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野球ゲームセット【ポップコーンとトウモロコシ茶】

参考ゲーム

実況パワフルプロ野球

パワプロくんポケット


「『ぱわメモ』出ないから『ときプロ』やるしかないのかしら」


「ときプロって『実況ときめきプロ野球』か? 野球ゲームだろ、これ」

「『プロセスモード』にぱわメモのシステムが使われてるのよ」

「ん、たしかに同じだな」

 オリジナルキャラを育成できるプロセスモードに表示されているパラメータは、完全にぱわメモのパラメータを野球に置き換えたものだった。


「『野球もできるギャルゲー』の称号は伊達じゃないわよ!」


「……野球をおまけにするな」

「それぐらいクオリティ高いの。特に携帯機版の『ときプロくんポケット』はシナリオ重視で、キャラが二頭身じゃなければ普通にギャルゲーとして売れるレベルだし」

「へぇ」

 『ときプロくん』はマスコットキャラとしては優秀なデザインではあるが、いかんせんビジュアル重視の恋愛ゲームとの相性があまりよくない。

 まあ、メインターゲットである野球好きは恋愛ゲームをやるのは恥ずかしがると思うので、このデザインで正解だろう。

「ん、シナリオは1つじゃないんだな」


「高校・大学・社会人・プロ・メジャー・草野球みたいに、年齢・職業ごとに分かれてる感じね」


 しかもシナリオごとに攻略できるヒロインも違う。

 想像以上に作りこまれているようだ。

 とりあえずチュートリアルらしき高校編を選び、選手タイプを決める。

 よくわからないのでその辺は適当にした。

 舞台は地方の弱小高校。

 甲子園出場を目指し、活躍してプロになるのが目的らしい。

 地道にパラメータを上げていく。

 ぱわメモと違うのは『故障率』があることだ。


 体力が減っているほど故障率は上がり、怪我をしてしまうらしい。


「守備練習7%か。まあ、大丈夫だろ」

 そうタカをくくったのが運の尽き。


『アキレス腱断裂』


「うああ!?」

「ときプロの7%は30%よ」

「なんだその計算は!?」

「噂によると%表示は練習前の数値をもとに計算されたもので、実際の故障率は練習後の数値で判定されてるんだとか」

「マジかよ」

「ちなみにストレッチでも故障するわよ」

 虚弱体質すぎる。

 入院中は赤点対策の勉強と女子マネージャーの好感度を上げることに集中し、数ヶ月で戦線に復帰した。

 また地道にパラメータを上げていく。


 好感度(このゲームでは評価度)は女子マネだけでなく、監督やコーチ、チームメイトにも存在していた。


 監督コーチの好感度が高ければ、パラメータが低くてもレギュラー選手として試合に出れる可能性が高くなるようだ。

 逆に好感度が低いとパラメータが高くても試合に出してもらえず、チームメイトにも悪評を流されて退部(もしくは退学)させられてしまう。

「なぜか周りに嫌われてると事故に会う確率も上がるのよね」

「……それは事故じゃない」

 恐すぎるだろ、このゲーム。


 ただバッティング練習や試合は普通の野球なので、ぱわメモよりもゲームとして面白い。


 特にバッティング。

 画面上にストライクゾーンが表示され、キャッチャーのミットの動きを参考にどこへボールが投げられるか予測し(ピッチングをする場合はキャッチャーのミットを動かしてどこへボールを投げるか決めるシステム)、素早くポイントを合わせてバットを振る。

