベツという意味デス」
「赤ん坊はキャベツから産まれる。つまり子孫繁栄という意味ですね」
「へー。でもシュークリームをそんなに高く積めるの?」
「カラメルやアメ、生クリームで固めながら積むから大丈夫だ」
「おいしそう」
「お茶は無難にウバやアッサムのミルクティーだな」
客が多いのならジャスミンティーや煎茶、モカも用意しておきたい。
紅茶でも日本茶でもハーブティーでもコーヒーでもいける。
手軽に作れるので、ちょっとしたパーティーにもオススメだ。
「じゃあ実際に並べて対局してみましょう」
「はーい」
プチシュークリームをつまみながら、各自好きな場所に駒を配置して対局開始。
「これでどう!?」
歩歩歩歩歩歩歩
鼓玉水砲獅飛天歩
掟破りの7連続ブロックポイント。
いわゆる『プライム』だ。
駒は一度に6マスしか進めないので、こうなるとこちらは前に進めない。
「……まあ、やるんじゃないかと思ってたよ」
「くれいじー」
「ふふん」
プライムはバックギャモンでも定番の作戦だが、初期配置を自由に決められるこのゲームではいきなりこの形を作れてしまう。
だが二歩があるし、必ずどこかでプライムは崩れる。
「ヒットだ!」
「ぎゃー!?」
ブロットを確実に狙っていく。
「……砲が地味に強いわね」
「だな」
古将棋では斜め1マスにしか動けない駒なのに、バックギャモンではサイコロの目の数だけ動けるので欠点がない。
しかも砲を動かした後、5マス以内にいるブロットを射殺できる。
倒したい駒を高確率で倒せるのでかなり便利だ。
「バックギャモンよりブロックポイントが重要だな」
ちゃんとブロックポイントを作らないと、お互いに駒を殺し続けることになってなかなか終わらない。
「火鬼でエンターを阻止!」
「ぐ、邪魔だな。でもブロックポイントを作れないから簡単に倒せるし、自分のゴールの邪魔になるだろそれ」
「え」
「火鬼は味方も殺してしまう上に、最低でもゴールの2マスが使い物にならなくなるだろ」
「ああ!?」
火
654321
※火鬼のいるところにはブロックポイントを作れない
しかもゴールであるインナーボードの場合、火鬼を先行させると3マスがゴール不能になる
「自分の周りにいる駒を無条件で燃やすわけだから、火鬼のいる場所にブロックポイントは作れない。先にブロックポイントを作ってから火鬼を移動させるべきだったな」
「うう……」
火
〇
〇
654321
※すでにブロックポイントがある場所なら火鬼を移動させることができる
この状態でも火鬼の能力は発動するので、周りに移動してきた駒も燃えて死ぬ
火鬼は攻防一体の駒。
使いこなせばこれほど怖い駒はない。
……あくまで使いこなせればの話だが。