 キャッチャーは投げるコースを見破られないよう、ミットを上下左右に動かして幻惑してくるため難易度は高いが、上手くヒットを打てれば快感だ。

 ……変化球はさっぱり打てないが。


『西を甲子園に連れてって』


 2年目は順調にマネージャーと恋人同士になり、3年目には晴れて甲子園にも出場。

 甲子園は初戦で敗退したが、これでプロになれる可能性は上がったはずだ。

 そして運命のドラフト会議。


『指名は以上です』


「げ」

 プロ球団から指名はこなかった。

 しかも、


『がっかりしたわ』


 プロになれなかったことで、ミーハーな彼女には振られてしまう始末。

「……なんだこの鬱展開」

「現実は残酷なの」

「ゲームだ!」

 しかしプレイ感覚はつかめた。

 次はうまくやる。

 ……ただマネージャーの顔は二度と見たくないので別のシナリオを選択した。


『夢の球場』


 タイトルからしてアメリカの名作野球映画のパロディらしい。

 舞台は1945年。

 戦争が終わり、空襲で焼け野原になった東京が舞台だ。

 主人公は徴兵されていたプロ野球選手で、翌年の公式戦ペナントレース出場を目指すことになる。

 市内大会(という名の闇市大会)や米軍との日米野球など、珍しいシチュエーションの大会が多い。


「現代の選手より平均球速が遅いし、変化球のバリエーションも少ないから余裕だな」


 ……そう思っていたのが甘かった。


ぐんっ


「なっ!?」

 ボールが見たことのない変化をする。

 いや、見たことはあるのだが、このスピードでこういう変化をするのは初めて見た。

「高速ナックル!?」


「正確にいうと『スピットボール』と『エメリーボール』ね」


「反則だろうが!」

「おおらかな時代だったのよ」

 ボールに唾液やマツヤニ、ワセリンを塗る反則投球だ。

 不規則な変化をする140キロ前後の変化球は、キャッチャーですら捕球困難。

 そんなボールを打てるわけがない。


 ストライクとボールの見極めが重要だ。


 ボール球は確実に見送り、あまり変化しない球を確実に叩く。

 だが2ストライクから思い切って振りにいくのもありだろう。

 なぜなら、


「振り逃げ!」


 ワンバウンドするとキャッチャーがボールを捕れないからだ。

 三振した時にキャッチャーがボールを捕れなければ振り逃げになる。

 そして相手が振り逃げを警戒していた場合、

「甘い!」


カキン!


 2ストライクになると縦の変化が減り、打ちやすくなる。

 もちろんランナーがいる場合も進塁されるのを恐れて縦の変化が減る。

 決して攻略できない相手ではない。


『ゲームセット!』


 苦戦しながらも確実に勝利を積み重ね、パラメータを上げていく。

 すると、


『近頃、軍人さんの幽霊が出るらしい』


 メインシナリオが始まった。

 元ネタの映画はトウモロコシ畑を切り開いて野球をするので、ポップコーンとトウモロコシ茶で一服しつつストーリーを進める。

 幽霊騒動を取材しているのは『富良野』という記者だった。

 富良野によるとさまよう軍人の霊は一人ではなく、どの霊も『家はどこだ』と家に帰ろうとしているという。

 空襲で東京の地形が変わったので家がわからなくなったと思い、その軍人の実家を突き止めて案内するのだが、


『家はどこだ』


 幽霊たちは謎の家を探し求めて夜の東京をさ迷い歩いているという。

「つまり『家』の意味が違うってことだな」

「気づいたみたいね」


「そりゃ野球ゲームだからな。戦時中は敵性言語として英語の使用を自粛していた。つまり家っていうのは野球でいうホームだ!」


 軍人の正体は戦死した野球選手たちだった。

 『職業野球は沢村が投げ、景浦が打って始まった』というのは有名な言葉だが、沢村栄治も景浦将も戦死している。

 幽霊騒動を取材していた記者の富良野は、神風特攻隊の石丸進一(戦前最後のノーヒットノーラン投手)の最後のキャッチボールにも立ち会っており、石丸は「これでもう思い残すことはない」とグラブを置いて笑顔で出撃したという。

 富良野たちは幽霊を成仏させるため、プロ野球や大学野球(当時はプロより大学のほうが人気があった)、バンクーバー朝日軍(カナダで活躍した日系アマチュア球団)などを招集。

 そしてGHQに接収されていた『ステイト・サイド・パーク』いわゆる『神宮球場』で試合を開催する。

 明治神宮の宮司の力によって幽霊が集められ、前代未聞の幽霊試合が始まった。

 相手ピッチャーは沢村栄治。

 若干17歳でベーブ・ルース率いるメジャーリーグオールスター相手に8回9奪三振1失点の好投。

 その後もプロとして大活躍した速球派のピッチャーだが、


「アンダースロー!?」


「戦争で手榴弾投げすぎて肩を壊したのよ」

 肩を壊してサイドスローになり、それでも手榴弾を投げ続けてアンダースローになったという。

 幽霊化した沢村栄治には体の故障もなく、オーバースロー・サイドスロー・アンダースローを自在に使い分けて投球してくる。

 球種こそストレートとドロップ(縦に落ちるカーブ)の2種類だが、サイドスローでもノーヒットノーランを達成しているだけあって打ちにくい。

 両軍ともに相手ピッチャーを打ちあぐね、一進一退の攻防が続く。

 そしてラッキー7。

「ん、外国人?」

 イベントが発生して外国人選手がバッターボックスに入った。


「ルー・ゲーリッグ!?」


 例のメジャーリーグオールスターの一員として来日し、沢村のドロップをとらえてホームランを打った選手だ。

 そして1941年、筋萎縮性側索硬化症いわゆる『ルー・ゲーリッグ病』で亡くなったという。

 戦争と病気という違いはあれど、もう一度野球がしたいという気持ちは同じということだ。

 病気がなければ3000安打500ホームランを達成できていたほどのバッターだけあって、スイングは鋭く力強い。


 しかしどれだけ選手がすごくても、操作するのは俺だ。


「くそ、打てん!」

 160キロ近いストレートや変幻自在の投球フォームに翻弄され、歯が立たない。

 せめて次に来る球種さえわかればと考えたところで、ピンと閃いた。

「ここだ!」

 沢村がボールを投げる瞬間、バッターボックスの一番前まで踏み込みフルスイング。

 予想通り球種はドロップ。

 タイミングは完璧、


グワァラゴワガキーン!


 すさまじい打球音とともに、ボールはレフトスタンドに飛び込んだ。

「よし!」

「よくドロップがくるってわかったわね」


「日米野球でゲーリッグにホームランを打たれたのがドロップなんだろ。なら決め球はドロップに決まってる」


 以前やられた球で相手を打ち取る。

 それがピッチャー心理だ。

 だからバッターボックスの一番前まで踏み込み、ドロップが縦に落ちる前にボールを叩く。

 完璧な一発だった。

 結局、日米野球と同じくこの一発が決勝点になってゲームセット。


 幽霊たちは次々とダイヤモンドを一周し、『ホーム』を踏んで成仏した。


 勝ち負けは関係ない。

 ただ全員野球がしたかったのだ。


『I consider myself the luckiest man on the face of the earth』


 有名な『私は地球上で一番幸せな男だ』というスピーチとともに殊勲打のゲーリッグも成仏する。

 なおこの試合を観戦していた記者の富良野はのちに歴史作家『岡山荘八』となり、徳川家康や伊達政宗は大河なドラマ化されたという。

「想像以上にシナリオに力入ってるな」

 これなら他のシナリオも楽しめるだろう。

 次はピッチャーを育てることにして、他のシナリオを選択。


『我々は野球星人だ。地球で一番強いチームを出せ』


「は?」

「これぞときポケね」

「……まるで意味が分からんぞ」

「幽霊が出てきたんだから野球星人だって出てくるでしょ」

「出ねえよ!」

「忍者と未来人とハイパーベースボールサイボーグもいるわよ」

 もう何でもアリだ。

 しかも全14作なのに、シリーズのシナリオは全部繋がっているらしい。


「『野球はすべてを解決する』!」


 野球とはいったい。


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